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【sxxn】少女レイ/みきとP

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【sxxn】少女レイ/みきとP

1 - 【sxxn】少女レイ/みきとP

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2025年11月29日

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「ねえいるま、見て!」


そう言って彼は、後ろの席の俺に今返されたばかりの小テストを見せてくる。

その点は当たり前のように満点で、らんは満面の笑みを浮かべていた。

俺はそれに「よかったな」と言い、自分のテストの点数を隠す。

あまりにも酷いわけではないが、今回は凡ミスが多くていつもより低かったからだ。

俺、、、紫崎入魔は、前で俺の点数を覗き見ようと頑張っている桃瀬蘭を見て、微かに微笑む。

らんと俺は、友達同士だ。

だが俺は、らんを、恋愛的な意味で愛していた。

それを本人に伝えたことはないし、伝えるつもりもないけれど。

そんな俺らの関係を、このクラスのやつはほとんど全員察しているだろう。


「桃瀬ー。後ろ向くなー。」


「あっ、ヤバッ、、、!、、、はぁい!」


先生がテストの答えの解説をしている時に俺を振り返っていたからか、先生がらんを呼ぶ。

らんは、その声を聞いて慌てたように前を向いてしまった。

そのらんのふわふわした黒髪を見ながら、俺は心の中で先生に悪態をつく。

先生だって俺とらんの関係は察しているだろうに、邪魔すんなよ、と。

こういう器の小さいところが、あまり良くないところなのだろう。

らんを見ていると、このまま俺の腕の中だけに閉じ込めて離したくなくなる。

『友達同士』なのに。

らんが好きだから、らんを愛しているから。

だから俺は、らんを他のやつに近づけないようにしている。

ずっと、ずっとそうだった。

俺たちは中学から一緒で、今は高校生だけれど、それはずっと変わらない。

らんが他の奴と話して笑っているのが不快だ。

らんが他のやつに顔を見せていることすら不快だ。

らんの視界に入るのは俺だけでいい。

女はもちろん、男だって許せない。

家族だって許せない。

だから俺は、高校生になってかららんにシェアハウスを提案し、今は2人だけで暮らしてる。

本当は家から出したくない。

だけど、学校やら何やらで外に出なくちゃいけないから、俺がずっとついている。

高校だって、らんと同じレベルのところに行けるように必死で勉強した。

それは偏に、らんを愛しているから。

でも、、、クラス替えは、俺たちのこの絆を裂こうとしているのだろうか。

高校2年生に上がった時、俺とらんのクラスは離れた。

6組ある中で、俺は1組、らんは5組。

すぐに行ける距離でもないし、そもそもクラスが離れればずっと見ていることができなくなる。

だから俺は、5組にいる中学校からの友人に、らんを1人にさせてやってくれと頼み込んだ。

それはもう、地べたにデコを擦り付けんばかりの勢いで。

いじめはしてほしくないけど、できるだけ他の奴と話させないようにしてくれ、と。

俺が唯一この学校で信頼している友人2人のうちの1人は、、、赤宮暇夏は、それをふたつ返事で了承してくれた。

だが、そのせいであんなことになるとは、俺は夢にも思っていなかったのだった。


***



クラス替えをして1ヶ月くらい経つと、らんがゲッソリした顔で帰宅してくるようになった。

