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結衣
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8月8日、時刻は2:00を過ぎた頃。
【着いたよ。】
雨ちゃんからのメールが合図。斜めがけのバックを手に取り部屋を後にした。声は出さずに身振り手振りでまさとと会話する。縁側に事前に用意しておいた靴を履き急いで公園へ向かった。
「雨ちゃん。お待たせ。」
「ぽぽりちゃん、まさとくん。無事に着いてよかったよ。」
「俺が助手席でナビするよ。」
「ありがとう。」
「よし。行こうか。」
あれは、私たちが家を出ると決めた日の事。
「ぽぽり。ちょっと出かけてくる。」
「はーい。行ってらっしゃい。」
祖父の姿が見えなくなるまで玄関で見送る。
「よし。行ったな。」
私は手を大きく上げぱー、グッド、ゴーとハンドサインを送る。後ろから徐々に近づいてくる足音。吹き荒れる風。
「ぽぽりちゃん。これいる?」
「ごめんやってみたかっただけ。さあ、早く入って。」
「お邪魔します。」
靴を持ったまま2階のまさとの部屋へ直行。
「よし。これから作戦会議をはじめます。まず自己紹介からしよっか。」
「はいはい。俺は雨さんのこと知ってるから俺だけいえば十分だろ。ぽぽりの弟のまさとです。」
「よろしくね。」
「よし、じゃあまずはおばあちゃんの遺書を見せてくれ。」
引越しの目標は1週間後の8月8日。まず最初にやることは行政へ相談。
「これはさっきまさとと役所行ってきたんだ。」
「どうだった?」
「えーと。引越し先バレるとまずいから閲覧制限かけるってやつと、なんとか法でどうにか私にまさとの親権が行くようになんとかでって感じ。」
「青少年自立権保障法だよ。条件ぴったんこだったね。」
「条件?」
「まず、この家で安全に生活できないこと。俺たちが自分の意思で家を出ていくこと。次の生活がちゃんとあること。」
「でも、最後に決めるのは行政。今一番危ないのは次の生活だね。」
「そうだよね。」
自分から話しといてあれだけど空気重いな。折角の家出なのに。心配事ばっかりで退屈。
「せっかくの家出なんだよ?もっとわくわくした話がしたいよ。」
「なんだよ。もっと真面目に考えろよ。」
「じゃあ、どうやって引っ越す?大荷物抱えて新幹線乗っちゃう?」
「あの。私車買っちゃった。」
その場が一気に凍りついた。
「え、それいつ届くの?」
「明日。」
「そんな早く?まさか新車?」
「実はさ1ヶ月くらい前に中古で買ってたんだよ。」
「なんで。てか免許持ってたんだ。」
「湖行く約束してたじゃん。その時話そうと思ってたんだけどね。」
「雨ちゃん。」
少し照れくさそうな寂しそうなそんな顔をした雨ちゃんは初めて見た。
「車があるなら、姉ちゃんのお望み通りわくわくした話しようじゃん。」
そういうとタブレットで地図を表示した。次の引越し先、マークされてる。
「俺たちは県を跨いで引っ越すことになる。車で行くなら、休憩がてらに観光しながら行こう。」
「いいじゃん。私ソフトクリーム食べたいよ。」
「湖見れるか分からないけど、まあ要するにでかい水たまりが見たいわけだろ?海沿い走ればいいんじゃね?」
「海はだめだよ。雨ちゃんロ、。」
雨ちゃんがそっと手を握ってひとさしゆびであしーっと口止めされた。
「海いいね。そうしよ、ぽぽりちゃん。」
「うん。そうしよ。」
玄関の扉が、ガラガラと音を立てて開いた。時計は既に15時を回っていた。異常な猛暑のせいで夕方の実感がない。
「やべ。もう帰ってきたか。」
「えーっとそこの窓から出て。梯子かかってるからさ。」
「引越し先の情報、メールしておいて。」
「おっけー。まさと。私達、一旦公園行くから荷造りしとけよ。」
「だから早いっ。てこともないか。」
おじいちゃんはおやつの時間になると帰ってくる。
「えーと。おじいちゃんは私が相手しておくからその隙に行って。」
「うん。わかった。」
わざとどたばたと階段を降りて注意を引きつける。
