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#続かないとオーバーブロット
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–美しさを守るための誇りが、静かに崩れはじめる–
⸻
〔ポムフィオーレ寮・夜の練習場〕
灯りの消えたグラウンドに、ひとり立つヴィル。
マジカルペンを構え、黙々と一人でフォームを繰り返していた。
「……足の運びが甘い。体重移動が美しくない」
「この程度で“見せられる舞台”になると思ってるの?」
鏡のように完璧な表情の下、彼の中で何かがきしんでいた。
それは誰にも言えない――“焦り”。
〔数時間前・寮内の食堂〕
エペルの練習態度が改善され、チームにも少しずつまとまりが生まれていた。
だが、それでもヴィルの表情は晴れなかった。
ルーク:「ふふ、君の目は遠くを見ている。
ヴィル、君は誰と戦っているのかね?」
ヴィル:「……己と、よ。
“美しさ”は、立ち止まったら終わりなの」
フェイドは静かに座っていたが、その瞳には――
ヴィルの“張り詰めた糸”が見えていた。
(……彼は、自分自身に刃を向けるように、磨き続けている)
⸻
〔翌日・大会前日〕
試合を目前に控え、選手たちは最後の調整をしていた。
エペルのプレーも安定し、デュースやエースも調子を取り戻している。
グリム:「オレ様たちも応援ばっちりだぞ!」
ユウ:「ヴィル先輩、無理してない?」
ヴィル:「……問題ないわ。
“完璧”を貫くのが、アタシの役割だから」
そのとき、フェイドがそっと一歩近づいた。
「ヴィル先輩、あなたは“過去の傷”に縛られていませんか?」
「……あら、何のことかしら?」
「もしそれが、“誰かに美を証明するため”の戦いなら――
もう、ご自身の誇りのために、戦ってほしいのです」
「……心配しないで頂戴。ネメシス。
アタシには、そんな“余裕”なんてもう――」
その言葉の終わりは、震えていた。
彼の指先が、一瞬わずかに、震えたことをフェイドだけが見逃さなかった。
〔その夜・ヴィルの部屋〕
大会前夜、静まり返る寮の一室。
ヴィルは一人、鏡の前に立つ。
「……どうして、アタシはこんなにも苦しいの?」
彼の周囲には、黒い霧がじわりと滲んでいた。
「努力しても報われないなら、“完璧”なんて――!」
「それでも“アタシ”が、美しさを証明しなきゃ……誰が、するのよ!」
その瞬間――鏡が割れる音とともに、部屋にブロットの波が噴き出す。
「アタシは……美しさを、否定されたくないの……!!」
闇がヴィルを包み込み、形を変えていく。
「対峙する美、問いかける牙」
–ステージに立つのは、信じた自分を貫く者だけ–
⸻
〔マジカルシフト大会当日・校庭〕
校庭には大勢の観客と、煌びやかな装飾。
実況担当はルークがつとめていた。
「メルシィ、皆さん!
今年のマジカルシフト大会、幕が上がる時がやってきました!
主演は――ポムフィオーレ寮!」
観客がざわつく中、選手たちが登場する。
先頭を歩くのは、完璧な微笑を浮かべたヴィル・シェーンハイト。
その後ろに、やや不機嫌そうに腕を組んだエペル・フェルミエ。
アウルは寮のサポートチームとして、控えのテントからその様子を静かに見つめていた。
「――本当に、舞台の幕が上がるのですね」
ユウ:「ネメシス、ちょっと緊張してない?」
「……いえ。けれど、“真実”のぶつかり合いには、敬意を払いたいと思っております」
グリム:「オレ様も応援してるぞ! 」
⸻
〔試合開始〕
ホイッスルの音が響き、試合開始。
マジカルシフトのボールがフィールドに放たれ、選手たちが一斉に駆け出す。
エペルは瞬時に加速し、俊敏な動きで相手チームを抜き去っていく。
ヴィル:「もっと姿勢を低く、エペル! 体が傾いてる!」
エペル:「……うるせぇ!」
ヴィル:「いらないわ、あんたの判断。
アタシの美学を乱さないで」
エペル:「っ……!」
観客の前で、完全無欠のパフォーマンスを見せつけようとするヴィル。
しかし、無理のある動きと魔力の過剰な使い方で、徐々にその足取りが乱れていく。
フェイド(……この魔力の滲み、完全に限界を越えている――)
グリム:「お、おい……あれ、なんかヤバいんだぞ……!」
〔そして――オーバーブロット〕
試合終盤、ボールを追うヴィルの足が止まる。
「……どうして。どうして、完璧にできないの……!
