私にはもう何も残っていない。
かつて栄華を極めた財閥の一族だというのに、今となってはその面影すら残されていない。
この屋敷があるだけだ。
ここにいた家族は皆死んでしまった。
いや、正確に言えば一人だけ生きている者がいるのだが……。
「お嬢さま、そろそろ起きてくださいませ」
メイド服を着た女がベッドの上で寝ている少女を起こしに来た。
まだ幼さが残る顔立ちの少女ではあるが、彼女の身に着けている物はどれも高級品ばかりでとても一般人とは思えない。
「んー……あと5分だけぇ~」
「いけませんよ。今日も学校があるのでしょう?」
「むぅ……仕方ないわね」
渋々といった様子で目を覚ました少女の名は日下部(くさかべ)アカリ。
肩口あたりまでの短めの茶髪を揺らしながら登校してきた彼女は眠そうな目つきをしており、とてもじゃないけど真面目には見えない。
制服も着崩しているせいもあってギャルにしか見えなかった。
「おはようございます、アカリさん」
「おはよー、委員長」
クラスメイトからの挨拶にも気のない返事をしている彼女だが、別にやる気がないわけではない。
むしろ逆だ。
今日こそは絶対に遅刻しないと心に決めており、目覚まし時計が鳴る五分前には目を覚ましたのだが……残念ながらアラームを止める前に母さんに起こされてしまった。
「こ~ら、早く起きなさい! 今日は始業式なんでしょう?」
「うぅん……分かってるよぉ……でもあと十分だけぇ……」
「もうっ……仕方ないわねぇ」
ベッドの上で寝返りを打ちつつ二度寝を試みるものの、「ほらっ!」という掛け声と共に布団を引っぺがされて強制的に起床させられてしまった。
仕方なくベッドから出て洗面所へ向かう途中、ふと思ったことがある。
「今度からちゃんとした時間に起きようかな……」
まだ少しだけ眠いけれど二度寝するほどではないし、このままだと朝食を食べる時間がなくなってしまうかもしれないからだ。
とりあえず顔を洗いながら歯磨き粉をつけた歯ブラシを口に入れていると、鏡越しにこちらを見つめてくる視線を感じた。
「おはようございます」
振り向くとそこには妹の美奈がいた。
肩にかかるくらいの長さがある茶色い髪をしていて、今日はその頭頂部にはお団子が作られている。
顔立ちは非常に整っていて可愛らしいのだが、表情にはあまり感情が出ておらず、何を考えているのか分かりにくいタイプでもある。
あと胸が大きい。
ちなみに今は白いワンピースを着ており、その上にカーディガンを羽織っている。
「うん、おはよう。ところでいつからそこに?」
「少し前です。声をかけようとしたんですけど、気持ちよさそうな顔をしながら歯を磨いていたのでつい見入ってしまいました」
「そっか。えっと……じゃあちょっと待っててね」
妹にじっと見つめられ続けていたせいか恥ずかしくなったので、急いで口をゆすぎ終えてから部屋に戻った。
それから制服へと着替えた後、二人揃ってリビングへと向かう。
テーブルの上にはすでに朝ご飯の準備が出来ていた。
トーストとサラダにハムエッグを食べながらテレビを見るともなく見ていると、突然画面が切り替わって緊急ニュースが始まった。
どうやらまた例の花びらの事件らしい。
「えーっと……今度は何が起こったんだ?」
画面に映っているのは真っ白な部屋でベッドの上に横たわる一人の男性の姿だった。
その男性は全身を白い包帯で覆われており、顔の上半分にも同じように包帯が巻かれているせいでほとんど目が見えなくなっているようだ。
それでも口元には笑みを浮かべておこうじゃないか。
だってこの世は喜劇なんですからね!
「……」
「えっとですね、これはどういうことなんでしょうか?」
放課後になり約束通りに体育館の裏にやってきた小春であったが、そこに待っていたのは予想外過ぎる光景であった。
何故ならそこには複数の女子生徒が集まっており、全員が鋭い目つきで睨んでいるからである。
しかもその中には沙耶架の姿もあり、まるで親の仇でも見るかのような視線をぶつけてきていた。
いや本当にどういう状況なのかサッパリ分からなかった。
そもそも自分が呼び出された理由すら分かっていないのに、この状況では何を言っても無駄であろう
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