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「は?」
俺の身体を起こさせて、にこりと笑った神津は部屋を出ていこうとする。
(何だよ、そういう雰囲気だったじゃねえかよ……)
抱いて貰えると思っていた。そんな浅ましい自分に嫌気がさした。
そういう雰囲気だった。でも、神津はそうしなかった。雰囲気に流されなかった。
遠くなっていく彼奴の背中を目で追って、俺はクソ、と悪態をつく。
俺が思っていた以上にあの十年は、俺達にとって大きな穴なんだ。こんな、ちょっとやそっと愛を伝え合うぐらいでどうにかできるものじゃないと、そう思い知らされた。十年だ、十年。幼馴染みという関係は変わらなくとも、恋人という関係は一筋縄ではいかない。
お酒に頼っちまった自分にも情けない。
俺は立ち上がり、寝室へむかう。ガチャッと開いた扉は立て付けが悪いわけじゃないが、寒い風が内側から足下へ滑り込んできた。
寝室に入り、俺は扉のまでずるずるとその場にへたり込む。
「はっ……俺、何やってんだ」
神津の前では泣かなかったが、俺は膝を抱えて顔を埋めた。今きっとみせられない顔をしているだろうから。
(期待しすぎていた。抱いてくれると思っていた。仲直りできるだろうって、そう思い込んでいた)
全ては俺の幻想で、現実は酷く痛いものだった。
まだ何か足りないのかと思ってしまう。
もう一生このままかも知れない。そしたら、もう次は神津が離れていってしまうかもと。
俺は、そんな恐怖に怯えつつさらに小さくなった。後数歩移動すればベッドなのに、どうも動く気になれず、少しの間うずくまっていた。
そうして、ポケットに入れていたタバコと棚の上に置いてあったライターを持ってベランダに出てタバコに火をつける。元々、タバコは苦手だったが、いつの間にかこの匂いと味から離れられなくなっていた。父親の匂い……唯一残した残り香だからか。
「……ふぅ」
息を吐けば、白い煙が宙へと消える。
俺はそれをぼんやりと見つめながら、今日は星が見えていないなと思った。
真っ暗な夜空も好きだが、やはり星がないと物足りないようにも感じる。そんな風に思っていれば、ヴーヴーとスマホのバイブ音が鳴った。
「誰だよ、こんな時間に」
そう思いスマホを確認してみれば、高嶺からの謝罪のメッセージと、明日会えないかという誘いの文がそこには表示されていた。誰のせいで、と思ったが、色々と整理するためには会う必要がありそうだと思った。それに単純に俺も――
(友人な……)
俺は暫く考えて、そのメッセージに返信をする。
今日はドタバタとしていたせいか、ゆっくりと話せなかったから。
「……ふんっ、了解っと」
待ち合わせ場所はまだ見頃ではないイチョウの木の下と、思い出の場所を選んだ高嶺に思わず鼻で笑ってしまった。
たまには……というか、久しぶりに同期だけでゆっくりと話せるのはいいんじゃないかと、この虚しさを埋めるために俺は了解の返信をしてスマホの電源を落とした。