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「蓮川先生」
園庭の草むしり中に登場したのは、有沢さんだった。
さっき園長先生と話しているのが見えたけど、終わったんなら帰ればいいのに。
「明美先生って彼氏いるんですか?」
いきなりそう話しかけられて面食らう。
仕事中だというのに、なんて自分に正直な人だろう。この人は。
「さぁ? あの、仕事中なので」
私がバスに乗ったばかりに、明美先生も帰りのバスに乗るようになったらすれ違いになってしまってる。だから、朝の混乱した気持ちも話せてない。
というか、話せないか。
「まぁいいや。彼氏居たら合コン来ませんよね」
「私も行きませんよ」
そう言うと、有沢さんは目をパチパチさせる。
この人、イケメンさんなのに、飾らないというか表情がくるくる変わるというか。
部長と違って分かりやすい。
「でも、橘さんは君に会いたがってますよ」
「もう昨日会いました。しっかり明太子のお土産まで貰っちゃいました」
そう言うと、有沢さんは『橘さんらしいや』とクスクス和らげに笑う。
――冷たくしたいのに、憎めない表情をする有沢さんも営業は天職だと思う。
「じゃぁ昨日帰って来たんだね。昨日の夜なら全然話足りないじゃないですか。俺も蓮川先生には言っておきたいことがあるんですよね」
ぜ、全然話足りなくない。
でも、疑問は山のように出来た。
聞くのは怖いけど、昨日まで天より高い位置に居た尊敬できるはずの部長が、ぐいぐい視界に入ってくるんだもん。
どうしていいか分からない。
「いいじゃないですか! ね、楽しみにしてますからね~」
「ちょっ 有沢さん!」
用件だけ言うと、さっさと門から出ていたしまった。
――逃げ足だけは速いんだから。
「今日は真君、バスで一番に帰りましたね」
草むしりが終わったころに、明美先生も帰ってきた。
笑顔だから、きっとバスもミスなく出来たんだろうな。
「お疲れ様。真君、クラスでもいつもよりご機嫌だったよ」
良い子過ぎて心配だったけど、本当の真君が見れた気がする。
「真くんのおとーさん、めっちゃくちゃカッコいいですよね! 若くて超クールなのに笑顔は甘くて」
「あははは」
合コンに真君のパパが来るって知ったら明美ちゃんは断ってくれるかな?
といろいろ考えていたら、教会から園長先生が出てきて職員室に先生たちが集まり出す。
朝の朝礼はするけど、帰りは園長先生が居なかったらしないことが多いのに。
私たちも慌てて行くと、園長先生は上品に笑って私たち二人を見る。
「親子遠足、うみたまごに行こうと思うのでが御二人は行ったことありますか?」
『うみたまご』と言えば別大国道にある大きな水族館。
幼稚園も小学校も、中学校でも行った、お決まりの遠足コースだ。
でも。
「実はリニューアルしてから行ったことないんです」
『うみたまご』と名前を変えたのは、私が短大に行ったぐらいだった気がする。
最近帰ってきたから、まだバイクで前を通ったぐらい。
「じゃぁ、他の先生たちとは既に見学してきたから誰かと行ってコースを確認しといて下さいね。明美先生も」
そう言って、入場券を四枚くれた。
「やーん。園長先生太っ腹! 私は、津久見にできた『つくみイルカ島』がまだ行ったことないです」
「へ? 何それ??」
「イルカと触れ合えるみたいです」
明美先生がそう言うと、他の先生たちは既にそちらにも見学に行ってきたみたいで、色々情報をくれた。
道が狭くてややカップル向けらしく親子遠足は今回は見送ったらしい。
「じゃあ、そちらの券は二人ともにも用意しますね。どちらも交通費は負担しますから領収書を忘れずに」
「やったあー!」
喜ぶ明美ちゃんだけど、私、誰と行けばいいんだろう?短大時代の友達はみんな福岡だし、地元の子はまだ誰にも連絡してないし、友達少ないし。
――侑哉しか該当する相手がいないよ~~。
「あ、明美先生、一緒に行こう!?」
そうだそうだ。
相手を見つけるんじゃなくて、これは仕事仲間と行くべきだ。
「あ、良いですね~。じゃあ、Wデートします?」
「ええ? 私、相手が……」
「だから土曜日頑張りましょう。合・コ・ン」
そう耳元で囁く明美ちゃんが、今は悪魔にしか見えなかった。
行かないって言ってるのに、明美ちゃんも有沢さんも部長も。
皆、自分勝手なんだから。
それとも、自分の意見が言えない私が悪いんだろうか。
キラキラと目を輝かせている明美ちゃんに、強く言えない自分の性格が妬ましい。
でも、明美ちゃん。
有沢さんが連れて来るのは真君のパパなんだよ。
そう思うと、どちらも言えなくて胸がきりきりと痛んだ。