《小テストの打ち上げ会、米津町のファミレスにて》
「あーあ、せっかくなら千代子ちゃんも来たらよかったのにー。」
恋原表裏一体は友達の千代子令子の話題を 出した。
千代子は家で焼き肉パーティーをするという名目でこの打ち上げを断っていた。
千代子令子のこの言葉は嘘である。
千代子令子は妖怪沢どろりを警戒していた 。
千代子令子はどろりと同じ《擬態型》の能力者である。
千代子令子は同じ《擬態型》の能力者という観点から どろりの凶悪な能力を察知し
なるべく関わらないことに決めていた。
そのため、嘘の予定をでっちあげ今回の打ち上げに参加しなかったのだ。
千代子令子が他人の秘密を暴く能力を持っているにも関わらず他人から反感を買い殺されなかったのは彼女のこの強い警戒心と
秘密主義の賜物であった。
「ってぇかさァー。どろりんって絶対
《擬態型》らよねー。どういう能力か教えてよー。」
自らの場酔いを引き起こす能力《頓珍漢の宴》を 使い酔っ払った酒池肉林はどろりの 胸の辺りをつんつんしながらそう言った。
この世界では能力を聞くことは恋バナや
天気の話題と同じくらいベタな話題だった。
林は恋原表裏一体の能力《裏表ラバーズ》で女の子にされたあげくツインテールにされ、されるがままに髪をみょんみょんされている哀れなどろりが触れた人間の存在を抹消する極めて凶悪な
能力を持っているとは夢にも思っていなかった。
もちろん、能力を隠して生きる《擬態型》の
どろりはこのような質問、常に想定しながら
生きてきた。
「それじゃあ、僕の能力を特別に見せてあげよう。 表裏一体、ちょっと500円玉を 貸してくれ。」
「何で?いいけど……。」
表裏一体はそうやって前衛的でファンシーなデザインの財布の中から500円玉を取り出しどろりに渡した。
「僕の能力はこうやって…….手の平に収まるほどの小さなものをどこかへ消してしまう
能力だ。」
どろりは手品を使って表裏一体の500円玉を
どこかへと消してしまった。
いわば場を和ませてその場を乗り切るための
ジョークであった。
「….ハッ!!ボクの500円玉返せーーー!!!!」
胸ぐらを掴みどろりをぐらぐら揺らしながら
表裏一体は怒った。
「…..これが、僕の能力《メルト》だ。」
体を思いっきり揺らされながらもどろりは
どや顔で言った。
「へーー!!!すげーー!!!どうやったんどうやったん!!?!!?」
と手品に感動した酔っ払いの林はどろりの
ほっぺをむにゅむにゅした。
「…..すごい、どろりくん手品上手だね。」
白雪ちゃんは素直に感心してた。
「……へぇ、中々の腕だね。是非我らが
《あそび研究部》に入部してほしいぐらいだよ。」
手品のタネがわかっていた能面組子は場を白けさせないようあえて
ここでは言わずにリップサービスをした。
「かーえーせーーーー!!!!!」
表裏一体はしばらくどろりの胸ぐらを掴んで
ぐらぐら揺らしていた。
《そんなこんなで雑談は続く》
「ねぇねぇ、知ってるー?☆二年の先輩の
シリアスブレイカー先輩とあるは先輩
付き合ってるらしいよー!!」
女子達はきゃぴきゃぴと噂話を始めていた。
どろりと海街は 会話には混ざらず最近はまってる 《ポケポケ》というソシャゲで対戦していた。
(根も葉もない噂を広めるのはよくない、
愚かしいことだ。)
どろりはそんな考えの持ち主だったからである。
「…….まじーー?いがーい!!え、え、どっちから告ったん!?」
酔っ払いの林は興味津々という風に話を
聞いていた。
シリアスブレイカーも栗毛色あるはも
米津高校の生徒の間ではちょっとした
有名人だったからだ。
実際にはシリアスブレイカーとあるはは
まだ付き合っていないが、そんなこと彼ら
彼女らが知るよしもなかった。
ついさっきロカ先生に元《制御不能型》で
あったあるはの話を聞いた白雪ちゃんはその話を チーズのかかったスパゲッティを食べながら 聞いていた。
(すごいなぁ、あるは先輩は。いつか話してみたいなぁ。私も……..私も変わりたい。)
そう思った白雪ちゃんは少しの勇気を
振り絞った。
「皆!!!あの…..ね。私皆に聞いてほしいことがあるの…..。空気….悪くしちゃうかも….
