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どうも皆様、サカナです
気がつけばもう2年生に上がるとは…
今年は頑張って浮上すると言った以上、なるべく月1では出せるようにしたいところです…(2月欠勤)(3月欠勤)
イタリア王国のお話です
⚠️オリキャラ(この話限り)多め、殺人描写、人肉食、旧国
「あなたが人狼なんでしょ!」
「ち、ちがうよ!!僕はやってない!!」
「嘘をつくな!この悪しき人狼め…!俺の恋人を返せ!!」
「おい待て、まだ話し合いは終わってない!」
「待てだと!?お前は狂ってる!こいつが人狼じゃないならなんだってんだ!」
「誰か早く殺して!こいつよ!」
「ここに縄がある、首を吊ってしまおう!」
「嫌だ、ちがう、やめてくれ!ちがうんだ!!その男だ、その男がマリアを!! 」
「取り押さえろ!!人狼が暴れるぞ!!」
暴れていた青年は村人たちに取り押さえられ、首に荒縄を巻かれる。
「ああぁあ!!ちがう!!ちがうんだあああ!!!」
もがいてもがいて、必死に縄を外そうとする青年。
村人たちの中で一際力の強い男が、処刑台へと縄を吊り上げた。
「かッ…ぐぇッ…や、め…」
宙ぶらりんになった青年の足が空を切り、次第にその動きは小さくなっていく。
「いいぞ!」
「その悍ましい正体を見せなさい!」
赤かった顔は徐々に青くなり、縄を掴んでいた手はだらりと垂れ下がる。
暴れなくなった青年の首に繋がる縄を力の強い男が地面の杭に括り付けた頃には、青年はとっくに息絶えていた。
対して発展もしていない山の中の小さな小さな村。
その村に住む全ての人がこの場に集まり、一部は青年の死を喜び、一部は恐怖と苦痛に歪みきった青年の顔から目を逸らす。
「あぁマリア…君の仇は取ったぞ…」
「まだ人狼だと確定した訳でもないのに…」
「あいつは一人暮らしだったろ?人狼が入れ替わっても気づかねえし、誰にも見つからずマリアを殺すなんか、簡単にできちまう。あいつは人狼だったんだよ」
この村では毎日一人ずつ、投票で選ばれた者を処刑をしている。
なぜこのような事態に陥っているのかと言えば、村に潜んだ人狼と呼ばれる異形のせいであった。
彼らは魔力を用いて村人に化け、さらりと集落に馴染み、毎夜村人の誰かを殺してその肉を食らう。
一刻も早く化けている人狼を見つけ出して殺さなければ、村は人狼に食われて消滅するしかない。
しかし、無闇に処刑しても真の人間が減りすぎて、結局村は破滅の道を辿ることとなる。
各地に伝わる伝承では、人に化けた人狼が死ねば元の姿を表すとされているが…
この村は人狼の被害が出てからもう約一週間が過ぎたというのに、人狼の被害者だけでも5人を超えるというのに、一向に見つけ出せていなかった。
それもそのはず。
こんな寂れた村には、人狼や悪魔といった存在を退治してくれるエクソシストなんていない。
エクソシストがいなければ聖水もなく、人狼を見つけ出す手段そのものがなかった。
「…なぁ、おい」
「……なによ」
「リカルド、狼にならないぞ…」
「じゃ、じゃあ、人狼じゃなかったっていうの…?」
「だから待てと言ったのに…」
無念にもこうして殺されてしまった一般人に対しても、村人たちは謝ることか、責任転嫁することしかできない。
「みんな、悲しいけど…仕方ないよ、誰のせいでもない。いつも通り、遺体は僕が埋めてくるから…」
「ありがとう…ごめんね、変なことやらせちゃって」
「気にしないで。僕は話し合いができるほど頭も良くないし…これくらいしないとね」
少し気弱そうに見える青年が遺体を肩に担ぐと、儚げに微笑んで森の奥にある墓地へと向かっていった。