どうしたのか、と話を聞くと、どうやらクラスのみんなに避けられているらしい、と返された。

なつが、上手くやっているようだ。

内心でほくそ笑みながら、俺はらんを抱きしめた。

らんは、そんな俺の腰に腕を回して、ひしっと抱きついてきてくれた。

そんな可愛らしいらんに、俺は囁く。

『友達』だから、助けてあげるよって。


「休み時間とか、寂しくなったら俺のとこに来い。大丈夫、俺は避けたりしないから」


そういった俺を見上げて、らんは涙目で頷いた。

その目が虚ろだったことを、俺は見逃した。

『友達』は、都合の良い言葉だ。

友達だから、友達だよ、と言えば、大概の人はそれを嬉しいと感じる。

そして、寄ってきてくれる。

この言葉を口にするのは気恥ずかしいし、それなりに勇気が必要だ。

だけどそれを口にしてくれるということは、心を開いてくれている証拠だろう。

そうやって、言葉を受け取った側は無意識に思ってしまう。

『家族』も『恋人』も『親友』も、この言葉ほど関係が深くはならないと俺は思っている。

『家族』は、その人に良いところを見せようとして、怒られないようにして、そうやって過ごす。

『恋人』は、相手が好きで愛しているからこそ、自分の醜いところを見せないようにする。

『親友』は、関係を深いと思いすぎて、いつの間にか疎遠になってしまう。

でも『友達』は、家族関係の相談や恋人関係の相談など、そういうのもしてくれる存在だ。

そうやって、なんだかんだ言って『友達』がいちばん頼れる存在で、『友達』が素の自分を見せられる唯一の関係だ。

だから俺はあえて『友達』であろうとする。

『親友』でも、ましてや『恋人』でも『家族』でもなく、『友達』であろうとする。

らんには『友達』がいないようにさせて。

そのことについて俺に相談させれば、らんの考えていることは直接俺に入ってくる。

そして俺が、らんの周りのヤツを間接的に操作すれば、らんはどんどん俺に依存してくる。

元々メンヘラ気質のらん。

可愛いことに、自分が信頼している人を絶対に離さないだろう。

全て上手くいった、これで高校生生活は安泰だ、そう思っていた。

そう、思っていたのに。


「────は?」


翌日。

休み時間になかなからんが来ないな、と思い、俺はらんを訪ねようとこっそり5組の教室を覗いた。

そして俺は、そこにある景色に驚愕した。

らんの近くに、知らないやつが2人いた。

2人のうちの1人は、珍しい青灰色の髪の青い雫型の飾りがついたピアスをしている、一見女のようにも見える中性的な男子が、ジェスチャーを交えて話をし。

もう1人、金髪からサーモンピンクの派手なグラデーションの髪のやつは、らんと青灰色の髪のやつの話にところどころ相槌を打ちながら。

らんはその中で、楽しそうに笑って。

3人が仲良さげに、話していた。

目の前が歪んで、俺はブチリと血管が切れるような音を聞いた。


「なつ!」


「んぁ?何、、、いるま?」


近くの席で突っ伏して寝ていたなつを小声で呼んで起こし、階段下まで2人で行く。

途中で、俺がこの学校で唯一信頼している友人のもう1人である緑谷澄知と会ったので、すちも引っ張っていく。

そして、階段下で誰もいないことを確認すると、俺は不快感をさらけ出してなつを問い質した。


「アイツら誰だよ??らんには誰も近づけさせるなっつったよな????」


俺が聞くと、なつは頭を掻きながらあのらんの周りにいた2人の名前をボソリと呟いて舌打ちをする。

青灰色の髪の方が雨乃小雨。

金髪の方が黄咲美琴。

アイツらにも、らんの悪い噂を吹き込んだけれど、それを全く聞かずに、今までも度々らんに話しかけていたんだそう。

だけど、昨日まではすごくよそよそしくて、名前も「名字+さん付け」だったらしい。

