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短編小説 5/? 1/? 1/?
「警察に捜索願を出すべきだ!」
リビングに、父の焦燥した声が響く。
だが、ソファに座る姉はスマホから目を離さずに鼻で笑った。
「あいつなら大丈夫でしょ。どうせどこかの山奥で写真でも撮ってるんじゃないの?」
「でも、薫が丸一日帰ってこないなんて今まであったか!?俺が向かえに行って!その後、『秘境スポットに行ってくるねー。』と言い残したきりなんだぞ!母さんはどう思うんだ!?」
「私はお姉ちゃんの言う通り、大丈夫だと思うわよ。……それとね、お父さん。薫が一日以上帰らないのは、これで『二回目』よ」
母は姉の言葉に頷いた。落ち着いた様子ではあるが、薫が門限を破り、家族に心配をかけていることに静かに怒っているのだろう。どこか語気が強くなっていた。
「え? そうだっけ?」
「お父さん、なんで忘れているの?」
「いや、前に父さんから『死なない程度に殴って自分の記憶を飛ばしてくれ』って頼まれたからさ。適当なやつで一発殴ったんだよ」
「「は?」」
姉の衝撃の告白に、父が訳の分からない顔をする。だが、最も困惑しているのは他ならぬ母だった。
「父さん、相当ショックだったみたいだから。……薫が変わったのも、あの時からだったもんね」
姉の言葉に、母はふう、と息を吐いた。
「……そうね。あの子が死んでから、薫は人が変わったように『秘境巡りだ』と言って出かけるようになったものね。なんで、わざわざ遠い所にまで見に行ってるの?ってきいたら、薫は約束があるからの一点張り。学校の先生からも、よく注意を受けるようになったし……」
三年前、薫は変わった。
急に秘境巡りを始め、祟りにでも遭うかのように生傷を負って帰るようになった。血はあまり流れていないが、肉が見えるほどの深い傷を負うことさえあったのだ。
そのことについては、学校の先生からも三者面談の際、怯えながら両親に告げたられたこともある。
『薫くんはとても積極的で、何にでも挑戦しようとします。それは良いことなのですが……どこか、異常なほど怖いもの知らずな部分があるのです。この前もそうでした。怪我をする瞬間は、確かに恐怖の表情を浮かべるんです。なのに、傷を負った直後、どこか満足そうに笑っているんですよ。……それに、あの深傷(ふかきず)に対して、血があまり流れていなかったようにも思えるんです』
「それにさ。あの事件以来、薫、珍しいコンパス持ってるじゃん。球体の中が空洞になってる、あれーなんていうんだっけ?」
「ボールコンパスだよ。」
「そう!それ!あれめっちゃおしゃれだよねー。」
「確かにおしゃれねー。わたしもボールコンパスであんなのがあるとは知らなかったわ。お父さんは知ってる?ボールコンパスってああいうのもあるの?」
「いいや、俺もあれをみたのは初めてだ。」
「けど、少し不気味でもあるんだよね。なーんか、直感的にあれはやばい感じするんだよね。例えば、触ったら自分の内面を全部覗き込まれるー!みたいな?」
「なんでそう思う?」
「勘よ勘。」
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ドーム状の硝子の檻の中。ただ、真っ直ぐにその光景を傍観していたその青年は。
るしゅ
CO2
144
やがて───己の胸にそっと手を当て、満面の笑みで静かに笑っていた。
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