麗子と2人、朝方まで眠れなかった。
他愛もない昔話や好きな本や映画の話、徹の愚痴まで言い合って過ごした。
肌を寄せ合い、共に横になるだけでいい。
麗子の気配がそこにあるだけで、俺は幸せだった。
「もう、どこにも行くな」
強情な彼女は秘書に戻るとは言ってくれないが、「もう逃げない」と約束してくれた。
今はそれで十分だ。
ゆっくりと時間をかけて近づいていければいい。
昼過ぎになってやっと起き出した俺は、会社へ向かうことにした。
「行ってきます」
元々今日は帰国予定の日だったから、重要なスケジュールは入れていない。
せっかくだから麗子と2人ゆっくりすごそうかなと思ったりもしたが、やはり仕事のことが気になった。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
玄関まで見送ってくれる麗子。
フフフ。
なんだかうれしいな。
思わずニヤケてしまいそうなのを必死にこらえる。
麗子の隠れていたマンションは都心にあって、会社までも地下鉄で数駅。
行こうと思えば自転車でも行ける距離だ。
いっそのことこの辺りにマンションを買おうかな?
そうすれば毎日麗子と過ごせる。
30前にもなって実家暮らしっていうのも色々不便だし。
この時、俺は浮かれていた。
麗子と気持ちが通じたことで、明るい未来が待っていると楽天的に考えていた。
***
トントン。
「今日は休めば良かったのに、出てきたのか?」
呼んでもないのに、ノックの返事を待つこともなく入ってきた徹。
「昨日はすまなかったな」
言いたいこともあるが、まずはそう言うべきだろうと思えて、頭を下げた。
「いいさ、貸し1つだ」
「はあ?」
きっと冗談なんだろうが、笑えない。
「あいつと話せたのか?」
「ああ」
「で、どうするんだ?」
「どんなに説得しても、秘書に戻る気はないらしい」
「諦めるのか?」
「いや、気長に説得する。麗子がいなくなれば俺の仕事に影響が出るから」
「だろうな」
フン。
俺だって彼女の有能さは分かっている。
今さら手放す気はない。
「それで、お前達は別れるのか?」
「・・・」
随分あっさり言われて、答えに詰まった。
「そんな訳ないわな」
「ああ」
「ハハハ。お前が女を追いかけて仕事を切り上げて帰ってくるなんて」
おかしそうに俺を見る徹。
「悪かったな、勝手に笑っていろ」
普段なら絶対にこんな事は言わせないが、今はしかたがない。
徹には醜態をさらしてしまったし。
「それで、あいつは今どうしているんだ?」
「ばあさんが管理しているマンションに隠れている。夕飯を用意しておくって言っていたから、お前も来るか?」
「いいよ。お邪魔虫にはなりたくない」
「そうか?」
きっと喜ぶと思うがな。
***
「そう言えば、麗子が河野副社長と東西銀行について調べているんだが」
今朝も、その件で徹に聞きたいことがあると言っていた。
「孝太郎、それは・・・」
徹の顔色が変わる。
「何だ?何かあるのか?」
「ああ」
チラチラと辺りを見回し、徹が声を潜めた。
どうも様子がおかしい。
「徹?」
「どうやら、不正が行われている可能性があるんだ」
「不正?」
「そうだ。それがいつどんな方法なのかはまだ調べがついていないが、東西銀行からの融資がやたらと増えているのも気になっているし、その資金を使って河野副社長が進めている事業にも怪しい点が多い。どうやら帳簿の操作をしているんじゃないかと思うんだ」
「帳簿の操作?そんな・・・うちの会計監査はどうなっているんだ?」
街の個人商店じゃあるまいし、そう簡単にできるはずがないだろう。
「ここ数年で河野副社長がすすめた新規の事業は、相手企業との交渉から資金の調達まですべて自分で準備していた。完全に河野副社長の1人仕事であれば、第三者の目は届きにくい」
「しかし、」
「もちろん監査は通常通り行われているし、俺も確認したが一見怪しいところはない。しかし、あの人はこの道のプロだ。何か抜け道があるんじゃないかと、俺も気になっていたんだ」
嘘だろ。
いくら何でもそんな事まで・・・
