テラーノベル
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数日後、リディアはオルトゥスの住人を広場に集めた。
そこで、この街がネブラという種族に狙われていることを伝える。既に北と西から攻撃を受けており、今後もそれが続くだろうこと。そして、これからはネブラとの戦いが激しくなるであろうこと。
住人たちは信じられないと声を上げていたが、中にはおかしな魔物がいる、という噂を既に聞いた者もいた。それは移住前に聞いた話であったり、ブラガやラーナといった外部の者から聞いた話であったりした。
――その夜、リディアは居間で考えていた。
伝えるべきは伝えた。一緒に戦ってくれることを望むが、全員が全員、そんな考えにはならないだろう。命が懸かるのだから、無理強いはできない。ただ、オルトゥスが落ちてしまえば、いずれはどこも同じになるかもしれない。
「ぼよんぼよん」
「あら、キング。慰めてくれるの?」
いつの間にか、キングが横で揺れている。そっと手を触れると、その身体は冷たく、熱くなった頭を冷やしてくれるようでもあった。
「お茶のお代わりを淹れますね」
アルマもそっと、近くにいてくれる。シオンはデュランと一緒にレンザンの元へ行っており、頼りになりつつも、少しだけ寂しくなった。
「……ありがとう。いくら考えていても、他人の心は変わらないものね。ひと休みしたら、私もせいぜい頑張ることにするわ」
「ぼよんっ」
温かい紅茶に口を付けると、目が覚めたような気がした。やるべきことはいろいろあるが、まずは転写石を作らなければいけない。リディアは気合を入れて、工房に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リディアは転写石というものを知らなかったが、調べてみると作るのは簡単で、すぐに提供することができた。蚊取り閃光の改良版も完成し、それに伴い、凍結して保存していたヒルの魔物は焼却した。リディアとしては、目に入れたくもない存在だったのだ。
「……少し、せいせいしたわね」
「それなら良かったです。醜いものは、全て消していきましょう」
シオンは物騒なことを言うが、その言葉は何よりも頼もしかった。それにはネブラの存在も含んでおり、その絶滅がリディアの願いでもあったのだ。
「私は……ネブラを皆殺しにするわ。シオンも手伝ってくれる?」
「はい、もちろんです。僕は何で人間を殺すのか分からなかったのですが、ネブラを殺すというのであれば、完全に理解できます」
「……わからないことをさせていて、ごめんね」
「僕の命はリディア様のものですから。問題はありません」
「いいえ。シオンの命は、シオンのものだから――」
リディアは、言葉の途中で口をきゅっと結んだ。それ以上のことを言うと、昔の記憶が溢れてしまいそうだった。……リディアはそっと、シオンを抱き寄せる。
「……さて。魔物の燃えカスは、どこかに捨てましょう。ここに放置するのは気分が悪いわ」
「森に捨ててきますか?」
「それはそれで、気分が悪いわね……」
「うーん……。それならヴェルガさんに、どこかに転移してもらいますか?」
近くにあるのが嫌なら、どこかに飛ばしてしまえば良い。なるほど、とリディアは思った。
「そういえば……転移魔法は便利に使っているけど、制限があるのよね」
「転移する対象の、誰かひとりでも行った場所……って聞きました。あと、一度に転移させるのは重量制限がある……のでしたっけ?」
「あら、シオンも知っていたのね。そうすると、転移先はどこにするべきか――」
話が進むにつれて、リディアも気持ちが軽くなっていく。嫌なことは、誰かと分かち合えば半分になるのだ。
「ベルデの北なら、僕が行ったことがあります。リディア様はきっと、人間の国に捨てたいと思いますよね」
「ええ、向こうが連中のテリトリーだからね。私は――オルトゥスに縛られているから、一緒には行けないわ。シオン、お願いできる?」
「わかりました。以前倒したネブラの死体も、掘り起こして一緒に捨ててきましょう」
「そういえば、今までは埋めていたんだっけ。思い出したら、気分が悪くなってきたわ……。……ああ、そうだ。蚊取り閃光は、ネブラにも反応するようにした方が良いかしら……」
「僕が全部やるので、リディア様は休んでいてください!」
頼る仲間がいるのは嬉しいが、リディアは自分が弱くなったのでは――とも考えてしまった。あるいは、甘えすぎているのか。……ただ、不思議と悪い気分はしなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ネブラの話が広がり、オルトゥスからは少しだけ、人口が減っていった。ただ、数にすればおおよそ50人程度で、リディアの想定よりもずっと少なかった。まだ悩んでいる者もいるため、さらに減る可能性はあるのだが――……そんな折、商人のブラガとラーナがやって来た。