アタシは……努力して、全部手に入れてきたのに……!!」
魔力が暴走し、宙に黒い靄が渦巻く。
観客:「な、なに!?」「黒い煙……!?」
「この世界がアタシを認めないなら――
“美しさ”で、全てを支配してやる!!!」
ヴィル・シェーンハイト、オーバーブロット
彼の姿は、荊と黒薔薇を纏った魔女のように変貌し、
その目は“完璧以外を許さない”狂気で輝いていた。
〔戦闘開始・対ヴィル(オーバーブロット)〕
ヴィル:「あんたたちの“醜さ”を、この薔薇の棘で切り裂いてあげる」
無数の黒薔薇が舞い、荊がフィールドを這う。
フェイド、ユウ、グリム、そしてエースとデュースはそれを迎え撃つ。
フェイド:「ユウさん、グリムさん、下がってください。……この魔力は、尋常ではありません」
デュース:「ネメシスれ援護は任せてくれ! 俺が絶対に倒す!」
エース:「ったく、またブロットかよ……!
でもさ、ヴィル先輩らしくないよ。あんなの、カッコ悪いじゃん……!」
フェイド(……あなたの“美”は、こんなものではなかったはずです)
荊の魔法を交わしながら、フェイドは前に出る。
ヴィル:「アタシの努力を嘲笑わないで頂戴!!」
フェイド:「違います――私は、あなたの“誇り”を見ていたのです」
攻撃の合間を縫って、こっそりとフェイドは呪文を唱える。
“鏡に映せ、仮面の下の真実を――”
光がヴィルを包み、彼の暴走した魔力が次第に弱まっていく。
ヴィル:「どうゆう…こと…な..の…」
ユウ:「ブロットが治まった…?」
–“美しさ”の名のもとに、すべてを抱え込んだひとりの心が、ようやく崩れ落ちる–
⸻
〔大会会場・中央フィールド〕
ヴィルの体から、黒い霧がすぅ…っと抜けていく。
魔法の暴走は静まり返り、彼はその場に膝をついた。
「ああ……また……アタシ、失敗したのね……」
彼の声は震えていた。
その瞳から、ポロポロと、涙がこぼれ落ちる。
「……完璧でなければ、価値がないのに。
アタシはいつも、自分を演じることしかできない……!」
周囲は静まり返り、観客も息を呑んでいた。
そんな中、フェイドが静かにヴィルへ歩み寄る。
〔フェイドとヴィルの対話〕
フェイド:「……完璧であることは、美しいです。
けれど、完璧を装い続けることは、美しさを殺す刃にもなります」
ヴィル:「あんたに……何がわかるの……!
私がどれだけ、努力してきたか……!」
「わかりません。
けれど、私はあなたの努力を見てきました。
あなたが、必死に理想を貫こうとしていた姿を……誰よりも美しいと思っていました」
「……!」
フェイドは静かに膝をつき、ヴィルと目線を合わせる。
「“美”を求めたあなたが間違っていたのではなく、
“ひとりで背負おうとしたこと”が、あなたを壊したのです」
ヴィルは、涙を拭おうとせず、ただうつむいたままぽつりとつぶやいた。
「……弱いところなんて、誰にも見せたくなかったのよ。
アタシは、誰かの憧れでいたかったから」
「では、今こそその背中を見せてください。
“涙を流したヴィル・シェーンハイト”を見た人々は、きっと……
あなたを、より深く尊敬するでしょう」
「……ふふ、あんたって、本当に……ずるいわね」
「仮面の扱いは、少しばかり得意ですので」
ヴィルは、ふっと小さく笑って、顔を上げた。
〔試合後・ロッカールーム〕
結果は無効試合。
だが――ヴィルは控え室で、ひとり静かに鏡を見ていた。
そこへ、エペルが入ってくる。
「……言いたいこと、あるんでしょう?」
「あなたのプレイ、確かに素晴らしかったわ。
」
「俺は美しさより、“俺らしさ”がほしかった。
……でも、ネメシスが言ってた。“選び取る”美しさがあるって」
「……あの子は、本当に余計な言葉を残していくわね」
「でも、それでよかったと思ってる。
……俺、ヴィルさんのこと嫌いじゃねぇ」
「……っ、は。なによそれ」
エペルとヴィルが、ようやく笑い合う。