「とにかく、注意した方がいい。麗子が突っ走ると危ないぞ」
「そうだな」
気をつけた方が良さそうだ。
***
夕方、元から出勤予定でなかった俺は、早めの時間に会社を出た。
いつもなら家の車に乗って帰るところを、会社に置いていた自分の車を運転して帰る。
さっきから、帰宅時間を確認する母さんからのメールが鳴り止まないが、今は無視だ。
さあ、麗子の家に帰ろう。
夕食が楽しみだな。
「ただいま」
「お帰りなさい」
ゆったりとしたワンピースにエプロン姿の麗子が、玄関まで出てきた。
うぅーん。
どんな物を着てもかわいいのは、美人の特権だと思う。
「お腹すいた」
自分の動揺を誤魔化すように、キッチンを覗き込む。
「今日はブリの照り焼きと肉じゃがと、きゅうりの梅肉和えよ」
「へー、旨そう」
昨日まで海外だったから、和食が嬉しい。
「昨日居酒屋で食べたきゅうりが美味しくて、挑戦したの」
「ふーん」
昨日、居酒屋に行ったんだ。
俺は必死に連絡をしていたのに。
「どうかした?」
俺の顔色が変わったのが、分かったらしい。
「居酒屋、誰と行ったんだよ」
「それは・・・」
麗子の困った顔。
「言えないのか?」
ジリッジリッと近づくと、後退りした麗子が背中を壁にぶつけて止まった。
「誰といたんだ?」
低く冷たい声で追い詰める今の俺は、麗子にどう写っているのだろう。
きっと、嫉妬深くて、ちっぽけな男に見えている事だろうな。
「もう、営業の高田くんと、鈴木さんと一緒だったのよ」
「え?」
予想外の返事に、ポカンと口が開いた。
「何で?」
高田とも一華とも、取り立てて親しいわけではないはずだが・・・
「たまたま街で出会って、誘われたの」
「ふーん」
納得したわけではないが、まあいい。
これ以上言って薮蛇になっても困る。
「とにかく飯にしよう。お腹すいた」
***
「旨いな、このキュウリ」
「そお?良かった」
うれしそうにキュウリに箸を延ばす麗子。
こうして見ると、美人で料理上手で頭も良くて完璧な女性なんだがなぁ。
その時、チラッと目に入った書類の山。
きっと、河野副社長についてのものだと思う。
麗子は相当恨んでいるようだし、1日かけて調べていたんだろう。
昨日見たときよりも、随分と書類の山が高くなっている。
「ずっと調べていたのか?」
甘辛く味付けされた絶品のぶりを頬張りながら、さりげなく振ってみた。
「他にすることもなかったしね」
「暇なら秘書に戻ってくれ」
それでなくても、俺は1人でてんてこ舞いなんだ。
麗子がいないと仕事がはかどらない。
「孝太郎、しつこい」
ギロッと睨まれた。
フン。
どんなに断られたって、俺は諦めない。
こう見えて執念深いんだ。
「そう言えばね、河野副社長がここ数年で契約した新規の取引先が気になるのよ」
「え?」
いきなり仕事の話になって、俺の箸が止った。
「どこも大手ではなくて中堅企業で、もちろん経営は安定しているんだけれど・・・」
麗子が言いよどんだ。
「何だよ」
「うん。河野副社長の関係者がやたらと多いの」
「関係者?」
「うん。甥とか、姪とか、友人とか、友人の子とか。中には奥さんの実家が経営している会社まであるの」
「それは・・・」
確かに胡散臭いな。
でも、それなら契約の時点で俺の耳に入ってきそうなものだが。
そんな話は全く聞いていない。
「私もね、随分調べてやっと分かったの。でも、そこまで隠しているって事が余計に怪しいと思わない?」
「そう、だな」
怪しさ満載だ。でも、危なさも感じる。
「見ていなさい。今度こそきっちり証拠を見つけて、河野副社長の化けの皮をはぎ取ってやるわ」
持っていたグラスをトンと置いて、ギュッと握り拳を作った麗子。
「オイ、危ないまねするんじゃないぞ」
「大丈夫よ」
ニコッ。
嘘だ。お前のその笑顔が一番怪しい。
「何かあったらまず俺に言うんだぞ」
「はい」
「絶対だからな」
「もう、分かってるって」
この時の俺は、麗子の行動力を甘く見ていた。
無鉄砲で猪突猛進な氷の美女が、おとなしくしているはずなんてなかった。
***
翌日も、俺は仕事に追われていた。