一方、今回処刑された者が人狼だと信じ切っていた者たちは、自分の罪を忘れようと声を荒げて人狼への怒りを掲げている。
「それもこれも全部人狼のせいだ!早く見つけねえと、また犠牲者が出ちまう!」
「見つけるったって、道具も何もないじゃないか。これだから根性論ばかりのやつは嫌いなんだ」
「はぁ?そう言うフランチェスカこそ、お前都会の大学に行ってたんだろ?じゃあその賢い頭でとっとと見つけ出せよ!」
「わからないやつだな、道具もないのにどうやれって言うんだと聞いてるんだ!!」
「ちょっとやめてよ!喧嘩したって仕方ないでしょ!」
人狼の被害は、人死だけではない。
村人に化けるという特性のせいで、かつては笑い合って肩を組んだような仲でも疑わなくてはならなくなる。
人狼は誰にでも化けられるのだ。
彼らが食らった者になら、誰だって。
つまりは昨日まで話していた友が、プレゼントを贈り合った恋人が、育ててくれた両親が、ある日突然人狼に食われて、成り代わられている可能性は十二分に有り得てしまう。
だから人々は疑い、自分以外のすべてが危険だと認識しながらその場で生活しなくてはならない。
大切な人を失う悲しみ、人狼に対する恐怖、自分たちの手で処刑した無垢なる人々への罪悪感。
それらは並のストレスとはわけが違う。
強烈なストレスを溜め込み、こうして村人同士で口論になっては、さらに疑心暗鬼が加速して、更にストレスは強くなる。
「うるせえ!お前に関係ねえだろ!」
「ジェスこそ無関係だろう!誰にでもそうギャーギャーと怒鳴って…お前なんか、」
人狼に食われてしまえ!
人狼は人々の心すら食いつぶしていく。
「テメェ…言っていいことと悪いことってもんがあるだろうが!!! 」
「そうよフランカ!!だめよ、そんなこと言わないで!」
「っ…!」
聡明で美しい女性──フランチェスカ──は駆け出した。
とにかくどこへでも良いから逃げたかった。
誰もいない場所で頭を冷やし、落ち着きたかった。
本当は彼女もわかっている。
人狼に食われてしまえ、だなんて。
今の状況では笑えないどころか、不謹慎にもほどがあった。
言ってしまった相手の男は既に友人を二人、人狼に食われている。
フランチェスカは走った。
我ながら最低だとは思いながらも、今だけはとにかく人に会いたくないと思った。
気がつけば、辺りは森林に囲まれた墓地。
質素な墓石が並び立ち、やや盛り上がっている土はどこか不気味に思えてくる。
「……」
精神的にも肉体的にも疲れたフランチェスカが立ち尽くしていると、少し向こうで微かな音が聞こえてきた。
今日の処刑者を埋葬しているのだろう。
棒立ちしてぐるぐる考えているよりは、誰かを手伝った方が気も紛れるかもしれない。
そう思って音のする方へ近づくと、そこにいたのはやはり、いつも埋葬を担当してくれている青年の姿があった。
「手伝おうか」
「!びっくりしたぁ…よかった、フランチェスカちゃんか」
墓穴を掘り進めていた青年…レオナルド。
その大きな背に声をかけると、彼はスコップを手放して振り返った。
背は高く力もそれなりに強いのに、人にも動物にも、植物にさえも優しく接し、頼りないまでの温厚さを持つ彼は、村で小さな食堂を開く料理人だ。
「驚かせてすまない。良ければ、 私にも手伝わせてくれ」
「僕は助かるけど…いいの?結構キツイかもよ」
家畜の解体も行うから血には慣れてる。
そう言ってレオナルドは、この毎日行わなければならない墓掘りまでしてくれていた。
「それは君もだろう。ふたりでやれば、キツイことなんて早く終わる」
なんだか自然にふっと微笑むことができ、レオナルドもふんわり頷いてスコップを渡してくる。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。ありがとうフランチェスカちゃん。僕はもう一本スコップを持ってくるから、先に掘り進めていてほしいな」
