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そんな幸せな時間にも終わりがやってくる。白田くんは明日劇団の役決めのオーディションだそうだ。派遣の仕事はまだ続くので月曜には会えるのだけど。
「じゃあまた月曜日ね」
「うん。美里さん?」
「ん?」
「好きだよ」
「私も」
これが本当に恋なのかまだわからない。でも私は今回はこちらの選択肢を選んだ。どうせ、もう失うものなんてないのだから。
月曜日、少し明るめの服とメイクで出社した。光田は、
「これが本来のアラサーのスタイリングだよ。いつもこのくらいで来なよ」
と、褒めてくれた。褒めてくれたんだよね?
しかし──
以前から、よくつっかかってくる若い社員の子たちの、
「急に若い格好してきて怪しくない?」
「あの派遣のカッコいい子と知り合いらしいよ。狙ってるんじゃない」
「まぁ、バツイチとはいえまだアラサーだもんね。でも妊活までしてたらしいじゃん」
「若い子は若い子に譲ってほしいよねー」
という会話を普通にトイレで聞いてしまった。わざとか?
更に派遣の小泉さんと松井さん他にも、睨まれている気がする。それは白田くんが私によく話しかけてくるからだ。もちろん、休憩やお昼の時間帯なわけだけど。そしてそれは、社内で話すのにふさわしい普通の会話だ。
あれ以来なんだかんだと忙しく、その普通の会話をするだけで一週間が過ぎてしまっていた。
久々に光田と飲んで帰ろうということになった。会社の近くの居酒屋へ入ったら、近くの個室から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「白田くんは年下と年上どっちが好み?」
「どっちでも、話が合えばいいかな」
「年上といえば担当社員の岡井さん、バツイチらしいですね」
「妊活諦めて離婚して会社に戻ってきたんですって。なんかすごいですよねー」
派遣さんたちの、というか白田くんを狙っている人たちの飲み会とバッティングしてしまったらしい。
私たちはこっそりお店を出ることにした。その時に、たまたま店員を呼ぼうと顔を出した白田くんと目があってしまった。
私はそのまま逃げるようにお店を出た。
その晩、白田くんから電話が来た。
「明日会えない? 協力してほしいんだ」
なんだかわからないけど、私は翌日おしゃれな街で待ち合わせることになった。
彼に連れて行かれたのは劇場だった。
なんでも、今日やる劇のエキストラみたいな役が足りないので、私に出てくれないかとの話だった。
「へっ! 無理無理無理!」
「主人公たちの後ろに立ってヒソヒソ陰口叩くふりをしてくれればいいんだ」
「服もメイクもこっちでやるんで、お願いしまーす」
他のメンバーにも頼まれて、楽屋に押し込まれた。
少し古い時代の話らしく、モダンガールといった感じのミニスカートにまつ毛バチバチのメイクを施された。
出演場面は本当に一瞬に近いらしく、相手役の子に立ち位置から何から教わって、いきなり本番が始まった。うそでしょ?? 足が震えないようにするのがやっとだった。
「お疲れ様でした! ありがとうございまーす」
私は服を着替え、メイクは悩んだ挙句、そのまま帰ってみることにした。参考に家でよく見てみたいと思ったのだ。
白田くんはお客さんにサインをしている。時間がかかりそうだし、私は「お疲れ様」とメッセージを送ってから家に帰った。
その夜彼から〈一緒に帰りたかった。もっとよく見たかった。明日は違う場所で打ち合わせがあるので月曜日ね〉とメッセージが届いた。
まあ、楽しかったしこんな日があってもいいかと眠りについた。ミニスカはもう勘弁して欲しいけど、メイクは少しだけ参考になりそうだったし。
いい夢が見られると思っていた。
実際には元夫と風俗嬢がディープキスをしているという悪夢を見たわけだが。
日曜日はジムに行ってボクササイズに励んだ。その日の私の殺気は本物だったはず。
コメント
1件
美里さんの心情の揺れがすごくリアルで、胸がぎゅっとなりました。白田くんに「好きだよ」と言われた幸福感、職場の陰口の痛さ、劇のエキストラで急にミニスカートにされるギャップ……どれも目に浮かぶようでした。最後の悪夢で「殺気」を込めてボクササイズって、笑っちゃうけど切ない。また次の話が気になります!
日暮ミミ♪
855
latte
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#溺愛
星キラリ

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楽地みどり
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