自分で思っていた以上に麗子の抜けた穴は大きくて、仕事が全くはかどらない。
「ねえ、この書類も頼んだデータも間違いばっかりじゃないか」
会議の直前になって頼んだ書類に間違いがあることに気づいた俺は、秘書室に駆け込んだ。
「申し訳ありません、再度確認します」
うなだれる秘書達。
しかし、そんなことを言っている時間はないんだ。
あと15分もすれば会議は始まるし、こんなデータでは仕事にならない。
「もういい、自分でするから。会議を30分遅らせるように伝えてくれ」
「でも、それでは後のスケジュールに」
言いかけた秘書を、俺は思いきり睨んだ。
「そう思うなら、きちんとした仕事をしてくれ。青井君はどんなに忙しくても、ミスのない仕事をしてくれた。よってたかって文句を言う暇があるなら、自分の仕事に責任を持ってくれ」
「・・・」
秘書達は泣きそうな顔で俺を見ている。
でも今の俺にはそんなことにかまっている余裕はない。
麗子がいない分ただでさえ俺は忙しいんだ。
これ以上足を引っ張らないで欲しい。
「会議は30分遅らせてくれ。それに伴ってのスケジュール調整は、任せる。さあ時間がないんだ、テキパキ動いてくれ」
言いたいことだけ言って、俺は秘書室を出た。
ったく、麗子がいなくなって彼女の有能さが身に染みた。
それまで秘書課の女性達とどうやって仕事をしてきたのか思い出せないくらいだ。
こうなったら、どんなことをしてでも麗子を連れ戻そう。
そうでなければ、俺の仕事が立ちゆかない。
***
ピコン。
会議を遅らせて資料のデータを最終確認しているとき、携帯に麗子からのメッセージが届いた。
『孝太郎、とうとう証拠を見つけられそうよ。今度こそ、河野副社長を糾弾できると思うわ。そのためにも、もう少し探ってみるから。良い報告を楽しみにしてね』
文面からも楽しそうな様子がうかがえる。
『麗子、無茶するな。後でゆっくり聞くから、もう何もするんじゃない』
『大丈夫、心配しないで。私は夕方から少し出かけます。遅くならないうちには帰るつもりだから、孝太郎もお仕事がんばってね』
危ないなあ、無茶をしなければいいが。
トントン。
「専務、お時間です」
「はい」
時間さえあれば、今すぐにでも麗子の所に行きたい。
でも、責任ある仕事をしている以上わがままばかり言っているわけにもいかない。
分かってはいるんだが・・・
こんな日に限って、スケジュールはドンドン遅れていった。
昼食を食べる時間も、座って息をつく暇もないくらい忙しくて、麗子のことを思い出す余裕さえなかった。
夕方近くになりやっと麗子に電話をかけてみるが、
「なんだ繋がらないのか」
麗子は電話に出てくれない。
出かけるって言っていたし、外出すれば電話に出られないこともあるだろう。
この時の俺は、その程度にしか考えていなかった。
***
その日1日スケジュールに追われ忙しく過ごした俺は、外が暗くなってからやっと息をつくことができた。
時刻は夜の8時。
さすがに麗子だってもう帰っていることだろう。
あいつのことだから、今日調べたことを喜々として報告してくれるはずだ。
「さぁ、帰るか」
俺は玲子の作る夕食を楽しみに帰り支度を始めた。
その時、
トントン。
「はい」
こんな時間に誰だろうと部屋の入り口を見た瞬間、意外な人物に俺は固まった。
「もう帰れるのか?」
「まあ。それより、どうしたんですか?」
そこにいたのは、父さんだった。
「母さんがさっきからやかましく連絡をしてくる。お前、昨日も帰ってないんだろ?どんなに忙しくても電話ぐらいはできるだろうが」
あー、忘れてた。昨日からひっきりなしに連絡が来ていたんだった。
28にもなって過保護だとは思うが、出張から帰ってくる俺を母さんも待っていたわけだ。
「どうした、何か都合が悪いのか?」
困ったなって顔をした俺を父さんが見ている。
普段母さんが過干渉な分、父さんはあまり子供に干渉してくる事は無い。
子供の頃からずっとそうだった。
だから、こんなふうに会社の中で声をかけられるのは本当に珍しい。
母さんがよっぽどうるさく言ったってことだ。
さぁ、どうしたものかな?