「わかった。どのくらい掘ればいい?」
「うーん…穴の幅は今くらいで、もっと深さがほしいな。ちょっと掘ったら棺桶が出てくる、なんて嫌じゃん?」
「ふふ、そうだな。頑張って深くしてみよう」
「ありがとう!すぐ戻ってくるよ!」
そう言って駆けていく青年の背中を見送り、フランチェスカは少し錆びた古いスコップを地面に突き立てた。
まだ柔らかく水を含んだ森林の土を掘って、掘って、掘り進める。
段々と硬くなってくるので、都度力を入れなければならない。
フランチェスカの足元にふわふわの土が小さく山をなし始めた頃、レオナルドはようやく帰ってきた。
「はぁ…はぁ…ごめんねフランチェスカちゃん!ボロボロのスコップばっかりで、使えそうなのを探してたら時間かかっちゃった!」
「大丈夫だ、気にしないでくれ。さ、もうひと踏ん張りだな!」
「本当に助かるよ、フランチェスカちゃんは頼もしいなぁ…!」
二人でスコップを持ち、さくさく、さくさく。
土塊が飛んで服を汚したり、少し大きな虫に驚いたり。
久しく誰かと仲良く作業するなんてしてこなかったが、体も動かして、墓掘りだというのに、フランチェスカの気は晴れていた。
「…ねぇ、フランチェスカちゃん」
「なんだ?」
「人狼対策って、何してる?僕は独り身だから、狙われそうで怖いんだ。良かったら取り入れたいんだけど、教えてくれない?」
いよいよ棺を埋めようというときに、些か場違いな質問だろうか。
けれども、仲良くなってきたフランチェスカは疑わなかった。
「そうだったのか、それは不安だろう。なにか有効策があれば教えたいところだが…何しろ、私も特に何もできていないんだ」
「そうなの?フランチェスカちゃんは頭が良いから、きっとすごい対策をしてるかと思ってたよ」
「はは、買いかぶりすぎだ。だが本当のことでな。そりゃあ、夜は侵入を防ぐためにドア前に大きな家具を移動させたり、カーテンを閉め切ったりはしているんだが…聖水を置いておくとか、本格的なことはできないだろ」
この村には小さな小さな教会があるものの、建物があるだけでエクソシストはおらず、ただ人々が縋り祈るだけの場所。
ないよりマシだが、なくても対して変わらない。
小さな村特有の、大きな問題だった。
「そうなんだね…窓はどうしてるの?」
「鍵とカーテンを閉めて、板を少し打ち付けている。ただ、もし侵入されたときに逃げる道がなくては困るから、寝室の窓だけは、板を打ち付けたりできなくてな…わざわざピンポイントに来ないだろうが、少し不安だ」
人狼一人につき一晩にひとり襲うというが、そのひとりにならない為には、工夫がいる。
ドアや窓を塞ぐなんてもはや前提と言える対策だが、他には猟銃、トラバサミなどの専門的かつ攻撃的な手段しかない。
他に有効的な対策があるとすれば、自分以外の誰かの家の近くに生肉や家畜の死体などを置く、といった非道なものくらいなものだろう。
「それは危ないね、フランチェスカちゃんは女の子だし…じゃあ、逆に僕がしてることを教えてあげる。簡単だよ」
「本当か?教えを乞われたのは私なのに、すまない。教えてくれると助かる」
「困ったときは助け合わなきゃ。えっとね、その対策っていうのは、窓の外に十字架を吊るすのさ」
「十字架を?だが…迷信とは言われているものの、それは人狼信者の証だと思われるんじゃないか?」
