20XX年。世界には地球外生命体とその信仰者で溢れてきていた。何度も行われる召喚と侵攻によりついに政府は地球外生命体、ひいては信仰者達が神と呼ぶものの対抗組織。神格対策部隊を設立。中でも戦闘を主とする第六部隊は脅威の部隊として恐れられていた。
『…ではいつも通り、狂信者達は数名のみ捕縛、それ以上は好きにして構いません』
こちらの返事を待たずに通信はブチッと切られ、残ったのは三人の隊員のみ。
「風信子、あとどれくらいで着く?」
「道も混んでないし、もう少しくらいかなー」
通信機を眺め続ける隊長の言葉に、運転している風信子は軽快に答える。
「上が警戒サイレンをガンガン鳴らしてるのに、この道が混む訳ないじゃん」
「しいて言えば立藤からの連絡がないのが不安要素だけど…まぁあいつのことだし、上手くやってるか」
後部座席で盾の整備をしている風車はふと隊長が持っている通信機を見る。本来であれば随分前に調査員である立藤から連絡が来ているはず。そう思っていると、丁度通信機からノイズが流れでる。所々途切れるノイズは恐らくモールス信号だろう。声を出せない場所にいるか、喋るより楽なのか。
「なんて言ってた?」
「変な報告書を見つけたらしい」
「現場にあるものなんて大抵変なものだと思うけどなぁ」
そんな話をしていれば、目的の建物が見えてくる。立派な灰色の協会は今からその意義を失くすとは思えない程手入れされ、扉の前には二人ほどフードを深く被った者が監視している。やがてこちらに気付き、窓越しで聞こえないが止まるよう呼び掛けている。
「止まってやれ」
「りょうか…あれ」
「どうしたの?ぱっと見あいつらに違和感はなさそうだけど」
「えっとね、ブレーキ壊れてるみたい」
「…は?」
トラックは大きな音と振動を立て扉と衝突する。外にいた二人も巻き込まれたようで片方は動かず、もう片方は苦しそうに身を捩らせている。一方、車内は無傷の隊員二人と頭から血を流す隊長がぎゃいぎゃいと騒いでいた。
「てめぇ朝に『今日私調子良いかも!』とか言ってたじゃん!」
「ほ、本当にそう思ったし。現に無傷だよ私」
「事故ったのにまだ言うか!」
「とりあえず治療したら?風信子お願い」
「あっまって消毒液と塩酸間違えて持ってきちゃった」
「もうヤダこの部隊!」
教会内には五人が突然扉を破って来た軍事用トラックに反応できず、全員が固まっている。やがてリーダー格と思われる者がハッと正気に戻り、トラックを指さした。
「貴様ら、第六部隊だな⁉教祖様の邪魔はさせんぞ。お前ら、かかれ!」
五人それぞれが斧、剣、拳銃、ショットガン、メリケンサックを取り出す。そのままトラックを中心に弧を描くようじりじりと詰め寄る。
「月下香隊長、どうする?」
「どうするも何も倒すしかねぇだろこんなん」
「了解」
風車が盾を持ち、トラックの扉を蹴破る。その陰に隠れた月下香の銃声が戦闘開始の合図となった。
ショットガンを持った信者は見事に眉間を撃ち抜かれ赤い血だまりを作る。しかし他の者達は怯える事もせず、斧と剣を持った信者達が息を合わせ風信子に迫る。
その刃は甲高い音と共に弾かれる。風車が盾を構え、間に割り込んでいた。力強く振り下ろされた刃は盾に傷1つ付けられず、持ち主に冷汗すらかかせない。それを見た風信子は思わず感嘆の声と笑みを漏らした。
「さすが組織製。意味わからない耐久度だね」
「手入れした僕の事も褒めて欲しいかな」
その隙にメディカルポーチを取り出し、素早く月下香の傷を塞ぐ。ガーゼを触り治療完了を確認するとマシンガンを風車に渡し、背中に背負ったバットを取り出す。銀一色の金属バットが地面に軽く叩く音が響くと同時に月下香は走り出す。自身を狙っている事を察したメリケンサックを付けた信者が拳を構える。振りかぶられるバットと殺意を持つ瞳は、瞬き一瞬の隙すら見逃さない。
両者間合いに入る。信者はその拳を彼の胴目掛け打ち込む…が、月下香は僅か数センチで胴を捻り、代わりに信者の前に現れたのは血の流れない金属バット。
ゴンと鈍い音が鳴る。一メートル程吹っ飛ばされた彼の腹は変形していた。
その様子に酷く驚きながらリーダーは月下香へ拳銃を向ける。が、その手は震え標準を合わせられない。信者二人が加勢しようと風車から目を離した途端、頬を銃弾が霞める。盾の影で先程渡されたマシンガンの銃口から煙が立っている。
「次は、当てるから」
なぜこうなった。とリーダーはまだ痛む頭で考える。あれから二人が残った三人の信者を捕縛し、教会内を探索している。やがて三人共リーダーの方へ歩みを進めた。
「おい、教祖はどこにいる」
「誰が…お前ら異端者などに言うものか」
「私達からしたらそっちが異端者なんだけどなぁ…」