昨日一昨日と消息がつかめなかった俺のことを心配する母さんの気持ちもわからなくはないが、できることなら麗子のもとに帰りたい。
「よほどの用事がないのなら母さんに顔を見せてやれ」
「・・・わかりました」
父さんにここまで言われては、逆らうことはできない。
仕方ない今夜は家に帰るか。
麗子にはメールをしておこう。
きっと分かってくれるだろうから。
***
家に帰ると、母さんがうれしそうに出迎えてくれた。
「お帰りなさい、孝太郎」
「ただいま」
テーブルにはすでに旨そうな夕食が並んでいる。
きっと時間をかけて準備をしてくれたんだろうな。
「お帰り、お兄ちゃん」
妹の一華もすでに帰っていたらしい。
「ただいま。そう言えばお前、」
今日の会議で、「営業の鈴木と高田が商談をすっぽかして契約が延期になったらしい」って聞いたことを思い出して声を上げた。
「なによ」
一華の不満そうな顔。
「いい加減仕事を辞めたらどうだ?」
一華のことを無能と言うつもりはない。
女性としてはガッツもあるし、努力家の良い社員だと思う。
しかし、自分の妹となれば見方も変わってくる。
できれば早いうちに結婚して幸せになって欲しい。それが本心だ。
「お兄ちゃんも母さんもいつもそればっかり。何で私のことを認めてくれないの?女だから?それじゃあ、お兄ちゃんの秘書の青井さんはどうなるのよ、麗子さんにも仕事を辞めて結婚しろって勧めるの?」
よほど興奮しているのか、随分突飛なことを言う。
「今はお前の話をしているんだ。彼女は関係ないだろう。それに、いつからそんなに親しくなったんだよ」
会社の中で、一華が名前で呼び合うほど親しい女性は今までいなかった。
珍しいな。
「ほら、2人ともそんなところで言い合っていないで、食事にしましょう。せっかく作ったのに、冷めちゃうわ」
母さんの一言で夕食が始まった。
***
「そう言えば、青井さんって辞めたんじゃないの?」
俺と一華の会話に麗子の名前が出てきたのを聞いて、母さんが口を挟んできた。
「香山からは、休職の届けが出ていると聞いているが?」
すでに、父さんの耳にも入っているらしい。
「長期休暇だよ」
俺がそう報告したんだ。
母さんが辞めさせたがっているのは知っているが、俺は諦める気はない。
俺の秘書は麗子以外考えられないんだ。
「良いじゃない。麗子さんのこと、私は好きよ」
「え?」
俺は驚いて一華の方を振り向いた。
「だって、すごく綺麗だし、その上仕事もできるんでしょ?」
「まあな」
間違いなく優秀な秘書だ。
「素敵じゃない。あれだけ目立つ人だから色々言う人はいるかもしれないけれど、大半は単なる噂でしょ。私は、何を言われても堂々としている麗子さんのことをカッコイイと思うわ」
ふーん。
一華がこんな事言うなんて、意外だな。
「私は反対ですからね。青井さんの事好きにななれないわ」
それだけ言うと、空いた食器と共に母さんは台所に消えていた。
はあー、やっぱり麗子が逃出した原因は母さんか。
***
その晩、俺は何度も麗子に連絡を取った。
しかし、返事が来る事はなかった。
もしかして怒っているのか、それとも調べ物に夢中で俺など眼中にないのか、麗子の事だから後者かもしれない。
目を閉じていても、麗子の事が気になった。
でもさすがに家を抜け出すわけにもいかず、その日は自分のベッドで眠るしかなかった。
翌朝、
「お母さん、しばらく忙しくなりそうだから遅くなるときにはホテルを取るよ。その時はちゃんと連絡をするから」
「えぇー」
不満そうに俺を見る母さん。
しばらく何か言いたそうにしていたが、さっさと食事を始めてしまった俺にそれ以上言ってくる事はなかった。
心配性な母さんのことだからきっと文句があるんだろうが、仕事と言っておけば表だって反対はできないだろう。
