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……ガタンゴトン
電車が線路の上を走る音が、嫌でも聞こえてくる。ただでさえその音だけでも「会社に向かっている」と実感させられて嫌なのに、朝の通勤ラッシュ特有の満員の中、周りの高身長達に揉まれて行った。 この状況に慣れてしまった、という事実が嫌になる。人間は順応する生き物だと言うが、俺は順応しすぎた。
自分が務めている 会社は、いわゆる外資系企業。各国の人々が集まり、英語と日本語が混ざってオフィス内に響く。この世界では、英語が話せないと何も伝わらず、はぐれにされてしまう。その典型例が、自分だ。面接は何とか通ったものの、英語はカタコト。文法もスペルも滅茶苦茶。皆に伝わるわけがなく、孤立している。
皆が時計に集中している。何故か…と聞かれても、理由は1つしかないだろう。カチ、カチと秒針が1秒1秒音を立てて進んでいく。秒針が時計の頂上を通ると、チャイムが鳴った。続々と人々がデスクから立ち上がり、弁当を開ける者、ランチに同僚を誘う者。方法は様々だが、皆がやろうとしていることは一つだ。
──昼休み。それは会社員にとって、至福のひととき。しかし、孤立している自分にとって、それは苦痛でしかないのだ。
「今日もコンビニの弁当で済ませるか…」
そう呟き、重い腰を上げた。すると、背後から何者かに肩を叩かれた。…まぁ、誰だか大体は予想ついているのだがな。
「日本、今日もコンビニで買うのか?そんなんじゃ、午後から元気出ないぞ〜、」
──アメリカ。オフィスでもかなり上位の先輩だ。入社してからやたらに着いてくるが、自分なんかに話しかけないでも、代わりはいくらでも居るはずだ。
「俺弁当持ってきたんだよ。食べないか?」
彼はそう言い弁当を取りだした。この過酷な世界では、勿論拒否権などなく、大人しくその弁当とやらを食べることにした。アメリカはタッパーを取りだし、蓋を開けると、そこには予想と反した、今にも涎が垂れそうな料理が盛られていた。
「どうだ?もっとカラフルにアメリカンな弁当にしたかったんだけどな…。」
「カナダが怒って、今日は僕が作る〜って言うから…」
「す、凄いですね…」
こんなにも圧倒される理由は、料理の量もあるだろう。だが違う、漂う肉汁の香り、雪のようなチーズ、熱さが顔面にまで漂ってくる、灼熱のじゃがいも。
「なんか、プーティン?みたいな名前の料理らしいぞ」
カナダの代表的な料理らしい、と続けてアメリカは語る。隣から腹の音が鳴り、アメリカが待ちきれなそうな顔でフォークを取り、1口頬張る。
「ん〜!とってもジューシー!」
幸せそうな顔をして食べる彼を見るだけで、自分も空腹感が上がってきた。
「いただきます」
震えた手でフォークを取り、刺して口に放り込んだ。その瞬間、舌が歓喜のファンファーレをあげる。
「す、すごい…熱々なポテトの香ばしい匂いが口内に広がり、濃厚な肉汁の旨みがじわじわと押し寄せてくる…おまけに上に乗っているチーズは、一噛み、また一噛みと噛んでいくとキュッと小さく鳴る…」
「鮮明に暖かく優しいカナダの家庭が脳裏に浮かんで…」
「ッは…!」
しまった、つい癖が出てしまった。何かを食べると、衝動に駆られ食レポしてしまうのだ。引かれていないかな…と恐る恐る隣のアメリカの顔を覗き込む。
「Oh…」
食べていた手を止め、驚いた顔でこちらを見てくる。息を飲む音が、少しだけ空気を冷たくした
「あ、あぁ〜…お、美味しいです!ね…?」
そう言うとアメリカは椅子からバァンっと立ち上がり、拍手をした。
「…す、凄いじゃないか?!感動したよ!!」
こんなことしては目立ってしまう…と焦っていると、アメリカは再度椅子に座った。
「誇っていいぞ日本!!これは有名なスターになれるレベルだ!!」
何を言っているんだと困惑していると、アメリカがもう一度やって!と輝いた目でこちらを見つめてくる。仕方がないですね、と少し誇らしげに誇張して表現をすると、アメリカはもう一度もう一度と子供のように喜んだ。
なんだか、心が満たされた気がした。午後の仕事は、いつもより早く進んだ気がした。
「…また、アメリカさんと一緒に食べようかな…」
そう呟き、上機嫌に強くエンターキーを押した。
──この時は、まだ知らなかったんだ。この出来事が、今後の社畜生活を大いに変える、ということを。
出てきた料理の紹介
プーティン … カナダの代表的料理。とても熱いポテトに、肉汁を元にしたグレイビーソースと、普通のチーズとは違うほろほろとした練乳の欠片のチーズカードをかけて作られる。