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【登場人物】
青年: 自分の心に吹く「風(不安や変化)」に怯え、答えを求めて彷徨っている。
語り部(過去): ビルの屋上で街を見下ろす、どこか浮世離れした存在。その正体は青年自身の「過去」。
(舞台:夜明け前、ビルの屋上。冷たい風が吹き抜ける音)
語り部(M):
その風は、人が気付かぬうちに心の奥に吹き込む。風は人の内側から小さな力を少しずつ運びながら、静かに息づいている。
風が必要とするのは「その人の現実」だ。
現実を少しずつ受け入れることで、風は心の中で自由に舞う。
だから風を完全に止めようとするには、自分自身の現実を手放すような覚悟が必要になる。心が風に流されすぎると、人は現実の声に従いすぎて、自分らしさを忘れてしまう。
目には見えない風は、誰の心にもそっと存在している。
心に積み重ねてきた「現実」が風に取り込まれると、人は「空っぽ」になる。
つまり、現実という時間に飽きてしまうのだ。
飽きては新しいことに挑戦し、また飽きては次の刺激を求める——
その循環こそが、風に力を与える。
「なんともまあ、健気なことだ」
(語り部、腕を組んで街を見下ろしている。服が風にたなびく音)
語り部:
なんともまあ、健気なことだ。
(背後から、青年が近づいてくる)
青年:
……どうにかできないでしょうか?
(語り部、振り返らずに)
青年:
風が心に吹き込むのが怖くて、夜も眠れなくなったんです。噂を聞いて……ここまでたどり着きました。
(語り部、ゆっくりと手を胸に向けた)
語り部:
だったら、まず自分の今を受け入れることだ。
青年:
(驚き、胸元を押さえ目を閉じる)……っ。
(語り部、煙草の火を指で弾き、青年に向き直る)
語り部:
……。
青年:
(静寂のあと、小さく問いかける)……僕は、この風と向き合えるんでしょうか?
語り部:
(くくっと笑う)もう十分、ひとつの自分を受け入れたよ。あんたはきっと、自分の心に吹く風を味方にできる。
青年:
あなたがやってくれるんじゃ……?
語り部:
(煙草をくゆらせる)
俺は、あんたの“過去”だ。忘れたいと思えば薄れ、誇りたいと思えば光る。英雄じゃない。ただ、そう呼ばれ続けてきただけの存在さ。
(語り部、言葉をゆっくりと置く)
語り部:
風と仲良くなるには、自分が歩んできた道を認めること。そして、歩んできた道からも——認められることだ。
青年:
(息を呑む)——そうすれば。
語り部:
(煙草を深く吸い込み、青年を指さす)
“あんたの先”に、ちゃんと未来がひらけてくる。
(東の空に明星が瞬く。夜が明け始める気配)