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第14話、読んだよ…!めっちゃ切なくてもどかしい話だったね。律のキラキラした王子様キャラから一転、宏斗を壁に押し込んでキスするところ、あの「絶対に離さない」って台詞にドキッとした。でもその後、宏斗が自分の気持ちに気づいた途端にパニックになって拒絶しちゃう流れがリアルで胸が痛い…。最後の「俺は、最低だ」って独白、ずっしり来た。複雑な感情が丁寧に描かれてて引き込まれたよ!続きがどうなるか気になる…!
“スパンッ!!”
勢いよく開いた教室の扉の先で、今日も如月律がキラキラしていた。
もはや発光しているレベルである。白銀の髪を揺らしながら立っているだけなのに、少女漫画みたいに空気が華やぐのはもう見慣れたものだ。
おまけに今日の背景には、いつもより大粒のダイヤみたいなキラキラが飛び散っていたから、いつもよりテンションが高いことが明白である。
「宏斗、会いに来た」
「会いに来るな」
「なんで、今朝は宏斗からハグ…」
「うわあああああああああ」
即座に席を立ちあがり、音速で律の口に手を当てる。
「バカ!お前声がデカい!っていうか、あれは別にそういうんじゃねーし!」
「……宏斗の手、あったかい」
「話を聞け!!」
掌越しに律の唇の感触が伝わってきて、宏斗は慌てて手を引っ込めた。
案の定、教室のあちこちから「ハグ……?」「今朝、土手で……?」「ごちそうさまです……」という如月ファンクラブたちの不穏な呟きと、ペンを走らせる音が聞こえてくる。完全に別の意味での燃料を投下してしまった。
当の律は、宏斗に口を塞がれたのが嬉しかったのか、背景のダイヤのエフェクトをさらに倍増させている。
「放課後、音楽室で待ってる。宏斗に聞いてほしいから」
律はそれだけ言うと、満足そうに自分のクラスへと戻っていった。
嵐のように去っていったヒーロー様の背中を見送りながら、宏斗は机に深く突っ伏して、熱くなった顔を隠した。
「んだよ…調子狂う…」
文句を言いつつも、放課後のチャイムが鳴るのを少しだけ楽しみにしている自分がいることに、宏斗はまだ気づいていなかった。
_____________
放課後、音楽室へ向かうと律は音楽に飲み込まれるように、ギターに夢中になっていた。日に日にギターが上達していく律に呆気を取られるものの、歌詞は未だに書くことはできなかった。
「おー、上手くなったな」
「でも、ピックが引っかかるんだよね」
「貸して、手首だけで弾くんじゃなくて、もう少し腕も動かすんだよ」
律のギターを受け取り、自分の肩にストラップをかけた。風に乗せるようにコードを鳴らし、鼻歌を口ずさんだ。この二人きりの世界に、音が溶けていく時間が好きだった。ずっとこんな時間が続けばいいのにって願った。
「こんな時間がずっと続けばいいのに」
自分の心の声が漏れてしまったのかと思った。手を止めて、律を見るとほんの少しだけ寂しそうに目を伏せていた。
「宏斗って時々、消えちゃいそうな顔するよね」
律の長いまつ毛が影を落とし、宏斗に触れる律の手は、まるで腫れ物に触るみたいに優しく暖かかった。
あぁ…忘れていた。
俺って、ここの世界の人間じゃないんだ______。
「宏斗?」
律の声が、遠くから呼び戻すみたいに響いた。当たり前かのように、毎日一緒にいて、音を重ねて、この空間に溶けていた時間が突然、消えかける残響のように感じた。いつか、この温もりさえ忘れてしまうのだろうか。
「わり、なんでもな…」
「なにその顔、本当に怖くなるんだけど」
「なんでもないって…それと今日はもう、練習終わりにしよう」
「なんで?どうしたの」
「ちょっと、あまり調子よくなくて」
逃げるようにギターをケースにしまい込もうとする宏斗の動きを、律の手が遮った。
“ガタッ”
乱暴にアンプのシールドが抜ける音が、静まり返った音楽室に響く。
律は宏斗の腕を掴み、そのまま壁際へと押し込んだ。
「……っ、律?」
「俺は」
宏斗の腕を掴む律の手が微かに震えていた。詰め寄る律の瞳は、夕日の光を吸い込んで、いつも以上にギラギラと濁って見えた。少女漫画のキラキラじゃない。もっと暗くて、ドロドロした、なにかだった。
「宏斗がいれば…俺はもう何もいらない」
「は、お前急に何言って――っ」
苦しそうに荒々しい呼吸をして、すらりとした大きな手が、宏斗の頬を包み込む。逃がさないように、拒絶を許さないように。
