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《バルザード十二世の手紙》
親愛なる我が息子、バルザード十三世へ。
王であり、父である私からお前に頼みがある。
どうか私から王位を譲り受けてはもらえないだろうか?
私には王たる資格がなかった。
私は少し疲れてしまったようだ。
食事が喉を通らなくなって久しい。
うまく眠りにつけなくなって久しい。
私は国と、友と、家族と、体調を鑑みて
ロカと一緒に王を退き、遠い異国の辺境で
穏やかに余生をすごそうと思う。
困ったことがあったらルーク•グリッツファー に頼みなさい。
あの男は私がもっとも信頼する 部下で、わが臣下で、そしてわが友だ。
最後にあらためて不甲斐ない父を許してほしい。
私は、ロカは、おまえに親として
ちゃんと愛情を与えてやれなかったと思う。
だがどうか、どうか世界に絶望しないでほしい。
世界は広い、お前を理解し、友となってくれるものはきっとあらわれる。
最後にこの手紙はロカにだけはどうか見せないでおくれ。
私はロカの前だけでは最後まで 良き夫でいたいのだ。
心より、息子であるお前とロカと、そして我が国を、愛している。
(手紙には涙の跡のようなものがあった。)
【全ては忠義のために】
円卓のうえに現国王バルザード十三世の
生首をおき、ルーク•グリッツファーは
懐中時計を見返した。
今のところわずかな誤算はあれどほとんどはルークの計算通りに手筈が進んでいた。
ルークの誤算は二つ、ギャンビットが
最後まで女王ロカの盾として軍のクーデター
を押さえていたこと。
女王ロカに捕えられて なお《シトラス王国の心臓》として ロカを守ろうとしたこと。
ギャンビットが最後に放った言葉
「クイーン•ギャンビット」
その暗号の意味は、
「王宮内に緊急事態発生、この号令を聴いたものはすべての業務を放棄し、命をとして陛下と 女王陛下を守れ。」
であった。これによりギャンビットの勇猛なる部下およそ1500人全てはロカを守るため軍事行動を 開始する。
だがルークもこのおよそ6年、何もして
こなかったわけではない。
王政内の人事配置を 操り円卓付近の衛兵達を全て私の手駒で固めることも、王の間者を懐柔し偽のクーデター 情報を掴ませることも、敵国の女王と密かに密談し秘密裏に兵を王宮内に送り込んでもらうことも そこまで難しいことではなかった。
現在のルークの戦力はおよそ1万6000人、
女王ロカの戦力はギャンビット兵もあわせて多く見積もって6000人。
さらにこの時間で お互いが同士討ちをしてせいぜん4500から 5000人。
それは勝敗を決するには十分すぎる戦力差であった。
当然、そこまでルークは読んでいた。
そう、全ては計画通り、だが油断はしない。
今日この場で完全に王族を根絶やし
今日この場で『悪政のロカ』を討ち滅ぼし
革命を完遂する。
ルークはバルザード十二世の彫刻が施された
義眼を嵌め直して、改めて誓う。
そう、全ては王の理想のため。
《争いを辞め、民を飢えから救い
身分の差に関わらず好きな人と結婚できる国》
にこの国を作り変えるため。
ルークは合理主義者なので、天国も、地獄も信じない。
だからルークは髪をオールバックに まとめ眼帯をし、剣に手をあてながら眼窩のバルザード十二世に誓う。
我が唯一の王、バルザード十二世様。
私の全ては、あなたへの忠義のために
《なぜルーク•グリッツファーは
王を殺したか?》
【ルーク•グリッツファーの独白】
陛下(十二世)は二度、私の心を裏切った。
一度目は、私の、国中の反対を押しきり
女王ロカという劇薬を王宮に向かいいれて
しまったこと。
二度目は、私や、臣下や、国中の民を置いて
無責任に王を辞めて逃げようとしたこと。
違う……….違う!!!!!!!!!!
