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冷たい風が森を吹き抜ける。
玲央は震えながら、ずぶ濡れの服を絞った。
(……さすがに、冷えてきたねぇ。)
夜の闇が深くなるにつれて、気温はどんどん下がっていく。
川に落ちたせいで、身体は芯まで冷え切っていた。
(このままだと、凍えて動けなくなる……火を起こさないと。)
玲央は素早く周囲を見回し、乾いた枝や枯れ葉をかき集めた。
しかし、手元に火をつける道具はない。
「……困ったねぇ。」
拳を握りしめて考える。
(マッチもライターもない。千空がいればすぐに火をつけられるのに……。)
しばらく悩んでから、玲央は試しに石を手に取った。
(打ちつければ、火花くらいは出るか?)
石と石をぶつけるが、思ったように火花は飛ばない。
(くそっ、やっぱり知識が足りないか。)
凍えた指をさすりながら、玲央は小さく息をついた。
(……歌でも歌えば、少しは気が紛れるかな。)
口の中でリズムを刻みながら、小さな声でメロディを紡ぐ。
「♪ 夜の静寂に……炎を灯せ……」
——その時だった。
石を打ちつけた瞬間、わずかに火花が散った。
「……お?」
玲央はすぐに枯れ葉の上で再び石をぶつける。
パチッ
小さな火花が舞い、乾いた葉にかすかに煙が立つ。
「いいねぇ……!」
玲央は息を吹きかけ、慎重に火を育てる。
やがて、炎がぱちぱちと音を立て、暗闇の中に温かな光が灯った。
「……よし。」
火の温もりが凍えた体にじんわりと広がる。
玲央は火の前で体を抱え込み、少しずつ体温を取り戻していった。
(……これで、一晩は乗り切れる。)
だが、安心する暇もなかった。
遠くの森の奥で、乾いた枝が折れる音が響いた。
パキッ
玲央はすぐに身を強張らせる。
(……誰かいる。)
目を細めながら、慎重に火を消し、影に身を潜めた。
(ゼノの部下か……それとも、ただの野生動物か?)
玲央は手に小石を握りしめ、気配を探る。
——果たして、それは敵か、味方か。
玲央の孤独な戦いは、まだ続いていた——。