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레몬인
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そあち♡໒꒱
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なんたろ
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第132話:This is a Tax(税金は地獄)
「OK、落ち着け俺。相手は言葉の通じない外人どもとはいえ、所詮は画面の向こう側の人間だ。ビビることはない」
帯広のボロアパート、四畳半。
俺は三万円のゲーミングチェアの上で、脂汗をダラダラと流しながら、片手に最新の翻訳アプリを開いたスマートフォンを握りしめていた。
現在、俺のPCモニターには、俺の超絶イケメンアバターである『ルシフェル』と、我が社が誇る(そして俺の首を絞めている)海外向け新人VTuber、猫耳ズボラ娘の『ヨモ』が並んで表示されている。
今日は、株式会社インフィニティ・ワンが社運を賭けて送り出したヨモと、社長である俺の【初コラボ配信】の日だった。
ヨモのデビュー配信での「労働批判」が海外のZ世代にクリティカルヒットし、彼女のチャンネル登録者数は連日異常なペースで増え続けている。
そして、その余波(おこぼれ)に与ろうという俺の浅はかな考えにより、今回の合同配信が企画されたのだ。
ディスコードの裏回線から、我が社の冷徹なる経理担当・結愛(ゆあ)の声が飛ぶ。
『ルシフェル様、同接数がすでに三万人を突破いたしました。9割以上が海外からのアクセスです。粗相のないよう、社長としての威厳を示してください』
「い、威厳って言われても……俺、英語喋れねえんだぞ!」
『問題ありません。ヨモさんが通訳を兼ねます。……では、配信スタートです』
画面が切り替わり、配信に映像と音声が乗った瞬間。
チャット欄が、見たこともないスピードでアルファベットの激流と化した。
『――Hey guys. It’s Yomo. And this bald guy crying next to me is my boss, Lucifer. The CEO of this sweaty company.(やっほーお前ら、ヨモだよ。で、隣で泣いてるこのハゲおじさんが私の上司のルシフェル。このブラック企業の社長ね)』
ヨモの最高に気だるげなネイティブ英語が、世界中に発信される。
「おいヨモ! 翻訳アプリが『ハゲおじさん』って直訳したぞ! お前また俺のことハゲって言ったな! ちゃんとイケメン魔王って紹介しろ!」
俺が日本語でツッコミを入れると、ヨモはあくびのモーションを挟みながら、面倒くさそうに英語でリスナーに語りかけた。
『He’s screaming in Japanese that he is a handsome demon lord, not bald. Sure, grandpa. Let’s get you to bed.(彼はハゲじゃなくてイケメン魔王だって日本語で叫んでる。はいはいお爺ちゃん、ベッドに戻りましょうね)』
『LMAO YOMO OWNED HIM(クソワロタ、ヨモにボコられてる)』
『BALD DEMON LORD LETS GOOO(ハゲ魔王キターーー)』
『He sounds exactly like my manager when he’s panicking(パニクってる時のうちの店長にそっくりだ)』
チャット欄の海外リスナーたちは、完全にヨモのペースに乗せられ、俺を「いじられ役の面白おじさん」として消費し始めていた。
「くそっ、なめやがって! 俺がただのハゲおじさんじゃないってことを、このグローバルな舞台で見せつけてやる!」
俺は息を吸い込み、マイクに向かって、持てる限りの語学力(中学一年生レベル)を総動員して絶叫した。
「ハロー!! エブリワン!! アイ・アム・ルシフェル!! アイ・アム・プレジデント・オブ・ディス・カンパニー!! アンド……!!」
俺は、翻訳アプリの画面を睨みつけながら、一番伝えたかった「魂の叫び」を口にした。
「ディス・イズ・ア・ペン……ノー! ディス・イズ・ア・タックス!!(これは税金です!!)」
『…………』
一瞬、数万人が見ている配信の空気が、ピタリと止まった(ような気がした)。
「えっ……? な、なんだ? 滑ったか?」
俺が冷や汗をかいていると、ヨモが面白そうにニヤリと笑った。
『He just said “This is a tax” instead of “This is a pen”. He is literally traumatized by the IRS.(こいつ、「これはペンです」の代わりに「これは税金です」って言った。マジで税務署にトラウマ植え付けられてる)』
その直後。
チャット欄が、大爆発を起こした。
『THIS IS A TAX LMAOOOOO(ディス・イズ・ア・タックスwwwww)』
『NEW MEME JUST DROPPED(新しいミーム爆誕したぞ)』
『The fear in his voice is so real(声の恐怖がリアルすぎる)』
『Bro is fighting his inner demons and the government at the same time(こいつ自分の内なる悪魔と政府の両方と同時に戦ってる)』
「おおっ!? なんかウケてるぞ結愛! 俺の渾身の英語ギャグが世界に通用した!!」
俺が三万円のゲーミングチェアの上で歓喜していると、海外リスナーからのコメントの勢いはさらに加速していった。
俺は完全に調子に乗った。
日本の四畳半から、世界に向けて、俺の底辺のリアルを叩きつけてやる。