「確かに人狼信者の証とかなんとか言われてるけど…本当に迷信でしかないよ。どこかの本で読んだのだけれど、吸血鬼が十字架を嫌がるように、人狼も十字架を嫌がるそうなんだよ。それを知っていた人が十字架を吊るして、どんなに無防備でも人狼に全く襲われなくなると、人々はその人を人狼の仲間だと思い込み、人狼信者の証なのではないかという迷信に変わってしまったんだ。じゃないと、教会が人狼の仲間になってしまうでしょう」
「…やはり、そう、だよな…ただの迷信だ。あれは。 だがそれでは、裁判のときに危ないのでは?普段はそう言い放てたとして、皆、人狼を恐れている。迷信を迷信と言い切れず、人狼の次に危険な人狼信者だと排除されてしまうかも」
人狼信者…それは人間でありながら、人狼に協力する狂った者たちの総称だ。
襲いやすい人物、襲うと人狼に有利なことがある人物、武器を所持している人物、人狼を人狼だと疑っている人物…
それらを内側から知っていて、密かに人狼に教える存在。
ゆえに、人狼は人狼信者を襲わないし、
ゆえに、人々は人狼信者を恐れている。
「じゃあ…誰も出歩かない深夜にだけ、吊るすとか。なにも、四六時中でっかくて目立つものを吊さなくたっていいんだ。人狼が襲いに来る時間帯に、みんな持ってるようなロザリオを、窓の外にかけておくだけでもいい。十字架には違いないんだもの」
「…それなら、まあ。いい、のかな」
「やるかやらないかはフランチェスカちゃんの自由だけど…試す価値はあると思うよ」
穏やかなレオナルドの瞳はいつになく強く輝いていて、不思議な説得力を持つ。
その瞳の力で、フランチェスカは試すだけならと思わされ、家の中で鈍く光っているであろう、銀色のロザリオを思い浮かべた。
「さて…リカルドくんも安らかに土の中で眠ってくれたことだし、帰ろうか。お腹空いたでしょ、手伝ってくれたお礼に何か無料にするよ。パスタがいい?それともリゾット?ああでも、まだまだお昼には早いね。今ならエスプレッソくらいの時間かな。 アフォガードなんてどう?」
「アフォガードか…そういえば、最近はまともなものを食べていなかった。ありがたく戴くよ」
「そうなの?だったらとびきり美味しいエスプレッソと、よく冷やした甘ぁいバニラアイスを用意しなくちゃ。レディには美味しいものを食べてほしいからね」
「君は煽てるのが上手いな。とても楽しみだ」
「あーあ、本当に信じちゃってるじゃん」
風にふるりと揺れた銀色のロザリオを見ながら、青年は呟く。
帽子の隙間からぴょこんと飛び出ているのは、人間には存在しないはずの狼の耳。
瞳は鋭く縦に割れ、口には肉を引き裂くための牙がある。
「僕がここにいなくても、 遅かれ早かれ、変な人間に騙されてたんじゃないのかな」
うーん、とナタや袋を持った人狼は、至って慎重に、そして慣れた様子で窓を割った。
割った部分から腕を入れ、鍵を開ける。
カーテンを優しく音もなく退けてしまえば、専用の小さなエントランスが出来上がった。
「この子を狩ったら最後にしようと思ってたし…丁度良いタイミングでお話できて良かった。美味しく料理してあげるからね」
するりと軽い身のこなしで部屋の中に侵入すると、人狼は すやすやと眠る人間の女の首によく研いだナタを当て、そのまま押し込むようにして首を切断した。
ルーポ・マンナーロ…名前をイタリア王国という。
夜遅くまで食堂で働いていた人間の男を捕食して化け、若い女を中心に人間を狩っていた。
なぜこんなことをするのかと言われれば、理由はただ一つ。
「よーし、食材ゲット。今回は大漁だなぁ」
彼自身魔界で飲食店を営んでいるので、その食材を調達しに来ているのだ。
血に染まる寝具のことを気にも留めず、イタリア王国は首と泣き別れになった胴体を袋の中に放る。
広がっていく濃い血の匂いをすんすんと無意識に嗅ぎ、イタリア王国は月がまだ出ていないうちに村を去った。
狩りを終えた数日後のこと。
