テラーノベル
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第3話「笑いと涙の同居 」
ここ数日、体はどんどん重くなっていた。
足はパンパンにむくみ、靴下の跡がくっきりと食い込む。息切れはひどく、ベッドから起き上がるだけで胸が苦しい。
トイレに行っても、ほとんど尿が出ない。
「……俺の体、壊れてきてるな」
薄々感じていたけれど、口に出すと現実味が増してしまう気がして、ずっと言葉を飲み込んでいた。
その日。主治医が病室に来て、淡々と告げた。
「腎臓はほとんど機能していません。今後は透析を始める必要があります」
その瞬間、病室の空気が張り詰めた。
隣にいた翔ちゃんは、声を詰まらせながら聞き返す。
「……透析って……ほんまに、あの……機械に繋がるやつか?
かもめん、そんなに悪化してるか?」
医師は小さくうなずいた。
翔ちゃんの顔がぐしゃりと歪む。
その絶望的な表情を見たくなくて、俺は無理やり口角を上げた。
「じゃあ……俺、今日からサイボーグデビューだな」
冗談を投げる声は震えていたけど、それでも翔ちゃんの眉間の皺が一瞬だけ緩んだ。
「アホか……サイボーグなんかいらんわ……」
かすれた声でツッコミを返す翔に、少しだけ救われた。
午後。車椅子に乗せられ、透析室へと運ばれる。
ドアが開いた瞬間、独特の機械音が耳に飛び込んできた。
「ピッ、ピッ」と規則的に鳴るモニター音。透明な管の中を流れる赤い血。
ベッドに横たわる患者たちが、それぞれの“機械の心臓”に繋がれていた。
──ここに、自分も加わるのか。
胸の奥が冷たくなった。正直、怖い。血が体の外に出て、機械を通って戻ってくるなんて、想像するだけで震えた。
でも、翔ちゃんが横に立っているのが見えた。
俺は弱音を飲み込んで、ふざけた声を出す。
「いや……これ、完全にアトラクションだろ。俺、USJ来ちゃった?」
わざと大げさに両手を広げてみせる。
翔ちゃんは一瞬きょとんとしてから、思わず吹き出した。
「遊園地に血ぃ抜くアトラクションあるかいな! アホ!」
涙で濡れた目のままツッコむ翔ちゃんに、俺の胸も少しだけ軽くなる。
「穿刺しますね」
看護師の声に、思わず息を止めた。
太い針が腕に突き立ち、鋭い痛みが走る。
「っ……!」
歯を食いしばる俺を、翔ちゃんが横でじっと見ていた。
透明な管の中を、俺の血がゆっくりと流れていく。
その赤い流れが機械の中に吸い込まれ、また戻ってくる。
「……気持ち悪い……」
心臓がざわつき、目を逸らしたくなる。
すると翔ちゃんが、俺の手をぎゅっと握った。
「お前の血、めっちゃ頑張っとるやん」
真剣な顔で、静かに言葉を落とす。
「……誇っていいんよ。生きるために戦っとるんやから」
その言葉に、喉の奥が熱くなった。
怖さも嫌悪感も、翔の一言で少し和らぐ。
俺はただ「……ありがとう」と小さくつぶやいた。
数時間後。透析が終わると、全身の力が抜けたようにだるくて、呼吸も重い。
「……これが、透析ってやつか」
ベッドに横たわりながら呟くと、翔ちゃんが椅子から立ち上がり、俺の顔をのぞき込む。
「……おかえり」
不器用な笑顔と、潤んだ瞳。
その声に、俺はかすれた声で返した。
「……ただいま」
──これから長い戦いが続く。
でも、翔ちゃんがいるなら大丈夫だと、少しだけ思えた。
ここで終わりぃ
いや透析最高すぎぃ