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校門前に集団がいた。背の高い男子を中心に何人か女子が取り巻いてる。
「あ、サッカー部」
ナオが言った。私は何を指してサッカー部と言うのか理解出来ずに疑問を口にする。
「荒山の事。同じクラス。サッカー部の部長だから略してサッカー部って呼んでるんだよ。相変わらずモテてるなー」
私はその安直過ぎるネーミングセンスに、思わず吹き出してしまった。
「サッカー部って、あだ名としてどうなの?」
笑いが止まらない私に、ナオは微妙な顔をした。肩に掛けた腕を外して私の髪に触れる。昨日かけたウェーブが恥ずかしくて、後ろでまとめてあるのを解かれる。ピンで留めた前髪も下ろされてしまう。
「髪、下ろした方がいいわ。人前でポンパドールは禁止ね。デコにキスしたくなるから」
私は赤くなった顔を俯かせて、ナオに手を引かれるままについて校門を過ぎた。
通帳から10万下ろした。動悸が激しくなる。良いのだろうか、イヤ大丈夫だ、と自問自答。
ナオと2人でショッピングモールを歩いた。気になる店で立ち止まると何着か試着し、良いのを買う。私の10万で。それを何件も繰り返す。ショップ毎に可愛い店員さんと着こなしについて話す。アドバイスも聞く。
荷物はどんどん増えたが、それは全部ナオが持ってくれた。私は学校指定の鞄だけ。
休憩無しで歩き続け、流石に疲れた所で家に送って貰った。
「ゴメンちょっと夢中になって回り過ぎた。時間平気?」
時間よりも足腰と財布の心配をして欲しかったが、それは言わずに頷いた。
「明日祝日だけど時間ある?」
うん、と私は頷いた。
「じゃ午後からデートね。駅前のロータリーで13時」
家の前で荷物を渡された。右手に2個、左手に3個。風が動いて、両手が使えない私の頬にナオのキスが落ちる。目を合わせて微笑む。
振り返った後は後ろ手でバイバイ。
授業料は高いけど、これはこれでお腹いっぱい。さあ、これから明日の服を選ばなくては。
待ち合わせ時間より早めに来たのに、ナオが先に来て待っていたのには、正直驚いた。
「遅刻すると思ってただろ?俺こういうのは大丈夫なんだよ」
ナオは自慢げに言った。服のチョイスを褒められる。髪に触れて後れ毛を耳に掛けられた。
「イヤリングは見せないと」
少し赤くなって頷いた。
今日連れていかれたのは、ナオの知り合いがやっているというネイルサロンだった。
「月一くらいで通える?一回五千円くらいだけど」
担当してくれたお姉さんは、ナオに何となく似ていた。聞くと、従姉弟同士だと言う。
私が通いが厳しいと言うと
「ならジェルはやめとこ」
と言って、ナオと相談しながらどうするかを決めてくれた。クリアとサーモンピンクのグラデーションのシンプルなネイルだったが、とても綺麗で可愛い。
「この後エステでも行きたい所だけど、時間無いからさ」
エステなんていくらかかるんだろう・・・と冷や汗をかく私の横で、手を引くナオはあるビルの前で立ち止まる。
「今日のメインイベント。リンは星好き?」
「星?」
「プラネタリウム」
言いながらビルに入って行く。
「本当は花火が良いんだけど。夏じゃないからさー」
花火と星の共通項について考えてみた。暗い所で光る、とかしか思いつかない。
並んで先に座るとナオの顔が予想より近い。これから小1時間この顔がすぐ側にあるという生殺しのような展開を思ったものの、久々のプラネタリウムに私は予想以上に夢中になれた。
ふと視線を感じて横を見ると、私を見つめるナオの顔がある。私は、びっくりして星を見ないのか?とナオに聞いた。
「俺、星には興味無いんだよ」
何ですと?
「女の子の目の中で、映った星が光るのを見るのが好きなんだ」
「よく、意味が分からないんだけど・・・」
「分からなくていいよ。星を見てて。俺リンの目を見てるから」
と、機嫌が良さそうに私の顔を見る。
その後私は、内心恥ずかしいやら何やらでよく分からない感情のままに星を見続けたのでした。
「楽しかったわ」
てっきりプラネタリウムのお金も私が払うものだと思っていたのだが、ナオが奢ってくれた。理由を聞くと「俺が来たかったから」という。
「リンさ、可愛いくなったよ」
送って貰った家の前でかしこまってナオは言った。
「自信持って良いと思う」
うん、と私は頷いた。そして、涙が出そうになった。
慌てて俯いて隠そうとすると、風が動いてナオが両手で私の両頬を押さえた。泣くのを我慢する顔を見て少し笑い、そして唇に触れるだけのキスをした。
動けない私を残して、背中を見せて歩き出すナオ。後ろ手でバイバイ。
私は明日、どんな顔で彼に会えば良いのだろう。