玲央は息を切らしながら森を駆け抜ける。
夜の静寂を切り裂くように、遠くで銃声が響く。
パンッ!
(まだ撃ってくるか……!)
背後からスタンリーの追跡が迫るのを感じながら、玲央は木々の間を縫うように進む。
だが、足元の地面が次第に湿り気を帯び、ぬかるんできた。
(くそっ……ここは川の近くか!)
足を取られまいと踏み込みを慎重にするが、その一瞬の遅れが命取りになった。
パァン!
銃弾が玲央のすぐ横をかすめ、地面に突き刺さる。
直後——
ズルッ!
「っ……!」
足元の地面が崩れ、玲央の身体がバランスを崩す。
「しまっ——」
そのまま傾斜を転がり落ち、目の前に水面が広がったかと思った瞬間——
ザブン!
冷たい水の中へと沈み込んだ。
***
スタンリー視点
スタンリーは崖の上から水面を見下ろす。
「……さて。」
静かに息を整え、銃を構えたまま玲央の動きを追う。
(この程度で終わるとは思えないな……)
銃のスコープを覗きながら、川の流れをじっと見つめる。
玲央がどこかで浮かび上がる瞬間を狙うために。
***
玲央視点
冷たい水が身体を包む。
玲央は水中で必死に息を止めながら、流れに身を任せた。
(スタンリーが狙ってる……! ここで顔を出したら撃ち抜かれるねぇ。)
沈んだまま、ゆっくりと水中で姿勢を変える。
流れが少し速くなっている方向を感じ取り、そちらへと泳ぎ出した。
(……逃げ道はひとつ。流れに乗って、一気に距離を稼ぐしかない!)
肺が焼けるように苦しくなってくるが、耐える。
スタンリーの視界から完全に外れるまで——
バシャッ!
ついに、川の流れが玲央を遠くへと運んでいく。
***
スタンリー視点
スコープを覗いたまま、スタンリーは静かに銃を下ろした。
「……やるな。」
目を細めながら、川の流れを追う。
「だが、どこかで必ず追い詰める。」
静かに呟き、無線機に手を伸ばす。
「ゼノ、玲央を見失った。」
無線の向こうから、ゼノの落ち着いた声が返ってくる。
『ふむ……ならば、次の手を考えるとしよう。』
スタンリーはわずかに口元を歪める。
「……面白くなってきたな。」
***
玲央、川岸へ
荒い息を吐きながら、玲央はようやく川岸へと這い上がった。
(……なんとか、撒いたか。)
びしょ濡れの服が肌に張り付き、冷たい風が容赦なく体温を奪う。
だが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
(スタンリーを撒いたのはいいけど……さて、ここからどうするかねぇ。)
玲央は川の向こうに広がる暗い森を見つめ、ゆっくりと立ち上がった。
「……さて、千空たちのところに戻る方法を探さないとねぇ。」
玲央の孤独な脱出劇が、今始まろうとしていた——。
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