とりあえずこれでしばらくは自由に麗子のところに行けるはずだと、ホッと胸をなで下ろした。
麗子は強くて自立した大人の女性だ。
俺がいなくても自分の意志で進んでいける人だ。
でも、だからこそ、この時俺はもっと心配するべきだった。
***
「専務、おはようございます。こちらが定例会議の資料です。本日は社長も出席される予定ですので、10時前には会議室へお願いいたします」
「はい」
せっかくいつもより早く家を出たのに、会社についてメールと海外市場の動向を確認していたらあっという間に時間が過ぎてしまった。
もちろん、何度も何度も麗子に連絡をしたが、携帯の電源が落とされているようで繋がることはなかった。
トントン。
「どうだ?麗子と連絡がとれたか?」
部屋に入ってきた徹が、心配そうな顔をしている。
「まだ連絡がつかない。きっとまたへそを曲げているんだろう。前科があるしな」
「そうか、なら良いんだが」
あいつのことだから大丈夫だと思うが、昨日から全く連絡が取れないのは確かに気になっている。
本当なら今すぐにでも探しに行きたいが、午前中の会議はどうしても抜けられないし、その後も会食や来客の予定があって夕方にならないと体が空きそうもない。
「午後の来客の予定を動かせないか調整してみるよ」
何も言わなくても徹が気持ちを察してくれたらしい。
「ありがとう」
さすが徹だ。本当に助かる。
そうしてもらえれば、午後には会社を抜けられる。
***
徹のお陰で昼過ぎに会社を出ることができた俺は、まず都心のマンションへと向かった。
そこは昨日の朝麗子と別れた場所。
麗子のばあさんが管理しているという分譲マンション。
何もなければ、昨日の夜もそこで俺を待っていてくれるはずだった。
ガチャッ。
昨日出かける時に、「入れ違いになるとイヤだから」とスペアキーを渡されていた俺は、すんなり部屋まで入ることができた。
しかし、そこに麗子の姿はなかった。
部屋の中も散らかった様子もなく、だからといって綺麗に整理整頓された感じでもない。
テーブルの上には調べていた資料が積まれているし、キッチンのシンクに使用済みのコーヒーカップが置いてある。
きっと、後から洗うつもりでキッチンまで持っていって出かけたんだろう。
俺が出かけるときに回っていた洗濯機の中も、乾いた洗濯物がそのままになっている。
それに、よほど急いで出かけたのかルームウエアがソファーにかけられていた。
最後のメールで『夕方から出かける』って行っていたから、その時かもしれない。
そうすると、丸一日帰っていないって事で・・・心配だな
***
とにかく落ち着けと時分自身に言い聞かせて、麗子の行きそうな所を考えてみた。
そんなに交友関係の広くなさそうな麗子だから、行くとしたらママの店か自宅マンション。そのくらいしかないと思う。
まずは1つずつ当たってみよう。
俺はその足で麗子の家に向かった。
ここに来るのは2度目。
隠れていたマンションに比べると小さくて、管理人が常駐しているわけでもなくセキュリティーだってあまい。
とはいえ、俺はここの鍵は持っていない。
誰にも止められることなく部屋の前までは来たが、
「さあ、どうするかな」
麗子がいてくれれば良いが、そうでなければ当然部屋には入れない。
ピンポーン。
チャイムをならしてみるが、やはり返事はない。
困ったなあと思いながら何気なくドアに手をかけたとき、
ガチャッ。
えええ?
開いた。
いや、開いていた。
そんなバカな。
俺は恐る恐るドアを開け中をのぞき込んだ。
「うわっ、嘘だろー」
そこはすごい状態。
一言で言えば嵐の後のようで、誰かに入られ荒らされた後だった。
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