突如、背後に気配を感じる。侵入者は目の前にいる三人だけのはず。息をのみゆっくりと振り返る。そこには自身らが信仰していたものとは、また違う生命体。影の様に黒い肌に、目と髪だけが色づいている。少女に近く、しかし明らかに人間ではない存在。
「お、立藤。遅かったな」
「見つかってない?怪我は?」
「…ダイジョブ」
立藤と呼ばれたそれは小さく頷く。隣には黄色いクマのぬいぐるみが大事そうに書類を抱えていた。何度も同じ光景を見ていると、流石に隊員達も立藤の呪文で動かしている事を理解するだろう。下香がクマから書類を受け取り流し見をするが、すぐに顔を顰める。
「なんだこれ。まったく読めないんだが?」
「鑑識が必要そうだね…とりあえず私が持っとくよ」
「立藤、他に狂信者達って居た?」
立藤は教壇を指さす。ソラが少し周りをくるくると回った後、教壇に切り込みがある事に気付き、確信を持ってそれを押す。
カチッ。ゴゴゴゴゴゴゴ。そんな音が響き渡り、地下への階段が姿を現す。
「ジュウニ」
「十二人いたんだ。教祖がいる部屋わかる?」
「コッチ」
階段を下ると、遠くの方から声が響く。
『ふんぐるい、むぐるうなふ。くとぅぐあ、ふぉまるはうと―』
「正気かあいつら」
「狂気だよあいつら」
「早く行った方が良くない?」
武器を構え直し、扉を勢いよく開ける。暗い室内で目に入ったのは血で描かれた召喚陣と等間隔に置かれた蝋燭。その中央には大量の死体が積み重ねられ、黒いフードを深く被った者がひたすら呪文を繰り返し続けている。
「俺らが来たことにすら気付いてなさそうだな」
「でも信者達は気付いているみたい」
風車は後ろを振り返り呟く。多数の足音が反響し、その音は少しずつ大きくなっていく。
「あいつらは私がやるよ。月下香は教祖よろしく」
「じゃ残りの二人はお好きに」
風信子はレッグポーチを開き、中の液体を自身の手に装着する。玉虫色に光るその液体は手から零れることなくスコープを形成。風信子がそれを覗き込むと、他にも生成するかのように蠢きだす。やがて信者の姿を目視すると、ただ一言発した。
「発射!!」
それを合図に液体から棘のような物が三本射出され、信者達に突き刺さり激痛に悶え苦しむが、倒れたのは一人だけ。
「うわー。時間かかりそ」
「手伝ウ」
立藤の髪が伸び、四つの束が信者達を拘束する。勿論ただの髪なので切られたり燃やされれば容易く逃げられるが時間稼ぎには十分だろう。
その後ろで、月下香と風車は教祖へ歩み寄る。目が血走り、ただ呪文を唱え続けている様子から既に狂気に陥っている事がわかる。
「呪文止めないと。ガムテない?」
「持ってる訳ないんだよな。口元破壊するか」
月下香が教祖へバットを勢いよく振り下ろす。パリンと硝子が割れるような音と共にバットは跳ね返され、教祖から淡く青い光が零れ落ちる。風車はそれを見て思わず眉をひそめた。
「『肉体の保護』…面倒だよ、これ」
「もっと面倒な事になりそうなんだが」
教祖の後ろに火の精が現れる。呼び出そうとしている神格よりも小さく位も低いが、確かな脅威だ。
「水持ってる?」
「風信子のアレに入ってる」
「交代してこい」
火の精へマシンガンを放つ。銃弾は通り抜けダメージを与えられないが、風車達が交代する時間を稼げれば十分だった。
「今使ったら召喚成功時に足りないけど…」
「今死ぬよりもマシでしょ」
風車に背中を押されつつ、標準を合わせる。勢いよく発射された水を避ける事も出来ず火の精は弱々しく縮み、やがて消滅する。
「まだ水残ってるし、やっちゃって良いよ」
「じゃあ終わりにするか」
教祖へマシンガンを乱射する。青い光が何度も零れ落ち、それが消えるとフードに無数の穴が開く。やがてずるりと体が倒れる。這いつくばり召喚陣へ手を伸ばすが、その手は届かぬまま力尽きた。その恨みを表すがごとく多数の火の精が現れた。しかし一匹を除いてすぐに消火され、その一匹も水をかけられ弱っており既に脅威ではない。立藤の方を見ると、締められて気絶している信者達が雑に並べられている。
「やーっと終わった!」
「オワッタ」
「なんか強くはないけど増えた感じするよね。狂信者達」
「ところでこの火の精どうする?」
「第七部隊がどうにかするだろ。風信子が待機と報告…トラック壊れて帰れねぇじゃん」
「第七部隊に乗せてもらうしかないねー」
支援を主とする風信子は別動隊へ説明と指示の役割がある。普段ならここで別行動だが、帰りの足が無いため他三人も待機する事に。
神格対策第六部隊。それは危険と隣り合わせな戦闘部隊。
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