「リッスン・トゥ・ミー!! タックス・イズ・ヘル!!(税金は地獄だ!!) インボイス・システム・イズ・デビル!!(インボイス制度は悪魔だ!!)」
俺の片言の英語が響き渡るたびに、海外の労働者階級の若者たちが熱狂する。
『TAX IS HELL!! PREACH!!(税金は地獄!! その通りだ!!)』
『Down with the Invoice System whatever that is!!(インボイス制度が何かわかんないけどぶっ潰せ!!)』
「そうだ! 俺たちは税金という名の暴力に苦しめられている! だからこそ、俺は這い上がらなきゃならないんだ! なぜなら、俺は社会の底辺だからだ!!」
俺は胸を張り、カメラに向かって最大のドヤ顔(アバター越しの)を作って、決定的な一言を放った。
「アイ・アム・ボトム!!(俺は底辺だ!!)」
その瞬間。
隣で適当に相槌を打っていたヨモの動きが、ピタッと止まった。
『……Wait, what did you just say?(……待って、今なんて言った?)』
「アイ・アム・ボトム!! アイ・アム・スーパー・ボトム!!」
俺は誇らしげに連呼した。俺ほど底辺の泥水をすすってきた四十歳はいないという自負があった。
しかし、チャット欄の反応は、先ほどまでの「共感」から、全く違う方向への「爆笑」へと変わっていた。
『SUPER BOTTOM LMAOOOOO(スーパーネコwwwwww)』
『HE ADMITTED IT!(自分で認めやがった!)』
『We love a submissive demon lord(従順な魔王様、最高だぜ)』
『Yomo, please step on your super bottom boss!(ヨモ、お前のスーパーボトムなボスを踏みつけてやれ!)』
「……ん? なんだ? なんでみんな『サブミッシブ(従順)』とか言ってるんだ? 翻訳アプリがおかしいのか?」
俺が首を傾げていると、ヨモが堪えきれない様子で吹き出した。
『Ahahaha!! Boss, you might wanna look up what “bottom” means in English slang. You basically just announced to the whole world that you like to be dominated in bed.(あははは!! 社長、「ボトム」の英語のスラングの意味、調べた方がいいですよ。あんた今、全世界に向けて「俺はベッドで支配されるのが好きです」って宣言したんですよ)』
「…………は?」
俺は震える手でスマホの翻訳アプリに『bottom スラング』と打ち込んだ。
画面に表示されたのは、『(性的な意味での)受け、ネコ、支配される側』という無慈悲な解説だった。
「ち、ちがァァァァァッ!! 違う!! 俺は社会的な底辺って意味で言ったんだ!! ベッドの話じゃねええええ!!」
俺の絶叫が虚しく四畳半に響き渡る。
しかし、時すでに遅し。
X(旧Twitter)では、瞬く間に『#ThisIsATax』と『#SuperBottomLucifer』というハッシュタグがトレンド入りし、切り抜き動画が数百万回再生の勢いで拡散され始めたのだ。
『SuperChat: $100.00 (For our Super Bottom CEO! Buy yourself a collar!)(スパチャ100ドル:我らがスーパーボトム社長へ! 首輪でも買いな!)』
『SuperChat: $50.00 (TAX IS HELL, BUT YOU ARE BOTTOM)(スパチャ50ドル:税金は地獄、だがお前はネコだ)』
「やめろォォォ!! 金を投げるな!! 誤解だ! 俺はただ税金が怖いだけのおっさんなんだよォォ!!」
画面いっぱいに降り注ぐ、ドル建てのスーパーチャットの雨。
それは、海外リスナーからの圧倒的な支持(と盛大な勘違い)の証だった。
『ルシフェル様』
阿鼻叫喚の最中、結愛の氷点下ボイスがディスコードから冷ややかに告げた。
『先ほどの「I am Bottom」発言が海外ミームとして定着した影響で、当チャンネルへの海外トラフィックが前日比400%の急増を記録しております。これに伴い、スーパーチャットの収益も爆発的に増加中です』
「ち、違うんだ結愛! 俺は変態じゃない!」
『ルシフェル様の性的嗜好は経理上、全く問題になりません。問題なのは、このドル建て収益の急増による【為替差益】と、それに伴う来年の【課税対象額】のさらなる上乗せです。現時点で、来年の税金予測額はさらに五百万円ほど上方修正される見込みです』
「ご、ごひゃくまん……っ!?」
『おめでとうございます。これで名実ともに、税務署に支配される【スーパーボトム】の完成ですね』
「鈴木さァァァァん!!」
俺は、帯広市役所にいる天敵の名前を叫びながら、三万円のゲーミングチェアの上で崩れ落ちた。
片言の英語と、痛恨の翻訳ミス。
それが引き起こした予想外の海外バズは、四十歳のおっさんの尊厳を打ち砕き、さらなる税金地獄(インボイスの沼)へと俺を沈めていくのであった。
「タックス・イズ・ヘル……っ! インボイス・イズ・キル・ミー……っ!!」
俺の魂の叫びは、極彩色のドルの雨にかき消され、世界中のネットミームとして永遠に刻まれることとなった。
コメント
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ええー!この話、最高すぎた!笑 「This is a tax」からの「I am bottom」って…まさか社長が世界にカミングアウトしちゃうとは思わなかったわ(笑) 翻訳アプリの罠、マジで笑った。そして結愛ちゃんの「名実ともにスーパーボトム」の一言が刺さりすぎるw でも最終的に税金地獄に戻ってくるオチがもう…このシリーズの真骨頂だよね!タックス・イズ・ヘル🔥