「おい、あれ…」
「ぎ、ギルドマスターだ!冒険者ギルドのギルドマスターたちが帰ってきたぞ!!!」
ようやく俺たちはサウスプリングの町へと帰って来た。その際、市壁で防衛体制を整えていた警備兵たちが俺たちを見つけると大慌てでこちらへと駆けつけてきた。
「ギルドマスター!ご無事で何よりです!!さあ皆さんこちらへ!!!」
「ありがとう。その前に警備兵団長は今いるか?」
「はい!あちらで待機しております!!」
俺たちはすぐに警備兵団長のいるところへと案内された。
そういえばサウスプリングの警備兵団長って…
「おぉ!アースルドさん、ご無事でしたか!!」
「私はこの通り大丈夫だ。それよりガイル、ゴブリンのことなのだが…」
やっぱりガイルさんがここの警備兵団長だったんだな。
そういえばガイルさんとは初めてこの町に来た時に会った以来かも知れない。
ギルマスがガイルさんに今回の討伐作戦のことや超越種のこと、そしてすでに討伐完了したことを知らせる。もちろん俺が討伐したというところは上手く精霊の助けがあったと説明してくれていた。
「なんとっ?!それでは、もう脅威はなくなったと考えてよろしいですか」
「ああ、一連のゴブリンによる脅威はなくなった。そのことを皆に伝えてくれ」
「それは、それは本当に良かった…!みんなっ!急いでこのことを伝えるんだ!!」
「「「はいっ!!!」」」
ガイルさんは部下たちに急いで脅威がなくなったことを伝えるよう走らせる。先ほどまで表情が硬く、緊張感で張り詰めていた警備兵たちの空気が安堵と喜びの色に染まっていくのをはっきりと感じた。
「そういえば兄ちゃん、前に会ったことあるよな。確か名前は…ユウトだったけか?」
「はい、ユウトです。ご無沙汰しております」
「だよな!立派な冒険者になりやがって!!見違えたぞ!!!」
久しぶりのガイルさんとの再会というのも相まって少し世間話が盛り上がってしまった。ギルマスは領主に説明をしてくると言って行ってしまい、ゲングさんは念のために警備兵団で治療を受けるために医務室へと向かった。
話し始めてからどれくらいたったのかは分からないが、しばらくして俺たちのもとへと遠くから誰かが必死に走ってくるのが見えた。あれってまさか…
「ユウトさんっ…!!!」
「えっ?!レイナさん?!?!?」
制服のまま息を切らして走ってきた彼女は俺たちのところまでやってくると、息を整える間もなく俺の肩を掴んだ。その目には大粒の涙を浮かべながらこちらをじっと見つめている。
「ぶ、無事なんですか!?け、怪我とかはしてませんか!?!?」
「お、落ち着いてください!僕は大丈夫ですから!!」
とりあえず俺は少しパニック状態になっているレイナさんを落ち着かせようと優しく声をかける。次第に息も整い始め、レイナさんも普段の落ち着きを取り戻していった。
「すみません、取り乱してしまいました…」
「いえ、大丈夫ですよ。それにしてもどうしてここに?」
俺がその質問をするや否や思い出したかのようにレイナさんが真剣な表情をしてこちらを睨みつける。今まで見たことがない彼女の表情に俺は少し息をのんだ。
「どうしたもこうしたもないですよ!アレンさんたちから聞いたんですよ、ユウトさんがみんなを逃がすために一人でゴブリンの超越種と戦ってるって。ギルドマスターさえ勝てなかった相手だからおそらく勝てないだろうって…」
レイナさんは徐々に声が小さくなっていき、再び目に涙を浮かべていた。
肩を震わせながらも必死に自身の気持ちを伝えようと言葉を紡いでいく。
「私…ユウトさんがもう帰ってこないんじゃないかって。私がギルドマスターに推薦しなければ、こんなことにならなかったんじゃないかって…本当に、本当に心配したんですよ…!!!」
そうか、レイナさんは自分のせいで俺が超越種と戦う羽目になってしまったのではないかと思っていたのか。確かに俺はレイナさんの推薦で洞窟内へと侵入するチームに割り当てられたけれど、そのチームを離れて結局ゴブリン・イクシードと戦う選択を選んだのは誰でもない俺自身だ。彼女は何も悪くない。そのことを伝えなければ…!
「心配させてしまって本当にすみません。でもレイナさん、僕が超越種と戦うことになったのはレイナさんのせいではないです。戦うと決めたのは僕自身です。それにたぶん、レイナさんが推薦していなくても僕は洞窟内にはいて同じ選択を取っていたと思います」
「それに僕はこうして無事に帰って来れましたし…」
俺は思いの丈を全て言葉にのせてレイナさんへと伝える。
けどこういう時にかけるべき言葉のレパートリーが貧弱すぎて言葉に詰まってしまった。
「ユウトさん、それは結果論ですよ…!はぁ、これからはもう少し無茶は控えてくださいね!」
「は、はい!分かりました…!」
俺が返事を返すとレイナさんはようやく笑顔を見せてくれた。
やっぱりレイナさんは笑顔じゃなくちゃね。
「あー、そろそろいいか?」
そこにガイルさんが気まずそうに俺たち二人に声をかける。
やばっ、完全にガイルさんがいること忘れてた…
「お、お父さん!いつからいたの?!」
「えっ?!お父さん?!?!?」
ど、ど、ど、どういうこと?!
え、レイナさんはガイルさんのことをお、お父さんって言ったのか?!?!?
「いつからって…最初からずっといたが。それにしてもユウト君、うちの娘とかなり仲がいいように見えるがどういった関係なのかな…?」
え、ガイルさんから今まで感じたことのない圧を感じるんだけど。
てかレイナさんってガイルさんの娘さんだったのか。
「ちょっ、お父さん!!何変なこと聞いてるのよ!!!」
「どんな関係って、僕たちは普通に冒険者とギルドの受付って関係ですけど…」
こういう時は変に慌てるとあらぬ誤解を生んでしまうので淡々と事実を告げるのが一番だ。面倒なことだけは絶対に回避したいからな。これで「よくもうちの娘に色目を使いやがって!」などと嫌悪感を抱かれてしまったら…うん、面倒になるだろうな。
ガイルさんは俺とレイナさんの二人の様子を見て何か納得したかのようにうなずくと大声で笑いだした。正直思ってもみなかった反応だったからとてもびっくりした。
「ははははっ!なるほどな。レイナ、頑張れよ!」
「ど、どういう意味よそれ!」
レイナさんは恥ずかしそうに顔を赤らめながらガイルさんをポコポコ叩いていた。この親子の絡みを見ていると何だか微笑ましくなってくるな。それにレイナさんの意外な一面も見れたし良かった良かった。
このあとしばらく二人の親子喧嘩?を見守っていたらすっかり日も暮れ、上を見上げると綺麗な星空が広がっていた。今日のところはひとまず解散とのことで、俺は宿屋へと向かった。
すずねこ亭ではランちゃんがすごく心配そうに出迎えてくれた。どうやら俺がひどく血だらけのボロボロな格好をしていたので驚かせてしまったようだ。そこから心配する彼女を落ち着かせるのに四苦八苦するとは思わなかった。正直、町に帰ってきてからの方が精神的に消耗したような気がしなくもない。
そうしてようやく自室へとたどり着き、すぐさまベッドへとダイブする。
ベッドへと飛び込んだ次の瞬間、強烈な眠気に襲われてすぐに俺は深い眠りへと誘われた。
そうして長い長い一日が静かに幕を閉じていったのだった。
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