イタリア王国はカウンターの中でぼんやり鍋の火の管理をしていたところ、 からんからん、と客の入店を知らせるベルが鳴り響いた。
「いらっしゃいませ〜!…って、なんだ、スペインか」
「なんだとはなんだ、俺というVIPなお客様に対して失礼な」
「ハイハイ、そういうのはツケを全部払ってから言っておくれよ」
来店したのはスペイン。
特別目を引く長く太い角を携えたドラク…要は、ドラゴンの一種である。
本来はこの店に入れないくらい巨大でドラゴンらしい姿をしているが、それでは彼らも生活がしにくいので、魔法で人間ほどの大きさに変身しているのだ。
「今日はお金あんの?」
「ない!けど腹が減ったのでお前のところに来た」
「ふざけてるな〜」
スペインは整った顔でニパッと笑い、そのまま堂々と席につく。
彼はイタリア王国の店の常連なのだが、金があってもなくても来店してくるため、イタリア王国は金欠の時は出禁にしてやろうか迷っていた。
「で?今回は何に使ったの。またアクセサリー?」
「それが聞いておくれよ、最近良い鉱物が出ると噂のドワーフの街へ行ったら、とても大きなエメラルドの原石が売っててな!?値段も相応に張ったが、これは買うしかない!って思ってさぁ!」
「それで有り金使い果たしたの?馬鹿じゃん」
イタリア王国は呆れたように頬杖をつき、満足そうに話すスペインに言う。
「ハハハ!!だが本能に従うって気分が良いからな、自慢のコレクションが一層自慢のものになったから、良かったと思ってるよ」
彼らドラゴンにはとある本能があり、それは「財宝を集め、 守りたくなる」というもの。
ドラゴンが一国の姫を攫うというよくある話だって、彼らが姫の容姿や身につけている宝飾品、ドレスなどを財宝として認識し、手に入れたいという衝動のままに動くからだった。
スペインは特にその欲求に素直で、自身の鱗を売ってでも金を稼いでは、全て趣味…もとい本能の赴くままに宝石を買い集めている。
「そりゃ君がいいならいいけどさ…何か食べに来たんでしょ?お金払えるの?」
「払えないが、お前なら物々交換してくれるからな。このドラク様が、金以外ならなんでも! お前の望むものを渡そう!」
大きな翼を広げて威厳たっぷりを装うスペインだが、言っていることは中々に惨めなものだ。
スペインはドラクという強い力を持った魔物であるが故に、大抵のことはできてしまう。
そのため、イタリア王国が手に入れにくい食材や必要なものと交換という形で食事を食べさせてもらうことが多々あった。
無論それだけではイタリア王国がやっていけないので、場合によってはある程度の金と物資で受け付けている。
その金を支払わないので、ツケになっているのだが。
「うーん、最低かも。とりあえず注文によるかな」
「ボロネーゼが食べたい。お前のところはいつも若い人間のメスを使っているから、俺好みで好きな味だ」
「嬉しいこと言ってくれるな。ボロネーゼね、了解。良かったね、丁度良い肉を仕入れたところなんだ」
イタリア王国はふっと笑い、客席近くの位置から、カウンターの隅にある鍋へと向かう。
スペインは既に、鍋から漂うよく煮込まれた美味しそうな肉とトマトの香りを嗅ぎつけていた。
この店の看板メニュー、ボロネーゼ。
店主自らが拘り抜いた食材と、どんな美食家も唸らせるような優れた腕。
客こそ少ないかもしれないが、イタリア王国の店は、知る人ぞ知る隠れた名店という地位を確立している。
「じゃあそうだな…お代には 新鮮な人魚の肉がほしい。できれば多めに」
仕込んであるラグーソースを鍋からフライパンに1皿分移し、弱火で温めながら、イタリア王国はスペインに話しかけた。
そして同時に、パスタを茹でるための鍋を強火で再沸騰させ、タリアテッレをさらりと入れる。