控え室の外で、それをそっと見守るフェイド。
仮面の奥で、静かに目を細める。
⸻
〔その夜・オンボロ寮〕
帰ってきたみんなが、いつものテーブルに集まっていた。
エース:「いやー、エペルかっこよかったな!見直したぜ」
デュース:「ヴィル先輩とのやりとりも……すごく、真剣だったな」
ユウ:「ネメシス、なんだか少し寂しそう?」
「いえ……ただ、舞台が一幕閉じたあとの、静けさのようなものです」
グリム:「むずかしいこと言ってないで、これ食うんだぞ! さっきルークからもらったアップルパイ!」
「ふふ……では、ありがたく」
火がぱちり、と鳴った。
いつも通りの日常が戻ってきたオンボロ寮――
けれどフェイドの胸には、今日交わされた“仮面のない言葉”が、静かに残っていた。
〔少しあと・オンボロ寮にて・日常編〕
その夜、オンボロ寮ではユウたちが囲む、いつもの雑談の時間。
グリム:「ブロット、またすっげー大変だったぞ……」
エース:「まさかヴィル先輩があんな風になるとはな。
けどあのあと普通に、“姿勢の乱れが気になるわ”って言われたぞ」
デュース:「戻った途端に“鬼指導”……まさに美しさの鬼、ってやつだな」
ユウ:「でも……少しだけ、柔らかくなった気がしない?」
フェイド:「きっと、心の棘がひとつ、ほどけたのでしょう。
――黒薔薇の棘は、時に自分自身をも傷つけてしまいますから」
グリム:「また難しいこと言ってるぞ」
フェイドは微笑みながら、グリムの頭をそっとなでた。
「ヴィルの選択、仮面の継承」
–選び取る美しさと、手放さない誇り–
⸻
〔ポムフィオーレ寮・朝のバルコニー〕
朝霧のかかる中庭を見下ろすヴィル。
制服の襟元を指で整え、ゆっくりと息を吐く。
「……ようやく、一区切り。
エペルのことも、これで――少しは信じてやれるかしらね」
その背後から、静かに足音が近づく。
「おはようございます、ヴィル先輩」
「……“先輩”なんて、あんたには似合わないわよ」
「いえ。敬意は形にすべきものですから」
「また、そうやって“仮面の言葉”を。……でも、今日は嫌いじゃないわ」
二人は柵にもたれて並び、霧の中の庭を眺める。
〔フェイドとヴィルの最後の対話〕
「……あんたの“仮面”、アタシはまだ全部を見られてない。
けれど、それでも――あんたは信頼できるって、思ってる」
「それは光栄ですね。……仮面の奥にある想いまで、感じてくださるあなたに、少しだけ救われました」
「“仮面”を付けて生きてると、素顔のままでいたくなることもあるわ」
「……ですが、仮面を持つ者同士なら、“素顔”がなくても通じ合えます」
「あんた、本当に“見透かして”くるのね……。気味が悪いくらいに」
「ふふ。仮面の扱いは、得意ですので」
二人は静かに笑い合った。
「あのエペルが、“あんたみたいになりたい”って言ってたわよ」
「それは、嬉しいような……責任重大ですね」
「……ネメシス。
“美しさ”を守るのに必要なのは、信念と――それを貫く意志よ。
あなたには、それがある」
「あなたも同じです、……たとえ血が滲むような姿勢でも、“貫く”あなたは、美しい」
霧の向こうで朝陽がゆっくりと昇りはじめる。
⸻
〔その後・オンボロ寮・日常編〕
ポムフィオーレから戻ったフェイドたちは、久しぶりにオンボロ寮で穏やかな朝を迎えていた。
「オレ様、もうあそこでのメシイヤだぞ~!
」
エース:「でも、なんか痩せたな、お前。顔がちょっとシュッとしてるぞ?」
グリム:「それはオレ様が美しいってことだな!? 」
デュース:「ヴィル先輩と過ごすのは大変だったけど……すごく、学びの多い時間だった気がする」
ユウ:「うん……エペルも、ちょっと変わったよね。前より“らしく”なったっていうか」
フェイド:「人は変わります。ただし、“自身の意志で選び取った時”に限って、ですね」
笑い声が、オンボロ寮に満ちる。
仮面の奥で、フェイドはそっと微笑んだ。