それが、今日の1時間目の体育の時間にグループワークで一緒になってから、あんなふうに仲良くなって、名前の呼び方も下の名前呼び捨てとかニックネームになったらしい。


「ああ、みこちゃんね。俺去年一緒のクラスだったよ。あの不思議ちゃんでしょう?」


すちは黄咲のことを知っていたらしく、うんうんと頷きながら相槌を打つ。

聞いたところによると、黄咲はかなりの天然で、更にドジっ子。

調理実習でカレーを作るのに魚肉ソーセージと豆腐を持ってきたり、授業中に先生の話をしっかり聞いてるな、と思ったら全く違うことを口走ったり。

そして口癖のように常日頃から言うのは「ぅわあ!」だったり「ほぇ”え!?」だったり。

可愛子ぶってるようにしか思えないが、参観日で親が来ている時でもそんな感じで、可愛子ぶってるわけではないことが証明されたらしい。


「俺はこさめと小学一緒だったぜ。」


中学で離れたが、また高校で一緒になったらしい。

中学生の時もそれなりに交流があり、お互いにかなり親しい仲なのだとか。

だけどこさめはKYなところがある上に、やや自己中心的。

他の人に忠告されたとしても、自分がらんと話したいと思えば話すような奴らしい。

話を聞く限り、らんの悪い噂を流して吹き込むことだけでは、らんから離れてくれなさそうだ。

だから俺は、強硬手段に出ることにした。

考えたことをなつとすちに言うと、2人は驚いたような呆れた顔をしたものの、何も言わなかった。

困ったように、微笑むだけだった。


***


翌日。

今日は先生に呼ばれてるから早く行かなきゃならない、と嘘をついて俺はらんよりも早く家を出た。

そして行く道で花屋に寄り、スノードロップを1輪買う。

学校に着くと、高校2年生のどこの教室にも生徒はまだ来ていなかった。

俺は念入りに辺りを確認し、持ってきたビニール手袋をはめると5組の教室に侵入する。

そして、座席表かららんの席を探し出すと、そこに家から持ってきた花瓶を新聞紙から取り出して置いた。

水は入れない。

そこに先程買ってきたスノードロップを生け、俺は静かにほくそ笑んだ。

この花瓶は家の押し入れのずっとずっと奥に押しやられていた古いものだ。

らんの前で押し入れの中を整理したことはないし、らんに整理させたこともない。

なんなら、ホコリが酷いからあんまり近づかない方が良いと言っておいている。

だから、らんはこの花瓶を知らないだろう。

そして、らんは花が好きだ。

それ故に、花言葉もよく知っている。

スノードロップの花言葉は、、、『貴方の死を望みます』。

らんは、これを見て周りの人を警戒し始めるだろう。

関係のまだ浅い雨乃と黄咲のことも、信用できなくなって欲しい。

俺は一連の犯行を終えると、またそっと5組から抜け出して自分のクラスに入った。

何事もなかったかのようにビニール手袋をリュックの中に突っ込む。

時間が経って人が増えてくるにつれ、雰囲気がやや怪しくなってきた。

俺は内心ニヤけが止まらないまま、本に顔を突っ込むようにして読書に没頭しているフリをした。

だが、耳をそばだてて教室に流れる噂話を聞く。


「知ってる?5組、いじめがあるらしいよ」


「嘘!?知らなかった、、、」


「私も今日知ったんだけどさ、今朝、桃瀬くん?って人の机にスノードロップが生けられた花瓶が置かれてたんだって!」


「スノードロップ!?それって、、、!しかも、桃瀬くんって、入学式の時に新入生代表挨拶してた人じゃない!?」


「そうそう!怖いよねぇ、、、」


ああほら、もう噂になってる。

5組の人はみんな、驚いているだろうな。

水野入っていない花瓶に_スノードロップ@貴方の死を望みます_が生けられているんだから。