「人魚?そんなのでいいのか」
「君らドラゴンからすれば“そんなの”かもしれないけど、僕みたいな人狼にとっちゃ、人魚みたいに強い魔物なんて狩れないからさ。でも魚介と肉の中間みたいな味は中々ないし、新しいレシピも作りたいんだよね。狩ってきてくれる?」
人間からすれば大きな脅威たる人狼も、この魔界ではそうもいかない。
耳が良いから、歌で惑わせ水の中に誘い込む人魚のやり方とは非常に相性が悪かった。
「もちろん!あ、それなら淡水か海水、どっちの人魚がいいとかあるか?俺の近所にいるのは湖に住む人魚だから、海の人魚がいいなら従うが」
「できれば海の人魚がいいな。アクアパッツァとかに混ぜてみたいし」
「そいつはいいな!楽しみにしてるぞ!よしわかった、海の人魚の肉を、新鮮な状態で届ければいいんだな?」
「うん。よろしくね」
そうこうしているうちに、そろそろ良い茹で時間になってきたらしい。
フライパンのラグーソースの調子も見つつ、茹で汁を少し混ぜ、乳化の準備をさせた。
タリアテッレを茹で上がる一分前ほどで鍋から取り出し、先程から温めていた特製のラグーソースへ。
じゅっと良い音がして、イタリア王国は手慣れたようにフライパンを振った。
「見ていて楽しいな、ここは。待っている間も退屈なんてしやしない」
「あはは!本当に、口だけは上手いんだから。一種のパフォーマンスではあるけど、ちゃんと楽しんでくれたのなら、それは君の受け取り方が良いからだよ」
見事にソースと絡まりあったタリアテッレをトングで掴み、傷一つない真っ白な皿へ美しく盛り付ける。
そしてラグーソースを上から垂らし、チーズの王様と称されるパルミジャーノ・レッジャーノを削った。
「Ragù alla Bolognese、召し上がれ」
「では、実食といこうか」
フォークでくるりと巻いて、スペインはその大きくて牙の見える口で一口。
濃厚な肉感とトマトの風味が広がり、ソースによく絡んだ平たいタリアテッレが引き立てる。
脂身の少ない人肉は、単体では輝かない。
しかしながら、このように選び抜かれた赤ワインと新鮮なトマトと一緒に煮込まれれば話は違う。
肉の旨味というものが全面的に押し出され、街一つ簡単に滅ぼせる凶暴なドラゴンですら舌鼓を打つほどだった。
「…ん、やっぱ美味いな。素材を引き立て方をわかってる」
「褒めてもお代は変わらないよ」
「いやいや、知っているとも。ただ、こんな俺好みで美味い料理を出してくれる店主には感謝を伝えなくちゃな」
言い切って、またボロネーゼを口の中へ。
スペインはどこまでも素直な男で、その顔を見れば、イタリア王国は一瞬だけ代金のことを忘れていられる。
払ってほしいのは山々だけれど、客に喜んでもらえたのなら、料理人冥利に尽きるのだ。
「じゃあ、ありがた〜くその栄誉を受け取らせてもらうよ」
「代金の肉については、俺なりに誠意を持って選ぶつもりだったが…尚の事だな。お前ならちゃんと美味いものにしてくれるのだから、狩りの手間なんてないようなものだ 」
たった1皿のパスタ料理なんてドラゴンはすぐに食べきってしまう。
スペインの腹が満たされたかどうかなんて、イタリア王国にはわからない。
けれど、満足そうに笑っているなら、それで良かった。
「それじゃあ、入荷待ってまーす」
「ああ!必ずやこの料理に見合うだけのものを持って来ると約束しよう。美味かった!」
綺麗に完食したスペインはにこやかに店を出て、大きな翼を広げ、飛び立っていく。
今回も無事にお気に召したようで、人魚の肉はきっと多すぎるくらいに入荷されることだろう。
イタリア王国は汚れた皿と食器類を片付け、客もいないのでゆったりと丁寧に洗い始めた。