「こんにちは、リディア様! ラーナが来ましたよ~っ」
「今回もいろいろ持って来たぞ」
「いつもありがとうございます。みんなを呼ぶので、広場に行ってもらえますか?」
オルトゥスの中心に作られた鐘を鳴らし、ブラガたちの来訪を知らせる。それなりに高額のものが並ぶため、ある程度の顔ぶれは決まってしまっている。
「ワッチィの目に留まるものはあるかなぁ~?」
「そろそろ、我の部屋にも新しい置物が欲しいんだが……」
「ひぃん……。あたしのお給金じゃ、何も買えない……」
リディアは買うものを決めて、少し離れた場所に立っていると……ブラガが声を掛けてきた。
「少し、賑わいが減ったような気がするが?」
「ああ……、まだ伝えていなかったですね。実は――」
リディアはブラガに、ネブラのことを伝えた。これからオルトゥスで戦いが始まるだろうこと、それを伝えて、他の場所に移住する者も幾らか出たこと。
「……ふむ。あのヒルは、寄生する魔物だったのか……」
「ラーナが寄生されたら、ラーナじゃなくなっちゃうの?」
「おそらく、どんな種族にでも寄生するのでしょう。だから、ブラガもラーナも、外にいるときは気を付けてくださいね」
「わかった。ただ……オレたちは大丈夫だろうが、他の旅人は不安だな」
ブラガの言葉に、リディアは頭が痛くなった。北の山に住む天使種族が襲われた以上、既に大陸の東側にも勢力を伸ばしている可能性があるのだ。
「……私は、この街で精一杯。できるだけ、ネブラの話を広く伝えてもらえませんか?」
「そうだな……。わかった、早めに広めておいた方が良いだろう」
「ネブラっていうのを、退治するものは作れないかな? ラーナ、気持ち悪いのとは戦いたくない~っ」
「そうね……普通に攻撃されるだけならまだしも、寄生までされるからね……」
ふと、リディアの視線はゾゾに向けられた。
「……ゾゾさん、ネブラを遠ざけるお守り、みたいなものは作れません?」
「う~~~ん……? そんな便利なものは、さすがにワッチィの腕でもなぁ?」
「さすがに、無茶振りでしたか……」
「設置するタイプなら、簡単なんだぜ~? 蚊取り閃光を応用した、地雷を作れば良いわけだし~」
「……効果的ではあるけど、間違えて踏むのは怖いですね……」
さすがに良い案はすぐに出てこず、話はそこで止まってしまった。
「とりあえず、便利な道具が難しいことは分かった。まずは情報だけ、流すことにしよう」
「あとは、この場所が前線――ってことになるんだよね? ラーナたち、戦う気がある人をここに集めた方が良いかなぁ?」
「それはありがたいけど、オルトゥスではみんなが働いているからね……。戦うだけの人は、養えないのよ」
たとえば森の巡回を行うエルフでも、何かしら生産の仕事を抱えている。中にはデュランのように、ひとりで複数の生産に携わっている者もいるのだ。
「それなら……国に相談してみるのはどうだ? 人間の国があったように、エルフやドワーフにも国がある。他の獣人たちだって、小さいながらもいくつかはあるんだ」
「へぇ……? 私、東の国とは交流が無いんですよ。素直に助けてくれるかしら」
「その辺りはオレが話を付けてこよう。ネブラがあちこちに出ると、商売どころではないからな」
リディアはブラガの提案を素直に受けた。そもそも……この場所に人を増やそうと思ったのは、ネブラに対抗するためであり、滅ぼすためでもあった。そのため、ブラガの提案によって、その動きが一気に加速するかもしれない――
「……お手数ですが、お願いしますね」
リディアの言葉に、ブラガは深く、ラーナは明るく頷いた。
ひでお
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花月夜れん
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しめさば
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#ホラー
コメント
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読み終わりました……! リディアがついに住民たちに真実を伝える場面、すごく重くて、でも彼女の覚悟がひしひしと伝わってきました。キングが「ぼよんぼよん」と慰めてくれるシーンが不意に来て、ほっこりした反面、その優しさがかえってリディアの孤独を際立たせている気がして胸が締め付けられました。シオンとの「命は誰のものか」というやり取りも、言葉の裏にあるお互いの過去を思うと切なかったです。少しずつでも仲間が増え、希望の兆しが見えてきたのが嬉しい。次が気になります!