でも、誰もそれが俺がやったとは考えないだろう。

俺はらんと結構仲良くしていることはみんな知っているだろうから。

もうそろそろ、らんが登校してくるはずだ。

そう思って、俺は本を閉じて5組の教室に向かう。

中を覗くと、らんがスクールバッグを持ったまま席の前で呆然と立ち尽くしていた。

当たり前だ。

らんの机の上で見慣れない花瓶の中で白いスノードロップが美しく咲き、他のクラスメイトたちはそれを遠巻きに見ているのだから。

俺は、ニヤけを顔に出さないように努めながら、近くにいたなつを手招きする。

なつは複雑そうな顔でこちらを振り返り、俺のところに寄ってきた。


「お前、マジでやりやがったな」


「何のことだ?w」


小声でそんな会話をしているのは、誰にも聞こえていないだろう。

だって、この教室の人たちが友達同士でざわざわと何かを話しているんだから。

ふと、らんが顔を上げてこちらを見た。

俺とらんの目が合い、らんは『いるま』と口を動かす。

だから俺は、らんに向かって少しだけ優しく微笑んで、『大丈夫だ』と口を動かした。

それだけでらんは安心したのか、机の上の花瓶に手を伸ばしてそれを手に取る。

教室内外のざわめきが大きくなる。

らんはそのまま、花瓶を持ったまま、教室を出て水汲み場で水を入れ、それを窓際に置いた。

賢い判断だ。

5組の担任は、かなりの歳の爺だ。

この花瓶を見ても「綺麗な花だね。でもスノードロップの花言葉は物騒だから、次回から気をつけるように」くらいしか言わないだろう。

昼休みにらんが俺を訪ねてくることを期待して、俺は自分の教室に戻った。

なつと、後から来たすちが、俺のことを複雑そうな顔で見ていた。


***


昼休み。

いつまで経ってもらんが訪ねてこないのに苛立って、俺はまさか、と教室を出た。

5組の教室にらんはおらず、なつもいなかったため、仕方なく俺は近くにいた雨乃と黄咲を呼んだ。


「悪ぃ、らんどこにいるかわかる?」


雨乃と黄咲は、急に俺に話しかけられてびっくりしたような顔をする。

だが、すぐにケロッとして「いるまくんって人探しに行ったよ」と教えてくれた。

雨乃と黄咲にとって、俺は同級生のひとりだから、俺が『いるま』だって知らないのだろう。

だから俺は2人に感謝を述べて、らんを探しに出た。

らんは俺を探しに行ったのに、俺のところにはらんは来ていない。

なら、すれ違いになってしまったと考えるのが普通だ。

俺が5組から1組に戻ろうとしてトイレの前を通り過ぎた時、らんがトイレから出てきた。


「あっ、いるま!今行こうとしてて、、、」


「ああ、丁度良かった。俺もらんのこと探しt((」


俺の言葉の途中で、らんはガッと俺の手首を掴んで、どんどん歩く。

3組の教室も2組の教室も1組の教室も通り過ぎて、らんは階段を下りる。

見つかってはいけないことをしているかのように、らんはコソコソと辺りを探る。

そして、俺を引っ張ったまま昇降口から上靴のまま外に出て、またどんどん進む。


「おい、らん?どこ行くん?」


流石にマズイのではないか、と思ったのは、学校がもうかなり後ろに見えるようになってからだった。

最初は、昼飯を家に忘れてきたかして、コンビニまで行くのかと思った。

だけど、いつも使っているコンビニはもう通り過ぎているし、この先には線路と海しかない。

俺が問いかけるとらんは足を止め、振り返らずにポツリと言った。


「俺、嫌われてるのかな」


「はっ!?そんなわけ、、、」


嫌われてるのかな、という言葉を、俺は否定する。

朝のあの事件があって、クラスの人に虐められているかもしれない可能性を考えたのだろう、と思った。