スペインが退店して暫く経った、 気持ちの良い午後。
狩りの為に店を一週間程度休業にしていた為に、再開直後は客がいないのだが、今日は特に少ないように思う。
だがまあ、これはほとんど趣味であるし、営業に困っているわけではないので、イタリア王国はぼんやりと座っていた。
「ふあ…ぁ〜…」
大口を開けて鋭い犬歯を見せながら欠伸をしても、ちょっと行儀が悪くても。
誰がいるわけでもないから、これはアリな行為なのである。
もう店を閉めてしまおうか。
そう思っていた矢先、装飾されたドアのガラス部分から大きな獣耳が近づいてくるのが見えた。
「あれ、珍しいお客が来たみたいだね」
お客がベルを鳴らすより先に、イタリア王国はエプロン姿のままで出迎え、からんからんとベルを鳴らす。
「Ciao!久々だねぇ、今日は陸だけ?珍しいなぁ、傷は癒えた?」
赤の混じった白く大きな欠けたキツネの耳に、この付近では見慣れない着物姿の青年。
さらさらふわふわの2本の尻尾を揺らして、足元には素敵な草履と真っ白な足袋。
「あぁ。長らく心配をかけたな。少し遅い昼食だが、まだ開いているか?」
「Ovviamente!」
もう何十年も前から会っていない旧友と再開できて喜ばない者など、きっといないだろう。
イタリア王国は礼儀正しく狐の妖怪を招き入れ、ぱたりとドアを閉めた。
「さぁさぁ座って、何が食べたいかな」
「お前のセンスに任せる。なに、人肉以外なら何が来ても食べるさ」
「相変わらず人肉だけは食べないんだ?美味しいのに」
「私は神に仕え、人間の味方をする存在だからな。まあ、食えなくはないが。それで参拝客を襲うようになったら、本末転倒だろう」
彼の名は陸。 種族は妖狐だ。
数多ある妖狐の位で言うと、霊狐というものになる。
妖狐の位は年齢や力の大きさで変わるものだが、陸はまだ百歳程度とかなり若い個体にも関わらず、神力を持ち始めていた。
本来は何百年もかけて登る階段であるので、その力の強さが伺えるだろう。
「次期家長ってのは大変だねえ。あんなに美味しいものを食べちゃいけないなんて。代わりに、僕が美味しいポルチーニ茸のリゾットを作ってあげる」
普通、妖狐は善にも悪にもなり、特に霊狐のひとつ下の位、野狐は個体差で全く異なる性質を持つ。
しかし、陸やその家族は皆、 神社で働く善性の妖狐だった。
「きのこか、それはいいな。だがそれで言うと、君だって大概大変だろう。元々人間なのに、人肉が主食になるのだものな」
「…まあ、僕はもう慣れたし。こんな店開いてるやつに言うセリフじゃないと思うけど」
食材を取り出しながら呆れたように言うと、陸は耳をぴくりと動かして頷く。
「確かにそうだ。最近は人狼になってしまった元人間の話もよく聞くから、お前もそうなのかと」
人狼には2種類あるが、どちらも人間が変異したもの。
一方は、満月に呪われたか、血が狼と混ざったか、理由は諸説あるが、人間からの突然変異。
もう一方は、その突然変異した人狼に眷属として、噛んで魔力を流し込まれての変異。
つまりは吸血鬼のように。
イタリア王国は、前者だった。
彼は受け入れているが、その変化に戸惑い、恐怖し、どうにか元に戻りたくて、神にすがりたい者たちも当然いる。
そうなったとき、神に仕える妖狐ならなんとかなりやしないかと、希望を持って話をしに来る人狼は後を絶たなかった。
「僕はもうこの身体で人生を楽しむことに決めたの。慣れなかったら人魚の肉吐き捨ててとっくに死んでるって」
小鍋に入ったブロードを弱火で温めながら、イタリア王国は話を続ける。
空腹感を刺激するような、出汁の良い香りがふわりと漂い始めた。
「寿命を伸ばしてまで得られたものは、何かあったろうか?」
「ないない!あーでも、素敵なお店と良い友人は手に入ったかな、唯一ね」
