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「お待ちしておりました、セレノ皇太子殿下さま」
静かな声とともに、一人の男が進み出る。
年の頃は五十前後か。
落ち着いた物腰に、無駄のない所作。
執事服に身を包んだその男は、深く一礼した。
「当家執事のセドリック・アルヴィン・グレイフォードにございます。恐れ入りますが、応接室にて今しばらくお待ちいただけますでしょうか。主人も間もなく参ります」
顔を上げた彼の瞳は、穏やかだ。
だが、その奥に揺らぎはない。
(……主人?)
セドリックの穏やかな声音に、セレノは内心でわずかに引っかかりを覚える。
今回の訪問の目的は、あくまでリリアンナ伯爵令嬢との面会――ゲームの続きをすること――だったはずだ。
その旨は事前に伝えてあったし、了承の書簡も受け取っている。
なのに何故リリアンナ嬢ではなく、主人を強調するのだろう?
もちろん、城主であるランディリック・グラハム・ライオール侯爵が同席すること自体は不自然ではない。
だが――。
(まるで、最初から〝そういう訪問〟みたいにされていないだろうか?)
執事の物言いに、そんな違和感を覚えた。
セレノの後ろには、数歩の距離を保って控える従者らの姿がある。
護衛を兼ねた近侍が一名、さらに書簡や応対を担う随行役が一名。
いずれも今回の訪問が正式なものであることを示すに足る人員だ。
セレノを含め、従者達も誰ひとり口を挟むことはなかったが、皆が一様に気配を引き締めた。
この場の主導権がどこにあるのか――それを測ろうとしているのは、セレノだけではなかった。
「こちらへ」
促されるまま、セレノは従者を引き連れて歩き出す。
廊下を進む。
ふかふかのカーペットのお陰か、足音が微塵も響かない。
使用人たちとも数名すれ違ったが、誰もが頭を下げ、視線を上げようとはしなかった。
客人に相対するマナーとして、その一つ一つは正しい。ましてや自分は、他国の者とはいえ王族だ。
だが――。
(……あまりに態度が不自然じゃないか?)
高貴な人間の顔をまじまじと見ないように気を付けている……というよりも、これはまるで。
(何かを隠してる?)
言葉にできない引っかかりが、じわりとセレノの胸中にわだかまっていった。
「こちらでございます」
セドリックが立ち止まり、扉を開く。
通された応接室は、暖炉の火で程よく暖められていた。北の地は初夏を過ぎても屋内はひんやりしていることが多い。
マーロケリー国の王城でも来賓がある場合、応接室に予め火を入れて暖めておくことがあるが、ここも同じらしい。
一見殺風景に見えるが、無駄な装飾のないところが逆に、あの凜とした辺境伯に似合っているように思えた。
置かれた調度は必要最低限ながらも、どれもが一級品で手入れも行き届いていることが分かる。
――整っている。
夏の間、城主は城を空け、ヴァルム要塞にいることが多いと聞くが、そんな時期でも下々まで城主の意向が知れ渡っているということだろう。
今、自分を案内して来てくれた執事の采配によるところも大きいのだろうが、ランディリックという男の、城主としての格を見せつけられた気がした。
(つくづく敵に回したくない男だな……)
和平が決裂した場合、きっと真っ先に戦地へ出てくるのはここの城主だろう。
アレクト殿下も自分も、そんなことにはしたくないと思っている。だが、この城の主は――果たしてどう考えているだろうか。
#独占欲
#ワンナイトラブ
コメント
2件
私もセドリックのフルネーム何かっこいいな🩷と思いました。 リリアンナがランディと一緒になったのを知ったらがっかりするんだろうな。
セドリックのフルネームかっこいいな!?と関係ないことを思いつつ。 皆、リリアンナとランディリックのこと知ってるもんなー。 どうなるんだろ!?