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ここは玄関だ。広い土間から一段上がると、それは板張りの床になっている。正面には廊下への戸口がある。広い空間なのに明かりがひとつしかないので、奥に蟠る暗闇は濃い。
辺りを見回していると、下の方から桐島の訝しげな声が聞こえてきた。
「……なんだろう、これ?」
見ると、彼女は玄関の踏み石のそばにある黒い染めの上にかがみ込んでいる。近寄って、俺も覗き込んだ。
「……スス跡かね?」
確信を持てないまま答える。
「スス跡?」
「何か燃やした跡みたいに見えるけど……」
「ふーん……?」
それにしても、妙な形だが……。
「焚き火とかしたのかな?」
「家の中でか?」
スス跡(?)は結果大きい。もし何かを燃やしたのだとしたら、結構大きなものだと思う。いくら土間とは言え、家の中でこんな大きな物を燃やすのは危険じゃないだろうか。それとも土間っていうのは、そんなふうに使う物なのか?
隣で同じようにスス跡(?)を見つめていた桐島が、ポツリと呟いた。
「……イモ……」
「ん?」
何かを燃やしたススの跡にしては、妙にくっきりと跡が残っている。
「…………」
彼女はじっとスス跡を見つめ、何かを考え込んでいるようだ……。
なんとなく気にはなったが、俺は黒い染めから目を離した。
玄関戸だ。戸のカカトを押さえるように釘が打ち込まれており、戸を開けることができない。誰が何の目的でこんなことをしたんだろうか……。
「それより、今は出口だって。他のとこも見に行ってみようぜ」
「うん」
ここは玄関以外に外に繋がっている場所はないようだ。他の場所へ行ってみるか。
西に曲がると、台所だ。カマドに釜や鍋が乗せられている。
その上の格子窓からは、黒い木立が見えていた。格子窓は外に繋がっていると言えば外に繋がっているが、外と内を隔てる格子は太く頑丈だ。ここから出るのは無理そうだな。
そう思いつつも、一応格子を掴んで揺すって確かめる。すると隣にいた桐島がひょいと手を伸ばして、釜のフタを外した。
「……何も入ってない」
釜の中は空っぽだ。彼女は不満げだが、人気のない家でほかほかのご飯が炊き上がっているのも不気味な気がする。だから、俺はいいのではないかと思う。
「……なあ、知ってるか?」
じっと釜の中を見つめながら、桐島がポツリと言った。
「なに?」
彼女は真剣な顔をすると、辺りを憚はばかるようにして囁く。
「釜で炊いたご飯は、えらくうまいって噂だぞ?」
「…………。へぇ」
真顔で囁かれた割には、大した情報ではなかった。
ここにも出口はなさそうだ。他の場所を見に行くか……。
北に進むと、囲炉裏の間だ。板の間の中央に囲炉裏がある。障子窓はあるが、廊下に面していて外には繋がっていない。探すまでもなく、外への出口はなさそうだ。
囲炉裏の天井から吊り下げられた鉤(自在鉤)には、フタのついた鍋が掛けられていた。桐島は迷いなく、鍋のフタを取り去る。
「……何も入ってない」
わずかに汁のようなものがこびりついているところを見ると、中のものは食べ尽くしたあとらしい。
「いいなぁ、何が入っていたのかな……」
……まさかとは思うが、何か入っていたら食う気だったのだろうか?
また北に進むと、Lを二つ繋げたような廊下の一番奥に出る。数段下りたところが地面になっており、その突き当たりに扉がある。
「裏口っぽいな……。調べてみよう、出られるかも」
廊下の突き当たりにある扉だ。ここは見た感じ裏口のようだが……。俺は扉を開けようと試みた。
「くっ……!! ……ダメだ、開かない」
「鍵がかかってる?」
「いや、ものすごく建て付けが悪くなってるみたいだ。戸が引っかかってる感じがする」
よく見れば、ドア枠が歪んでいる。天井も少し歪んでいるようだ。これは昨日今日、開かなくなったわけじゃなさそうだ。まいったな、ここもダメか……。
裏口は使われていなかったのだろう。明かりも乏しく、辺りはひっそりとしている……。
そのまま、囲炉裏の間と台所を通り、玄関に戻って北に真っ直ぐ進む。
ここは玄関前の廊下だ。玄関を背にして見ると、北と東にそれぞれ廊下が伸びている。東に進むと、中庭前の廊下に出る。中庭へ出る両引き戸があり、その奥にはもう一つ扉がある。
中庭前の廊下、奥の扉だ。開かない。どうやら鍵がかかっているようだ。
二人は中庭に入る。屋外ではあるのだが、俺たちが望む「外」ではない。漏れ緑で四方を囲まれた庭の中央には背の高い木があり、そのそばには小さな石灯籠が置かれている。石灯籠には火が入っていて、庭の植木をぼんやりと浮かび上がらせていた。……木には何もぶら下がっていない。
「何もぶら下がってない……な」
「うん」
「ぶら下がってたよな、さっき?」
「うん」
(何だったんだ、あれ……?)
四方を囲まれているし、ここから出られそうにないな……。
中庭を出て玄関の前の廊下に戻り、そのまま北に進む。ここは玄関に真っ直ぐ延びた廊下だ。廊下の正面奥には引き戸があり、廊下は西に折れて続いている。
引き戸を引いて入ると、畳敷きの座敷の奥には仏壇らしきものがあった。どうやら仏間のようだ。奥まった部屋は、外に通じる気配はない。染みついた線香の匂いが漂っている……。
コメント
1件
読み終えました!第4話、探索パートがじっくり描かれていて、臨場感がありましたね。スス跡の異様な形、「イモ……」と呟く桐島さんの反応、そして中庭の「何もぶら下がってない」シーン — 前話で見たものが何だったのか、すごく気になります。出口がどこも塞がれている閉塞感がじわじわ伝わってきて、不気味な空気がうまく醸し出されてるなと感じました。続きが待ち遠しいです!