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気付いたら眠っていて、気付いたら起きている。そんな生活だった。
食べたくない彼の用意した味の無い食事を無理やり胃に詰め込み、イザナくんが家に居ないときはずっと鉄の錆びた匂いが充満するやけに重い足枷を付けられ、鎖に繋がれる。
そんな辛い時間もイザナくんが居るときよりかはよっぽど楽だった。
「オマエはオレ以外に味方なんて居ねぇの。」
『…やめて』
「だからオマエは死ぬまでずうっとオレに縋るしかないの。分かる?」
『やめて』
「あ、いっそのこと2人で心中する?そしたら永遠に一緒だ。」
『やめてってば!』
耳元で囁かれる嫌な言葉から庇うように自身の耳を両手で覆い、涙の滲んだ震える声で叫ぶ。目尻に溢れんばかりに溜まった塩っぽい涙が流れないように一生懸命深く深呼吸するが、喉から這い出てくるのは涙で喉が詰まったような浅い息で、自分の意思とは反対にポロポロと子供のように顔を歪めて泣き出す。毎日のように泣き喚き、瞼は重く、うっすらと隈の刻まれた目の下は赤く腫れあがっている。
こんなところ早く逃げ出したいのに、嫌な記憶と身体に刻まれた痛みが邪魔をして体が糸に繋がれたように動かない。
「…もう泣くなよ。オレがオマエのこと一生守ってやるから。」
ぷっくりと腫れ赤く膨らんだ涙袋を優しい手つきで撫で、映画のワンシーンのように綺麗なキスを落としてくる彼に目を瞑る。無理やりに近い、愛も情も何もないそれは見た目とは反対に私を徐々に汚していき、諦念の気持ちを植え付けてくる。
早く終われ、早く終われ。心の中でそう叫ぶように願え続ける。
数秒後、やっと長い口づけが終わり、その嫌悪感から解放されても口の中にどろどろと余韻が残り、憂愁な気分が亘る。
ここから出るにはどうしたらいいの。
彼から逃れるためには何をすればいいの。
─そうだ。
毎日のように巡る考えに今日は1つ、キラリと光ものが見えた気がした。途端、暗かった心の中に一点の明かりが点じられる。
目の前にはすべての幸せを詰め込んだような、陶酔感を抱いた眼差しを向けてくるイザナくんの姿。
その表情には微かな油断の色が浮かんでいるように見えた。
__こんな辛い思いをするのなら原因を消すしかないじゃない。
そう理解し行動に移るまでは自分でも驚くほど速かった。
腐ったように思考が歪み、脳まで甘く壊されたなかたった1つ残った漠然が体を動かす。
精一杯腕に力を込めイザナくんを押し倒し、彼の首に自身の指を絡める。いつも自分がされてきたときと同じように親指中心に力を込め、彼の褐色の首を絞めつけようと手をかける。
きっと─きっと今なら殺せる。ここから逃げられる。早く、早く。もっと強くしなくちゃ。
「…手、震えてンぞ」
状況とは逆に随分と余裕そうなイザナくんの声色に、そこで初めて自分の体の状態に気づいた。イザナくんの言う通り彼の首に絡めている手は恐怖と怒りをぐちゃぐちゃに詰め込んだみたいにブルブルと情けなく震えており、冷や汗がじっとりと手のひらに滲んでいる。そんな私を自信たっぷりの王者のような目つきで見つめてくるイザナくんに奇妙な焦燥に駆り立てられる。もっと強く締めなくちゃって思うのに、そのたびに身体中の汗が一気に吹き出だし余計に力が抜けていく。緩んでいく自分の手を涙目で睨む。
こんなんじゃ全然ダメなのに。
殺せないのに。
「そんな力じゃ人は殺せねェよ。」
今現在思っていることをいきなり指摘されびくりと体を震わす。自身の手からイザナくんへ視線を移すととアメジストの瞳が私の指をうっとりとした視線で捉えているのが見えた。
「オレを殺してェんだろ?」
相変わらず甘い笑みを浮かべ、優しい声色で言葉を告げるイザナくんに擦り傷をいじられたみたいに顔を顰める。曇らすことの無い彼の明るい表情が余計に私の焦燥心を煽る。
「可愛いね、○○。」
『…は』
自分を殺そうとしてくる相手に向って余裕そうにそう伝えてくるイザナくんに怒りや驚きよりも先に恐怖を感じる。この人は正気なのだろうか。
『………なんで…そんなんになったの。』
体から溢れ出してくる恐怖を我慢し、怯える唇を無理やり動かし私は問いかけた。
こんな状況で…可愛いなんて正気じゃない、そう言葉を続けながら精一杯の怒りを込めてイザナくんを睨みつける。指は絡めたまま。きっとイザナくんなら私相手に抵抗することくらい簡単なのに、彼は何故だかそうしない。ただ歪な笑みでこちらを見つめるだけ。
『………もうここから出してよ。』
そうすべての感情を詰め込み、訴える様に言葉を零した瞬間、視界がぐらりと揺れ一瞬の浮遊感が体を襲った。それと同時に背中に固い衝撃が走る。
驚きで見開く私の視界にはイザナくんの顔がはっきりと映る。その奥には何故かさっきまで見えていた床ではなくイザナくんが見ていたはずの天井が映っている。
『…ぇ』
まさに世界が反転したような視界の映りに困惑の声を洩らす。一拍遅れて自身の首に冷たい手の感触と少しの圧迫感を感じた。
あ、“これ”知ってる。
「やっとオレのモンに出来たのに逃がす訳ねぇだろ?」
グッと今度は自分に絡められたイザナくんの指に力が入れられるのが分かった。その瞬間、今からされることが容易に察し出来て、バタバタと手足を動かし必死に暴れる。
「ほらあれ一目惚れってヤツ。バイク屋で会った時からずっと好きだった。」
そんな私の抵抗をいとも簡単に抑え込みイザナくんは淡々と言葉を告げる。
感情の読み取れない虚ろな表情でこちらを見下ろすと、その瞬間、グイッと力任せに気管を圧迫され、苦しみに激しく悶える。いつもの倍以上の苦しさに死を錯覚する。チカチカと視界の端が白く点滅し、「やめて」の3文字すら声にならず濁った悲鳴が涙と共に体を流れ落ちた。
「…なぁ、このままだと死んじゃうな?」
そう低くはっきりした声で呟くイザナくんは大事な何かが壊れ切った表情をしていた。
続きます→♡1000
コンテスト参加しようかなー っ て思うけ ど期間中に終わらせられる自信がなくてなかなか参加出来てない😿