だけど、振り返ったらんは、涙を流しながらも俺に微笑みかけていて。

その瞳に映る俺はもう、汚れていた。


「ねえいるま。俺のこと、嫌い?」


らんがそれを口にした瞬間、らんの瞳に映る俺の顔が歪んだ。

らんの目から大粒の涙が溢れる。

どうしてそう思ったのか、と努めて優しく尋ねると、らんは話してくれた。

朝、俺が弁当を家に忘れていることに気がついたらんは、俺を追いかけて家を出た。

だが、途中で俺が花屋に寄っているのを見て、そこで買ったものを見て、らんはハッとして足を止め、家に戻った。

見てはいけないようなものを見た気がして、と、らんは呟く。

学校に行ってからでも、弁当は届けられる。

だかららんは、そのことを見なかったことにして、いつも通りの時間に家を出直した。

そして教室に入って、ゾッとしたそうだ。

俺が買ったものがそのまま、花瓶に入って机の上に置かれていたのだから。

クラスメイトたちはみんな、何が起こったのかと困惑している。

野次馬の中に俺の姿を見つけて、らんは確信したそうだ。

これをやったのは、確かに俺(いるま)なのだと。


「ねえ、どうして?どうして、こんな、、、」


「お前が悪いんだろ」


気付けば、俺はそんなことを口にしていた。

俺の『友達』なのに、他の人のことを見て。

お前には俺がいないといけないのに、俺なしでもやっていける術を身につけて。

もっともっと、孤独であってほしかったのに。

そう、、、中学校の頃のように。

俺がらんと初めて会った時は、らんは虐められていた。

だから、その時問題児と名高かった俺が、何となくらんに同情して助けてやった。

それからどんどん俺に溺れてきたのは、そっち(らん)だろうに。

俺はらんの手を取り、その手のひらにキスをする。

らんは驚いたように目を見開き、そして、くしゃりと顔を歪めて笑った。


「、、、そっか。ねえ、いるま?」


らんに呼ばれて顔を上げる。

らんはそんな俺の顔を顔を寄せて、俺の唇に自分のそれを押し当てた。

大好きだったよ、とらんは囁く。

そして、離れたらんの顔には、悲しげな笑顔が浮かんでいた。


「ねえ、ごめんね。ありがとう」


らんはそういった直後、くるりと踵を返して、一目散に駆け出した。

下りてくる踏切の棒。

カンカンカン、、、と警報音が鳴る。

止める暇もなかった。

俺は、らんを止めようと伸ばした手を、だらんと垂れ下げた。

お前は、俺の目の前で消えてしまった。

俺が伸ばした手を掴むことなく。

ひとりで、涙を流して消え去った。

線路のど真ん中に。

道を歩いていた一般人が、悲鳴を上げる。

電車が突っ込んでくる。

急ブレーキの音がする。

その音も、悲鳴に聞こえた。

ああやりすぎた、と思った。

お前を自分のものにしたいがために、俺は、たくさんの選択を間違ってしまった。

地面に俺の汗が落ちた。

蝉の声がうるさい。

カシャンッと音がして下を見ると、俺の足元に、見覚えのあるキーホルダーが落ちていた。

それは、シェアハウス記念にふたりで色違いで買ったお揃いのキーホルダーだった。


***






『友達』だったのに。











らんは俺の手を掴んでくれなかった。











俺の手をあえて掴まず、俺から遠ざかろうとして。











なあ、頼む。











頼むからさ。











ここに、











俺のところに、戻ってきてくれよ。











お前がいなきゃ、俺に居場所なんてないんだ。











お前のいないこの世界で、











俺はどうやって生きていけば良いんだよ?








