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微かな光に浮かび上がる顔はどうやらヒューマンの男で、容姿はまだ若く幼かった。

いわゆるショタ受けする美少年すぎる風貌、かつ軽装で腰に短刀を結わえているだけの優男だったが、全身から放つ想像できないほどのオーラを携えた様は壮観で、ムザイは思わず警戒し息を飲んだ。


「男性と女性の二人パーティー。ひとりはヒューマンの女性でそれなりの装備にそれなりの魔力、そしてもうひとりは獣人で、狼型の……、あれ?」


男がふと言葉を止めた。

なんだよと眉をひそめたイチルに男は警戒心もなく近付くと、眼下で両の目を大袈裟に見開き驚愕した。


「し、師匠?! もしかして師匠じゃありませんか! ……いや、でもこんなところに師匠がいるはずないし。やっぱり僕の勘違いでした」


急に大きな声でイチルのことをと呼んだ男は、自己完結し、スンと黙った。

「何だコイツは」と細い目をするイチルに対し、間に割って入ったムザイは、私を無視するなと食って掛かった。


「貴様、どこの誰だか知らんが、気安く話しかけるなよ。しかも……、だと? 喧嘩売ってるのか」


「そういうことでは」と両手を上げた男は、杓子定規に被っていたターバンのようなものを脱ぎ、ペコリと頭を下げ、「瓦礫深淵ディープラブル案内人アライバルをしているザンダーです」と自己紹介をした。


「ザンダー……? はて、どこかで」


記憶の端の端で男の名前が引っかかるも、すぐにポイと投げ捨てたイチルをよそに、き下ろされた腹いせで突っかかったムザイは、「まぁまぁ」となだめるザンダーの鼻先に指を突き付けた。


「アライバルだかなんだか知らんが、私のことをバカにしていい理由にはならん。何よりこの私がとは聞き捨てならん。訂正しろ」


「ごめんごめん、それなりって言ったことは謝るよ。でもまぁ、だしさ」


まだ言うかと鼻息を荒くしたムザイをポンとどけ、アライバルと名乗った男の言葉から、確かめる意味を込めてイチルが質問した。


「キミは、定置フリー依頼型の荷御算(※荷物や人、その他諸々を依頼の場所まで届けるタイプ)かい? それとも据え置きの特定(※一カ所に留まり案内をするタイプ)かい?」


「え、いや、僕はここの特定だけど。……もしかして同業さんですか?」


「元、な」


「へ~。ちなみにどこで?」


「X-2248だ」


「ほうほう、X-2248ですか。……ん、X-2248、……んん?」


腕組みして頭を傾けたザンダーは、ポクポクポクと木魚を鳴らし考えた後、チーンと音がなると同時にかしわ手を打っち、「え゛え゛え゛!」と声を上げた。


「X-2248ってじゃないっすか。ってことはやっぱり……?!」


松明たいまつをイチルの顔へ向けジロジロと見つめたザンダーは、それはそれは大袈裟に驚きながら、「や、やっぱり師匠!」とイチルの手を握った。

しかし一向に意味不明なイチルは、ブンブン振り回される手を振りほどくわけにもいかず、されるがまま事態が落ち着くのを待った。


「師匠だと? おい犬男、貴様この男と知り合いか」


「いや……、どうだろう(誰だっけ?)」


「そ、そんな酷いじゃないっすか。あれだけ熱心に鍛えてくれたのに、僕のこともう忘れちゃったんですか?! しどい、しどすぎる!」


目に涙を浮かべ凹むザンダーは、昔の話をイチルとムザイに事細かく説明した。

要約すれば、当時駆け出し(※といってもそれなりのレベル)のアライバルとしてエターナルダンジョンの上階層を受け持つことになったザンダーのお目付け役 兼指導員として担当になったのがイチルだった、らしい。

確かに昔はそんなこともしていたなとイチルが記憶を辿るも、残念ながら人の顔と名前を覚えるのが苦手すぎる男の記憶に、ザンダーの面影は残っていなかった。


「そ、それは悪かった。確かにそうかもしれん(覚えてないけど)。それにしても、どうしてここに。X-2248にいたんじゃないのか」


「それも当時ちゃんと説明しましたよ。瓦礫深淵ディープラブルで良い案件が出たから、苦渋の選択ですけど私はそちらへ移りますって。後押ししてくれたのは、他でもない師匠じゃありませんか。そ、それなのに……、し、しどいぃ!」


相変わらず最低だなと細い目をするムザイの視線に耐えきれず、イチルはパンパンと手を叩きながら「そうだったそうだった」と誤魔化した。

しかしその顔からは吹き出すほどの嘘が滲み出ており、ムザイは汚物でも見るような目でイチルを蔑んでいた。


「と、ところで師匠こそ、どうしてこんなところに。エターナル以外で働くことは絶対にないなんて言ってたのに、ランクの落ちる瓦礫深淵ディープラブルを散策中だなんて。……いや、待って。まさか、僕のお仕事を奪いに?!」


「いや、違う違う。今回はコイツの付き添いだ。仕事でもなんでもない」


「つ、付き添いですかー!(ほっ) でも凄いですね、師匠をエターナルあそこから連れ出してでも同行させたいなんて。きっとその女性は、もの凄いお金持ちなんですね!」


ムザイが眉をひそめ「お金持ち?」と首を捻った。

どうにも噛み合わない会話に、『据え置き特定』と言っていたザンダーの言葉を思い出したイチルは、なるほどと頷きながら、ザンダーに衝撃の事実を伝えた。


「まだ知らなかったんだな。エターナルあそこな、攻略されたぞ」


空気がキンと冷え、ビタリと停止した。

冷たい空気はザンダーの口にスゥゥと吸い込まれ、「て゛え゛え゛!」という悲鳴に変わった。

驚きのあまり腰を抜かしたザンダーは、昇天しかけて白目を剥きながら、アワアワと口を上下させた。


「てことで、俺はすっぱりアライバルを辞め、新しくADアトラクションダンジョンの運営を始めたんだ。御用があればどうぞ御贔屓に」


放心状態でイチルのギルドカード(※ギルドが代理で個人に発行している名刺のようなもの)を受け取ったザンダーは、サラサラのシルバーの髪をぐしゃぐしゃ掻きむしりながら、「僕の知らない間にそんなことが」と苦い顔をした。


「それで驚いてるとこ悪いんだが、ザンダーよ。昔のよしみで幾つか頼まれごとを聞いちゃくれないか?」


しばしエターナルダンジョンの衝撃に混乱していたザンダーは、どうにか深呼吸を繰り返し、全てを飲み込んだ。そして自分自身の胸を叩いてからうんうんと頷き、「どうぞ」と呟いた。

異世界最速のダンジョン案内人 職場を解体されたので自分で無理ゲー迷宮を拵えることにしました

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