私の敬愛する陛下はこんなことで折れるような 軟弱な男では断じてない!!!!!!!!!
陛下の政策は、理想は、間違ってなどない!!!!!
……間違ってなどッ……ないのだ……..!!!!!!!
私は、極めて合理的に、合理的に、合理的に
考えてそしてある合理的な結論にたどり着いた。
….あの男はもはや私の敬愛する王では
ない。
あの男は女王ロカに陥落され、他の男のように腑抜けてしまったのだ。
だからマカロンさんを利用して 最大限苦しまない方法で送ってやったのだ。
我が忠実なる拷問官、キャッスリングと
我が忠実なる部下にしてマカロンの弟子の
一人であるビショップ•チョコレイトを 利用してな。
【捕捉説明】
ここで、この物語のいくつかの謎を解いて
いこう。
なぜルークは何重ものチェックの目を掻い潜り《聖域》に手紙を仕込んだか。
それは、ルークの部下である拷問官のキャッスリングと ビショップ•チョコレイトの功績である。
ルークはキャッスリングと ビショップ•チョコレイトに《 安楽死計画》の手紙を《聖域》に仕込むように手配した。
そこでビショップ•チョコレイトは キャッスリングに体内に手紙を仕込む方法を 尋ねた。そしてキャッスリングはこれまで 拷問官として様々な人体を解剖してきた観点からある作戦を建てた。
それはビショップ•チョコレイトの女性器の
中に手紙を仕込み、複数のチェックを掻い潜る というものだ。
確かに素性の分からぬナイト•クラウンのようなものなら全身の穴という穴を調べつくされるかもしれない。
だが、ビショップ•チョコレイトは国中で
神聖視される《ビショップ》を関する 料理人である。
『そこは清らかなる領域なので自分で洗います。何でしょうか?女王陛下に変態がいると
言って処刑してもらいましょうか?』
とでも言っておけば衛兵達の厳しいチェックを 掻い潜れても不思議ではない。
こうしてビショップ•チョコレイトは
膣内に手紙を仕込み誰も居ないのを見計らい
山羊が子を産む要領で手紙を産み、《聖域》
とよばれる調理場の清らかな水で丁寧に洗い
タオルで拭いて調理棚に置いた。
ビショップ•チョコレイトが包みにヤギの皮を チョイスしたのにも当然理由がある。
ヤギの皮が持つ獣臭さで女性器特有の匂い
を誤魔化したのだ。
もし、マカロンが十全な状態であれば
そのとてつもなく優れた嗅覚でこの手紙を
運んだのがチョコレイトだと気づけたかもしれない。
しかしマカロンはバルザード十二世への献身的な介護及び食生活の改善、薬学の研究で
頭がいっぱいだった。
皮の獣くささに含まれる違和感に気づけなくても不思議でない。
仮に気付かれたとしてもチョコレイトは最悪
口を割らないために自決をしていただろう。
こうしてチョコレイトは見事にルークからの
任務に達成し、姉妹のような存在であった
ビショップ•キャンディーを見殺しにしてでも 女王ロカからの処刑を掻い潜り、今日の
式典の料理長を勤め上げるほどに女王ロカからの厚い信頼を得ることとなったのだ。
また、ギャンビットに毒を仕込んだのも
ルークの忠実なる部下、ビショップ•チョコレイトである。
いつ仕込んだか?
それは式典でチョコレイトが オードブルのサンドイッチを配膳してた時である。
ギャンビットはその時、女王ロカと、他の三人と、遠くの戦友たちに思いを馳せていた。
当然、チョコレイトのことは盲点だった。
ギャンビットは当然、食事に毒を盛られることを警戒した。
だからこそ、チョコレイトが 配膳の際悟られることなく首に暗殺用の細い針を指すことが出来た。
ギャンビットは痛みに 強い。言い換えれば痛みに鈍感なのでサボテンの針よりもはるかに細いチョコレイトの毒針に気づかなかったのだ。
当然、そこまでルークは読んでいた。
【解説終了】