***


らんの死を間近に見てから俺は、生きながらも死んでいるようなものだった。

ふとした瞬間に、死ぬ直前のあのらんの泣きながら笑った顔が浮かんできて。

胸がギュッと痛くなって。

自分がしてしまったことを思い返すと、俺は、どうしようもないくらい黒い気持ちに駆られる。

スノードロップを買い求めた自分を、今すぐにでも殺したくなる。

らんを束縛したいが故に、俺は、いくつもの判断を間違えてしまった。

俺の耳の奥には、あのうるさい蝉の声がいつまでも鳴り響いている。

それは、らんが死んだ時に鳴り響いていたあの蝉の声でもあった。

俺のスクールバッグには、ふたつのキーホルダーがついている。

それは、ひとつが欠けた部分のない綺麗な淡紫色のキーホルダー、もうひとつが端の方が欠けてヒビが入った淡桃色のキーホルダーだ。

らんとのシェアハウス記念に買った、らんと色違いのキーホルダー。

淡桃色の方のキーホルダーは、らんが持っていたものだ。

欠けているのは、らんが電車に轢かれた時にらんの制服の胸ポケットに入っていた生徒手帳の中に挟まっていたこれが飛び出て、落ちた時に割れたから。

俺はそれを拾って、ずっとスクールバッグにつけているのだった。

忘れないように、この惨劇を、忘れないように。

らんとの楽しい思い出ばかりを覚えていないように。

こういうこともあったのだぞ、お前がらんを殺したんだ、と思い出せるように。


らんの死ぬ瞬間を見て帰ってきた俺を、先生方は問い質した。

だから俺は、何も包み隠さずに話した。

俺は、同性だけどらんが好きだったこと。

らんを独り占めしたいがために彼を束縛し、他の人を寄らせないようにしたこと。

だけど最近、らんが他の奴らと仲良くしているのを見て腹が立ったこと。

だから、また孤立させるためにああやってスノードロップの花瓶をらんの机の上に置いたこと。

だが、そのスノードロップを買っているところを、らんに目撃されてしまっていたこと。

そのせいで、らんは死んでしまったこと。

優しいあいつのことだ、俺のために自分の命を投げ捨てたのだろう。

俺がもう二度と、間違わないように。

誰かを殺さないように。

スノードロップ『貴方の死を望みます』。

その想いに、応えて。


職員室から帰ってきた俺を、なつもすちも、こさめもみことも、みんな迎えてくれた。

それから、みんな俺を責めることなく受け入れてくれた。

こさめとみことも俺と仲良くしてくれて、どうしてこんなに良くしてくれるのかわからなくて、そのまま聞いた。

そうしたら、「らんが「いるまと仲良くしてやってね。アイツ、見た目と口調は怖いけど良いヤツだから」と言っていたから」と答えた。

更につけ加えて、喋ってると意外と面白い、と。

こんな、ひとりの命を奪うようなことをしたやつを、受け入れてくれて。

でも俺は、自分が許せなかった。

らんの葬列に並んだ時に見た、あのらんの家族が声を上げて泣いている様子を見て。

でも、らんの家族は誰も俺のことを責めなかったことを思い出して。

俺は自分を殺したくなる。

あんな優しかったらんが死んで、俺が生き残るなんてあって良いはずがない。


そう思いすぎたのか、たまに、見える気がする。

らんが、半透明のらんが、虚ろで真っ黒な瞳で俺を見つめ、指を指しているところが。

それからだんだんとやつれていく俺を見た俺の家族の勧めでお祓いに行っても、特に何も憑いていないと言われた。

だからあれは、俺が自分に見せている幻覚なのだ。

だから俺は、それを放置した。

自分の罪だから。






なあ、らん。






お前は、謝る必要なんてなかったよ。






ごめんな。







謝っても許されないかもしれないが。







俺はお前に、ずっと、謝りたいんだ。






〈歌詞〉

本能が狂い始める 追い詰められたハツカネズミ

今絶望の淵に立って 踏切へと飛び出した

そう君は友達 僕の手を掴めよ

そう君は独りさ 居場所なんてないだろ?

2人きりこのまま 愛し合えるさ


繰り返す

フラッシュバック 蝉の声 二度とは帰らぬ君

永遠にちぎれてく お揃いのキーホルダー

夏が消し去った 白い肌の少女に

悲しいほど 取り憑かれてしまいたい


本性が暴れ始める 九月のスタート告げるチャイム

次の標的に置かれた花瓶 仕掛けたのは僕だった

そう君が悪いんだよ 僕だけを見ててよ

そう君の苦しみ 助けが欲しいだろ?

溺れてくその手に そっとキスをした


薄笑いの獣たち その心晴れるまで

爪を突き立てる 不揃いのスカート

夏の静寂を 切り裂くような悲鳴が

谺する 教室の窓には青空


そう君は友達 僕の手を掴めよ

そう君がいなくちゃ 居場所なんてないんだよ

透き通った世界で愛し合えたら


繰り返す

フラッシュバック 蝉の声 二度とは帰らぬ君

永遠にちぎれてく お揃いのキーホルダー

夏が消し去った 白い肌の少女に

悲しいほど 取り憑かれてしまいたい


透明な君は僕を指さしてた

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