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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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木葉は、栞と会話している時に別人かと思うくらいに声を変える。まだ、親しくなったばかりでその事を尋ねるのも無神経だろう。そう考えた栞は、まず、自分について話そうと考えたのだった。

「木葉って癖?とかある?」

きょとんと首を傾げた木葉は顔を顰め、

「癖?癖かぁ⋯なんか、話しているときに声が変わることかな!昔っからずっとそうで、悩んでて⋯まぁ、気分によって声が変わるって感じ!栞の方はある?」

と、悩みつつ答えてくれた。さぁ、次は栞の番だ。

だが、説明しなくともその姿を無意識に見せるそれが本物の『癖』というものだ。いきなり体を屈み、落ちている青いペンを拾った。

「あ⋯⋯」

拾ったペンをグッと握り、頬を赤らめた。栞は眉をひそめて

「これ!これだよ!他人が落としたものを拾う癖!もう⋯隠すつもりだったのに⋯!」

と、涙を流した。「大丈夫?」と、心配する木葉を横目にふと自分を俯瞰した。あ、これ、盗んだ人みたいになるよね。いやいや、拾ったんだから落し物ボックスに届けにいかないと─────

「⋯はっ!?」

我に返った栞は、木葉の手を引っ張りつつ、職員室に向かった。


「んー、そんなものこの高校にはありません。」

冷たくかわされる栞は持っているペンを目の前で突きつけ

「じゃあ、これどうするんですか?」

と、目線を落とすと先生は

「そもそも、どこに落ちていたんですか?」

と、ため息をついて職員室の扉をバタンと閉じてしまった。栞はあまりの衝撃に放心状態だった。高校の教師っていうのは、面倒事には絡まない平和主義な人が多いのかもしれない。だが、一番の衝撃は『落し物ボックス』が設置されていないという事実。

落し物ボックスというものは、職員室前に設置されている。そのお隣に、時間、場所、物の名前、特徴、を記入するためのボールペンと修正テープと記入シートが置かれてある。小学、中学、と落し物ボックスのある環境で育ってきた。田舎の義務教育の中ですらある素晴らしい箱が義務教育終了でなくなってしまう。確かに失くす人が悪いのかもしれない。だが、落し物ボックスがある生活は革命的だった。失くしてもそこに届けられているという可能性が残る。

「⋯⋯木葉」

「ん?なに?」

「ごめん、衝撃に駆られた」

「な、何に?」

「落し物を拾って届けるっていう⋯」

栞は、この特殊な癖を惜しみなく発揮したことに後悔している。戸惑っている木葉に謝ると木葉は声を出して笑った。

「しんどい(笑)栞って変なの⋯(笑)拾い癖じゃん!栞のこともっと知りたくなってきたぁ!あははっ(笑)」

「笑いすぎだよ⋯もう、今から教卓に置いてくるから、ね?」

「はいはい(笑)わぁ、栞が落し物ボックスなんじゃない?(笑)」

「⋯ふっ(笑)」

木葉のくだらない雑なイジりが絶妙に栞のツボを刺激した。お腹を抱えながら青いペンをそっと教卓に置いた。

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