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強盗騒ぎなどがあったが、私たちは予定通り王城へ辿り着くことができた。
カルスーン王が澄む居城。サンジェマリーン城という。
城壁に囲まれた石造りの大きな建物というのは、他の城と変わりないが、この城の特徴は何重にもかけられた”魔法障壁”だろう。
この魔法障壁は攻撃魔法はもちろん、不審者、侵入者の探知にも作用する。
それに引っかからないよう、居城を許された者たちには飾りのついた布製のブレスレットが渡される。外した場合、魔法障壁の効力が発動し、魔力を吸い取られ、身動きが取れなくなるとか。
オリバーと私たちは国王から招待されているので、ブレスレットは配られている。
二つの馬車は城内に入り、オリバーは用意された部屋へ通される。
「エレノア、俺たちは厨房に行くぞ」
シェフは城へ着くなり、私にそう言った。
ここで使うはずの食材は昨夜、飢えていた村人たちに配ってしまった。
食事を用意してもらう件は城へ入る際、オリバーが頼んである。
きっと、兵士を通してこの城の料理人に伝わっているだろう。
シェフは晩餐のメニューを確認しにゆくようだ。
「わかりました」
本当はオリバーに同行したかったが、私が選ばれたのは”給仕”。彼の付き人ではない。
私は己の仕事を全うするため、シェフと共に厨房へ向かった。
☆
最新の料理器具が並ぶ厨房では、ソルテラ家よりも多くの料理人たちが働いていた。
彼らに話を聞くと、今晩は国王一家とオリバーだけで食事をするそうだ。
当初はソルテラ伯爵を主賓に、周辺の貴族を集め、立食形式の晩餐会を開こうとしていたらしいが、それはオリバーが却下したという。
大勢の人間が参加する立食形式の晩餐会など、いつ毒を盛られてもおかしくない。断って当然だ。
国王が主催し、招待される客はカルスーン王国の貴族とはいえ、マジル王国へ寝返っている裏切者がいるかもしれない。そうなった場合、オリバーの暗殺を画策する可能性があるのだ。
とはいえ、このあと無事、オリバーは屋敷に帰ってくる。
それだけは、【時戻り】で解っている。
認めたシェフの料理しか口にしない、オリバーが突然王宮料理を口にすると言い出したため、厨房の料理人たちは緊張していた。
だけど、シェフがやってくると空気は一変。
話しやすい性格と料理の技術の高さも相まって、王宮の料理人たちはシェフに尊敬のまなざしを向けていた。
(王宮料理人よりも、ソルテラ伯爵の料理人のほうが尊敬されるのね……)
私は王宮料理人たちが尊敬のまなざしでシェフをみつめる姿を見て、そう思った。
「それで、オリバーさまの料理はこいつに給仕させて欲しいんだが」
シェフは隣に立っていた私の背をぐいっと押し、宮廷料理人たちに私という存在を示す。
当然、私に視線が集まった。
「分かりました。晩餐のメニュー一覧を持ってきます」
「あんがとさん」
急な要求でも、彼らはすぐに対応してくれた。
この人たちの間ではソルテラ伯爵の厳格な食事ルールは常識なのかも。
私は晩餐のメニューを受け取り、それを読む。
前菜、スープ、主食、メイン、デザート。
(扱っている食材が豪華ね……)
昨日立ち寄った村人たちの食事とは雲泥の差だ。
城下町で暮らす平民たちも、一食がやっとというくらい戦争で食料が不足しているというのに。
苦しい情勢とは思えない食事内容だと私は心の中でモヤモヤとした感情が膨らむ。
「どうだ? 出来そうか」
「出来ますけど……、一応、食器とグラス、カトラリーなどを確認したいです」
「グラスとカトラリーはこっちのものを使う。皿は……、料理に合わんかもしれんからな。一緒に確認しよう」
シェフが私に確認をとる。
メニュー内容については、扱っている食材が豪華なだけで屋敷のものとあまり変わりない。
ミスすることはまずないだろう。
気になることと言えば、皿、グラス、カトラリーなどの食器類だ。
グラスとカトラリーはこちらが用意したものを使う。それはもちろん毒物対策である。
ただ、皿はあちらが用意する料理に合わないかもしれない。二人で確認したほうがよさそうだ。
「でしたら、試食いたしますか?」
「いや、食材がもったいないだろ」
「余分に用意していますから、そちらは問題ありません。私共はソルテラ伯爵家の料理人として二十年勤めていらっしゃるシェフの感想を聞きたいのです!!」
「そ、そう言われちまうとな……」
王宮料理人に力説され、シェフは頬に手を当て、照れを隠している。
「エレノア、お前は皿を確認したら晩餐まで自由にしてろ。ブレスレットをみせれば、誰かが城内を案内してくれるだろうから、暇はしないはずだ」
「シェフは――」
「ああいわれちゃ、断れん。料理の講評をするさ」
夕方まで自由時間が出来るのはありがたい。
オリバーに近づくには食事以外、難しいと思っていたが、運は私の方に向いている。
(オリバーさまの元へ行こう)
私はそう決めた。