ごめんね……。あのね……..。
私ね、本当はロカ先生に自分の能力を壊してほしくて赤点取ったの
…….。でもね…..私は《制御不能型》で
能力は壊せなくて…..でもね、ロカ先生は
私を応援してくれて……あるは先輩みたいに
《制御不能型》から能力をコントロールできるようになった人もいるって聞いて……だから……私も…..私も頑張ろうと思う。ごめんね、急にこんな変なこと言って…….皆にはどうしても聞いて欲しかったの……。」
白雪ちゃんは真剣な顔でそう言った。
それを馬鹿にしたり嫌な顔をしたりする
人間はここにはいなかった。
「そっかぁ…..うん!!ボク応援するよー☆」
表裏一体は白雪ちゃんの手をとった。
「しょう言うことかー。どくりんが赤点なんてとるわけら~いと思ったんだよなー。」
林は《頓珍漢の宴》で更に酔いながら
白雪ちゃんに言った。
「……フッ、何か困ったことがあったら
言ってくれたまえ、友達として力になろう。」
組子はどこからかトランプを出しながら
無駄にかっこつけて言った。
「ボク達ボランティア部も微力ながら力になるよ。」
かなしいことが嫌いなどろりも心の底から
そう言って白雪ちゃんを応援した。
「……….。」
海街は黙って音楽を聴いていた。
どこまでも 空気の読めない男である。
「ありがとう…….。」
そう言って白雪ちゃんは嬉し涙を流した。
《まだまだ雑談は続く。》
どろりは仲間達と会話をしながら常に周囲を
警戒していた。
ボランティア部を結成する前から人間を溶かして消す能力《メルト》を使って悪者狩りを行っていたどろりにとって 周囲を警戒することは呼吸をすることに等しいほど自然な行為であった。
ふと、怪しい男二人がファミレスのトイレに行くのが見えた。
二人は何かを小声で話していた。
「(海街の耳元で囁きながら)海街、さっきの
トイレに行った二人、怪しい。《ボランティア部》課外活動だ。」
海街は無言でうなずいた。
「あー、男子どもな~にこそこそ話してんだー?」
自分の能力で完全に酔っ払っていた林は
赤ら顔で言った。
「あー、ごめん。ちょっとジュースを飲みすぎたみたいだ。トイレに言ってくる。」
そう言ってどろりと海街は席を立った。
「ずるーい、ボクも行くーー!!!」
何がずるいのか分からないが恋原表裏一体は
唇に指をあて、性別を操る能力《裏表ラバーズ》で男の子になり二人についていった。
「いってらーーー。」と林達は手を振り
女子三人でおしゃべりしだした。
《ファミレス内の男子トイレにて》
どろり達は洋式トイレの中でなにやら小声で会話する二人の男に警戒されないよう
前もって用意していたハンドサインで会話を
した。
(海街、あの二人の会話、聞き取れるか?)
どろりは素早くハンドサインをして耳の良い海街にそう尋ねた。
(『ハッピーキャンディー』、取引、と言っている。)
勉強と並行して頑張って覚えたハンドサインで海街は答えた。
(ああ、最近、大学生や主婦が売り捌いてるってSNSで話題のヤバい薬だねー☆にしてもこんなところで取引するなんて不用心だなー。)
最新のニュースに敏感な表裏一体はハンドサインでそう言った。
(最近出来たばっかでまだ監視カメラのない田舎のファミレスで取引ってことか。海街、表裏一体。能力を使え。)
ハンドサインで素早く合図しながらどろりは財布から二人に1000円ずつ渡した。
『能力使用一回につき報酬1000円。』
それがどろりが海街と表裏一体との間に
交わした契約であった。
《ボランティア部》課外活動である。
「『深海シティーアンダーグラウンド』。」
海街は取引してる二人に気づかれないよう
小声で呟き、目をつぶって能力を発動した。
どろり、海街、表裏一体、男二人は
音もなく異空間へと引き摺りこまれた。
【お洒落なファミレスのような空間】
「は、は、何だよこれ!!?」
男の一人は何が何だか分からないといった風だった。
「何だお前ら!!?け、警察か!!!!?」
もう一人はひどく怯えた表情で体からわずかに電気のようなものを流してそう言った。
「《裏表ラバーズ高速振動♡」
唇に手を当てて能力で美少年となった表裏一体は男二人の性別を高速で入れ替え続けた。
これにより、男二人の脳にとてつもない負荷がかかり男二人は身動きが取れなくなった。
どろりはそんな二人に音もなく近づき
彼らの体に軽くタッチして言った。
「《メルト》。」
どろりの能力《メルト》の本質は現実改編。
手の平で触れた人間をどろどろに溶かして世界からなかったことにする能力。溶かされた人間はどろり以外の世界中全ての人から忘れ去られてしまう。
こうして、男二人の体はどろどろに溶けてゆき過去も現在も未来も、体も心も服もどこかに隠していた大量の麻薬もすべて最初から
なかったかのように消えてなくなってしまった。
「……あれ?ボクなんで《深海シティーアンダーグラウンド》の中にいるんだっけ?
…….あー、《ボランティア活動》か。」
表裏一体は背伸びをしながらいった。
「海街、能力を解除してくれ。」
とどろりは平坦な声で言った。
「《深海シティーアンダーグラウンド》、
解除。」
考えることを嫌い雇用主からの依頼を淡々と
こなす海街は、どろりの指示に淡々と従った。
三人の悪党はトイレの手洗い場で手を洗い、ハンカチで手を拭き、軽くアルコールスプレーで 消毒をし。小テストの打ち上げへと、
彼らの日常へと溶け込んでいった。
(最後まで読んでくださりありがとうございます。)
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