ゆっくりと唇から律の体温を感じ、徐々にそのキスは深くなっていく。
「どこにも行かないで」
突き放さなきゃいけないのに、握られた袖から伝わる律の体温が、やけに温かくて心地よくて、言葉が続かない。
窓の外では運動部の掛け声が響いていて、どこにでもある放課後のはずなのに、今日だけは妙に遠く感じた。
「り…っ…」
「_____絶対に離さない」
律の吐息は、耳が溶けるほどに熱かった。
奪い合うように重なる唇の奥で、宏斗はぼんやりと思う。
俺は、律のことが好きだ___。
________________________
昨日のことがあってから、まともに律の顔が見れなかった。
と、いうよりかは、自分の気持ちに気づいてしまったことによって、どう律と接すればいいのか分からなくなってしまった。朝も昇降口でばったり会った時、顔も合わせられずに逃げてしまった。
授業中、ノートの端に意味のない線を走り書きしながら、宏斗の頭は完全にキャパオーバーしていた。奪い合うように重なったあの熱い唇の感触。耳の裏まで溶かされそうだった律の吐息。そして何より、自分の胸の奥から溢れ出てしまった「律が好きだ」という、言い訳のしようもない自覚。
男相手に、何考えてんだ俺は……! あいつはこの世界のヒーロー様なんだぞ!それに俺は…___。
他クラスの体育の掛け声が校庭に響いていた。ヒーローに憧れていたはずなのに、ヒーローの座を奪おうとしただけなのに、気づけば俺は、どうしようもない恋をしていた。
“キーンコーンカーンコーン”
終業のチャイムが、やけに遠く響いていた。
クラスメイトたちは一斉に立ち上がり、椅子を引く音や笑い声が教室に広がっていく。けれど宏斗だけは、机に突っ伏したまま動けなかった。
「宏斗」
鼓膜に触れたその声に、心臓が跳ね上がった。ゆっくりと顔を上げると、机の前に律が立っていた。いつもなら、彼がそこに立つだけで少女漫画のように爽やかな風が吹き抜け、背景には大粒のダイヤのエフェクトが飛び散るはずなのに、今の律の周りはひどく静まり返っている。白銀の髪も、夕暮れに近い光を浴びて、どこか寂しげに陰っていた。
「……律」
「今日、ずっと俺から逃げてただろ。……音楽室、来ないの?」
律の瞳は、今にも泣き出しそうな子供みたいに揺れていた。
でも、その長い指先は、宏斗の制服の袖をぎゅっと、引きちぎらんばかりの強い力で握りしめている。完璧なヒーロー様の余裕なんて、どこにもなかった。
「……今日は、部活行かねえ」
「なんで? 俺のことが嫌いになった?」
「ちがっ……」
「じゃあなんで目も合わせてくれないの」
掴まれた手首から伝わる律の体温が熱くて、胸が苦しくて、心臓が破裂しそうだった。
好きだから、怖い。
男同士だとか、俺がこの世界の人間じゃないだとか、昨日触れ合ってしまった唇の感触が、自分の「好きだ」という本音を暴き立てるようで。
ヒーローになりたかったはずのプライドと、パニックを起こした感情がごちゃ混ぜになる。
その瞬間、宏斗は手を振り払おうとして強烈に拒絶するような態度を取った。_____やってしまったと思った。
「分かった。もういいよ」
ぽつりと、律の口から諦めたような呟きが漏れた。
その声音があまりにも冷たくて、宏斗は心臓を撃ち抜かれたように息を呑んだ。
「え……?」
「宏斗がそこまで拒絶するなら、これ以上はただの押し付けだよね」
律は、綺麗な瞳にうっすらと涙を溜めながら、無理やりいつもの完璧な王子様の笑顔を作ってみせた。いつも背景に飛んでいた花やダイヤのエフェクトなんて一枚もない、ひどく歪で、今にも壊れそうな笑顔だった。
違う…あいつを傷つけたいわけじゃないのに、自分の情けなさとパニックが混ざり合って、宏斗の口から最悪な言葉が飛び出した。
「もうわけかんねぇよ……っ! なにもかも上手くいくお前に、俺の気持ちなんてわかんねーよ!!」
「……っ」
律の息が、ぴたりと止まった。掴まれていた制服の袖から、完全に体温が離れていく。
「……そっか。ごめん」
静かに背を向け、教室を出ていく白銀の髪。
『俺を“如月律”として見てくれたのが嬉しかった』
かつて、あの眩しいほどの笑顔でそう言ってくれた律を、一番深いところで苦しめる言葉を吐いてしまった。自分が、あいつを一番理解していたつもりだったのに。
遠ざかる背中を引き留めなければいけないのに、自分の「好きだ」という気持ちの重さに足がすくんで、動けなかった。
俺は、最低だ。