⚠️本編の前にご注意下さい⚠️
R描写ではありませんが、
今作では暴力シーンがあります。
苦手な方はどうか、
お控え下さいませ。
ではどうぞ
大森視点
それは本当に偶然だった。
彼が配信した「足りないもの」のMVを見つけた時、
コメント欄が派手に荒れていた。
ー何この声?微妙すぎるー
ーまだギター始めて3ヶ月だけど、俺の方が上手くね?ー
ーこんなテクでエアギターのチャンピョン?ヤラセだろー
痛烈な批判を見つけてしまった。
このアンチコメントを彼が見たらどうなるだろうか?
俺はそれだけが気になった。
なんて切り出せばいいだろう。
『MV見たよ』
これだと直接的すぎるか?
話がしたい。
でもそのための話題が見つからない。
仕事帰りにその日は何故かまっすぐ家に帰る気にはなれず、
モヤモヤした気持ちをどこかで解消したかった。
〜〜♪〜〜♫
どこからともなく優しくも儚い歌声が聞こえてきた。
それはーーー
「フロジナル?」
自分の楽曲なので聞き間違いがえようがない。
そのはずなのだが、
俺が歌っている時とは随分とスタイルが違っていた。
思わずその声の主を探し始める。
その人は公園で歌っていた。
〜「愛してる」なんかもう要らないよ
今だけただ抱きしめて欲しい〜♪
「あれ⋯TASUKUさんだよな」
「歌い方なんか違わない?」
若井と藤澤が不思議そうに彼を見つめながら、
そう言葉を洩らす。
例えるならJUJUさんのような、
フロジナルがバラードに聞こえる歌い方をしていたのだ。
なんだか声量を無理に抑えているのか、
高音を出すことに極端なほど慎重になっている感じがする。
やっぱりおかしい。
まるで手を抜いているように思えて、
それは彼らしくない歌い方だった。
「ねえ⋯これだったら本家の方が上手くない?」
「確かにね」
他にも何人かは足を止めていたが、
すぐに離れていってしまう。
その度に嫌な言葉ばかり投げかけていく。
それだけにはとどまらず彼はいかにもガラの悪い数人に絡まれる。
何か言い争いだろうか。
どうにも揉め始めたようだが、
あまり視力の良くない俺は状況がわからない。
「えっ!
喧嘩になりそう」
藤澤がそう焦った瞬間に、
俺は彼の方に走ったが、
その前にドカッという鈍い音が何度かした。
まさか暴力!?
「やめろ!」
やはり星崎は殴ったり、
蹴られたりしながらも、
必死にギターを守っていた。
相手4人組で2人が暴行、
他の二人がSNS向けか迷惑YouTuberのように、
その様子を面白がるようにそれぞれ別アングルからスマホで撮影していた。
「何⋯あんたこいつの仲間?」
「その人に触るな!!」
「はいはい。
ちょっと黙ろうか?」
ドカッと衝撃が骨にまで響きそうなくらい、
鳩尾に嫌な音をさせながら蹴りが入った。
彼が目で訴える。
(逃げて)
とーーーー
そんなことできるはずもないのに。
「お前ら何やってるんだ!!」
そんな怒号と共に警察官が公園に駆け込んできた。
ばっと後ろを振り向くと、
藤澤がスマホを空中で左右に振って見せた。
彼が通報してくれたのだ。
抵抗できないとわかると大人しく補導されていく。
「大丈夫?
というかなんかあったでしょ?」
「⋯⋯まあ、
多少は」
彼は中途半端に言葉を途切れさせた。
ストーカー騒動と同じでまた隠し事?と思ったが、
今回は違った。
リハビリをサボっていたことがバレて、
深瀬さんに心配と叱責をされたと、
ちゃんと話してくれた。
少しずつではあるが、
信頼関係が生まれつつあると実感できて、
俺は嬉しくなった。
「いてて⋯くち切ったかも。
血の味がする。
でも大森さんが何ともなくてよかった」
「星崎⋯ごめん」
自分がボロボロになっても俺の心配をして、
安心し切った顔で笑う。
その姿に何故だか苦しくなった。
(俺だって守りたかったよ)
その思いは言葉にうまく変換が出来ずに、
宙を彷徨った。
「そういえば⋯」
その後何かを確認するように、
スマホを持っていた彼から、
いきなり笑顔が消えた。
「何⋯これ?」
それは俺が最も恐れていたことだ。
ファンの反応が気になったらしく、
MVのコメント欄を見てしまったようだ。
外国勢は好印象なコメントを多数寄せて盛り上がっていたが、
日本勢は俺が見た時よりもさらに荒れていた。
ーヤラセでチャンピョンになった気持ちはどう?ー
ー相応しくないからチャンピョンの座を返還したら?ー
ー審査員に色目でも使った?ー
何でだよ?
どうして頑張っている人間をここまで、
徹底的に潰してまで蹴落とそうとするのか、
俺には分からないし理解したくもなかった。
「ははっ!
リアルでもネットでもバッシングかぁ〜」
無邪気に笑って見せるが、
その笑顔は痛々しかった。
我慢なんてしないで泣けばいいのに。
彼が泣けないならーーー
その場にしゃがみ込んだままの彼を、
俺は膝をついてただただ傷が癒えるように抱きしめた。
しばらくするとやっと心が追いついてきたのか、
俺の腕の中で激しく嗚咽まじりに泣き出した。
お願いーーーーアンチになんか耳を傾けないで、
俺の言葉だけ聞いてよ。
ちゃんと頑張ってるところを見てるからさ。
だからそんなに悲しまないでほしい。
アンチから絶対に守るよ。
だから俺の手を取って。
その闇から救い出しあげるから。
その頃(おまけ)
「あー⋯こりゃ完全に二人の世界だな。
どうする?」
若井がコソッと僕に耳打ちをしてきた。
外はまだ冬が到来していないとはいえ寒い。
そのため早く帰りたいのだが、
勝手に離れるわけにもいかない。
「あの中に割って入るのは無粋だよ。
そっとしておいてあげなきゃ」
とりあえずLINEで先に帰ることをメッセージで残して、
僕は若井と二人で元貴とも一緒に住むシェアハウスに帰った。
雫騎の雑談コーナー
は〜い!
変な終わり方ですいません。
今回はね、
大森さんだけの視点では語れん!
ということでおまけ(藤澤さん視点バージョン)をつけました。
短すぎてあんま面白くないけどね。
んじゃー本編ですな。
高音を失った彼が次は何を失うのかと怖がって、
リハビリが必要な体でありながら、
治療を受けていなかったんです。
でも声を取り戻すためにリハビリに前向きになっていたタイミングで、
喉の具合が芳しくないことを知り、
持ち前の低音すら声が安定しなくなってしまい、
歌い方を変える選択をした星崎。
それでも声が出しづらいことは変わらず、
そこに路上ライブでの生のアンチ、
暴力行為を受けて、
さらにネット上で配信したMVにまで、
アンチコメントの集中攻撃を受ける星崎。
正に袋叩きに遭うんですね。
徐々に病み要素?
じわじわ崩壊が始まる展開となってきました。
次回で40話!
ついにここまできたか。
雫騎は今日もアクセル全開で書きまくりまっせ!
次回もお楽しみに〜
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