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またかよ。
病院を出て、エレベーターの中で元貴は天井を睨んだ。
ため息が、勝手に出る。
(なんで、今なんだよ)
ライブ前。
スケジュールは詰まってて、調整なんて効かない時期。
少しのズレが全部に響く。
倒れる。
体調崩す。
その言葉が、頭の中で雑音みたいに繰り返される。
(やめろよ……)
口に出したら最低だって分かってる。
分かってるのに、思ってしまう。
(今じゃなくていいだろ)
(せめて、今は……)
スマホを見る。
スタッフからの連絡、段取り、修正。
全部「現実」だ。
涼ちゃんの顔が、一瞬よぎる。
ベッドで横になってた、あの静かな顔。
……あんなに軽そうだったっけ。
(いや、考えるな)
考えたら、足が止まる。
止まったら、全部崩れる。
元貴は無理やり思考を切り替える。
(ちゃんと休めば大丈夫)
(若井もいる)
自分に言い聞かせるみたいに。
駅までの道、歩きながら元貴は舌打ちしそうになるのを堪えた。
(倒れる前に、言えよ)
(なんで、限界まで黙ってんだよ)
怒りたい相手が、
もう起き上がれない状態なのが、一番厄介だった。
ふと、若井の顔が浮かぶ。
あいつの、何も言わずに横にいる感じ。
(……任せた、って顔してたな)
胸の奥が、少しだけ痛む。
(俺だって、放ってるつもりじゃない)
でも、
結果はこれだ。
仕事先へ向かう電車の中、
元貴はスマホを握りしめたまま、画面を見ない。
(終わったら、行く)
そう思いながらも、
心のどこかで、怖がっていた。
もし涼ちゃんが目を覚まして、
もう無理だって言ったら
自分は、何て言えばいいんだろうって。
電車が揺れる。
元貴は目を閉じて、短く息を吐いた。
(頼むから……)
(今は、耐えてくれ)
それが祈りなのか、
逃げなのか、
元貴自身にも分からなかった。