最初に、彼は幸せだったのだろうか、ということについて私は考える。
難解なことではなく、むしろひどくありきたりな疑問だ。
そのうえ、幸せということに明確な基準もなければ定義もないのだから、いずれにしても正確な答えなんて、得られるわけはない。
それがわかっていながら、なぜだろう、それでも私は、彼に質問してみたくなる。
君は、幸せだったのか。
もちろん彼は、答えあぐねるだろう。
苦笑しながら、素のままのやさしさを隠すこともせず。
大国のパワーバランスに翻弄される小国の難しい立ち位置、それは何も変わっていない。
なのに彼は、一人で前に続く道を選んだ。
出発時間ギリギリの列車に飛び乗った。
だから、私は聞いてみたい。
それでもなお、君は、幸せと結論づけられるなにかをつかみ取ったのか。
車窓をながめる彼は
ただ、空の青さと、海の青さの、狭間にたゆたう光を
抱き続けていた。