「おじいちゃんおかえり。ちょっと見て欲しいんだけどさ、こっち来て。」
「おう。なんだ。」
「今日沢山アイス買ってきたんだよ。」
「こりゃすごい。早速おやつに1本貰おうかな。」
「はい、どうぞー。」
雨ちゃんが居間の前を通ったのを確認して、私も公園に急ぐ。
「あ、竹輪買い忘れたわ。ちょっと行ってくるね。」
「おう、気をつけろよ。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ぽぽりちゃん家から出発してから2時間経とうとしていた。
「ぽぽりちゃん寝ちゃったね。」
「姉ちゃんは小さい頃からこうだよ。小学校の時、遠足の前日は毎回寝れないって言って俺まで付き合わされたっけな。」
「遠足気分か。まあ、分かるよ。ちょっと楽しいよね。」
「ていうか、雨さんこそよく家から出てこれたね。エンジン音で起きない?」
「職場に車停めさせて貰ってたんだ。」
「良かったね。店長さんがいい人で。」
「本当にね。でも流石に後1週間で辞めるって言った時はすごい顔してたよ。」
「まあ、法律違反だしね。俺は役所で貰った書類渡したからぎり円満に辞めれた。」
「あ、サービスエリア寄るわ。」
「おっけー。」
慣れないハンドル操作で思った以上に疲労を感じていた。雨ちゃん、ソフトクリーム食べたいって言ってたよな。でもこれだけのために起こすのはなしだな。
「雨さん。酒はだめだよ。」
「違うよ。ただ立ってただけ。」
「それなら良かった。」
缶コーヒーを片手に外のベンチに座り込む。
「エナドリか。ガキめ。」
「コーヒーは腹下すから飲めねえの。」
「実は私も。」
「じゃあ、なんで買ったんだよ。」
「大人の余裕を見せつけてやろうと思ったんだよ。」
まさとくんと話していると楽でいいな。でも、ちょっと嫌な態度になっちゃう私の悪癖。
「まさとくん。交換してよ。」
「はあ、やだよ。」
「ていうか、まさとくんは起きとく必要ないでしょ。私が優先だ。」
「ナビする人がいなくなるだろ。」
「それもそうか。」
「ていうか、こんなの飲まなくても行けるだろ。ロボットさん。」
「うるさいな。本当に。」
空を見上げると薄明るい空に月が細々と存在していた。ぽぽりちゃんに初めて話しかけた日と同じ形をしていた。
「そろそろ行こうか。」
「うん。」
エナドリを持って車に戻るとぽぽりちゃんはまだ寝ていた。荷物でいっぱいの後部座席がルームミラーに写る。
「よっし。行くか。」
「お願いしまーす。」
長い1本道は朝に向かって走ってるみたいだった。いっその事、このまま太陽に突っ込んで粉々になっちゃえばいいのに。
「雨さん。ここで高速下りる。」
「あ、おっけ。」
慌ててウィンカーを操作する。
「んあ。寝てた。」
「あ、姉ちゃん起きたか。」
「ぽぽりちゃんおはよう。」
「相変わらず。いてて。」
揶揄うまさとくんの腕をつねり上げた。本当に酷いやつだわ。
「そういえばもう少しで海見えてくると思うよ。」
「ほんとに。」
「15キロ先に海見える道の駅あるよ。」
「よし。そこ行こう。」
私だって、今が楽しくて仕方ない。生きづらいな。この感情をありのまま表に出せたらいいのに。
コメント
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ああ、読んだよ…🌙 雨ちゃん、まさと、ぽぽりの3人が「家出」っていうより、ちゃんと新しい場所を選んで踏み出そうとしてるのが伝わってきて、胸がぎゅってなった。 特に雨ちゃんが「車買っちゃった」って照れくさそうに言うとこ、すごく好き。あの一瞬の沈黙に、どれだけ準備してきたかとか、覚悟みたいなのが詰まってた気がする。 それと「このまま太陽に突っ込んで粉々になっちゃえばいいのに」って呟き、重いけど、すごくわかるな…って思っちゃった。明るい旅の途中にそういう影があるのが、この作品のリアルだと思う。 3人の距離感、特に雨ちゃんとまさとの軽い掛け合いが可愛くて、でもちょっと切なくて。続き、ちゃんと読ませてください🥀