イタリア王国は特殊な人狼だ。
人狼は元が人間なだけに、寿命はそこまで長くない。
せいぜい百数十年。
人間からすれば長いだろうが、妖狐のように何千年も、ドラゴンのように何万年も、人狼は 生きたりしない。
しかし、人魚の肉に加工を施して食すことで、少しばかり寿命を伸ばし、一時的な不老になることはできる。
結果、若い姿で人狼の寿命を超えて生き、のんびりと人生を楽しんでいるというわけだ。
「それなら良かった。…なぁ、イタリア王国」
「なぁに」
「アイツは、元気にしていると思うか」
ポルチーニ茸を滑らかに切り分けていたイタリア王国の手が、すんと止まる。
「…まあ、元気なんじゃない?噂によれば、故郷の森で隠居してるとかなんとか…もう何か変なことは企まないと思うけど」
「もし不快だったら言ってくれ。…最近な、思うんだ。もしアイツのやり方が、もう少しだけ…平和的なものだったら、と」
「…君は真面目だね。でも僕は違う。悪いけど、まだその話はなしだ」
フライパンへオリーブオイルとバターを放り、これも弱火で温め、イタリア米を混ぜた。
カラカラとした乾いた音と、油がぱちぱち跳ねる音が大きくなって、料理は少しずつ出来上がっていく。
「いや、こちらこそすまない。湿った空気にしてしまって」
「構わないよ。料理の方はもう少しでできるから、何かもっと明るい話をしよう」
「そうだな。ここ80年は色々あった、君の店は一層箔が付いたし、小さかった弟と妹は高等学校に通うようになった」
「積もる話がたくさんあるよ、本当に濃い数十年だから。いつもなら夜はバーってことにしてるけど…決めた、今日は君の貸切だ」
狼と狐は、夜遅くまで語り合った。
陸を見送り、店の片付けも済ませたあと。
エプロンも脱いだイタリア王国はバックヤード、もとい私室で寝転び、天井を見上げる。
「あー、楽しかった…元気そうで安心したな…」
客もなく疲れも稼ぎもない、まあそんな日も良いかとあくびを一つ。
イタリア王国はだらけて眠りたい気持ちを抑え部屋を出て、階段を登った。
「最近晴れてたし、程よ〜く魔力も抜けてるはず…」
向かっていたのはベランダだ。
側にかけていた大きなフードがついたパーカーを羽織り、顔を覆うようにしてフードを被る。
今宵は月が綺麗だが、イタリア王国は人狼であるので、まんまるの月を見ると暴走して大変なことになってしまう。
折角の店を自らの手で潰すなど、望んでいない。
「よし…これが若さの秘訣、ってね」
月光に晒していた人魚の干し肉。
干しかごから一欠片だけ取り出して、イタリア王国は食べながら足早に室内へ戻っていった。
人魚の肉を食べると不老不死になる。
だが、人魚本体は不老でも不死でもない。
ならなぜそのような効果を得られるのか…
それはある種、人魚の呪いだからだ。
人魚の肉というものは、人魚を傷つけ、殺さねば手に入らない。
相手を恨み、その身に持つ魔力が強力な呪いへと転じると、食べた者に不老不死を授ける。
不老不死は決して祝福ではない。
大切な人が死のうと、自分がバラバラになろうと、全ての生き物がいなくなっても、星が死んでも、生き長らえるしかないのだから。
不吉の象徴たる人魚から贈られる最大限の呪いこそ、不老不死をもたらす肉。
だが、魔力は月の光に溶けてしまう。
干し肉を作る要領で人魚の肉を長い時間月光に晒していると、魔力が抜け落ち、不老不死の効果は薄まっていく。
イタリア王国はその魔力を抜いた人魚の肉を食べ、不老長寿という夢のような祝福を得ていた。
死にたくなれば人魚の肉を食べずに、ありのままの寿命を取り戻してしまえばいい。
満月を遮光カーテンの向こうに追いやって、傲慢な人狼は眠りに落ちた。