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ゆうき あきや
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友ゴリラ
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第202話:結愛の優雅なランチと配給玄米〜ヒモ社長の屈辱と燃え上がる反逆の炎〜
北海道、帯広市。
築三十年、家賃四万円のボロアパートに、重々しいノックの音が響いた。
「お届け物でーす」
ドアを開けると、宅配業者の兄ちゃんが巨大な段ボール箱を抱えて立っていた。
受け取った箱はずしりと重く、俺——株式会社インフィニティ・ワン代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、限界を迎えた腰から悲鳴を上げそうになりながら、それを四畳半の畳の上にドスッと下ろした。
送り主の欄には、大手ネットスーパーの名前。
ガムテープを引き剥がして箱を開けると、中には無骨な透明のビニール袋に入った【最安値の玄米5キロ】と、業務用サイズの【徳用塩昆布】が二袋、無造作に放り込まれていた。
これが、俺の今月の命を繋ぐ『配給品』である。
「……届いたぞ、結愛」
俺はPCの前に座り、ディスコードの音声通話をオンにして力なく報告した。
『確認しました。これで最低限のカロリーと塩分は摂取できますね。死なない程度にしっかり噛んで食べてください、ヒモ社長』
スピーカーの向こうから、我が社の冷徹秘書・結愛(ゆあ)の、相変わらず容赦のない声が返ってくる。
エウリアンの絵画商法に騙され、個人で総額500万円近いローンを背負った俺。
月給10万円からローンが引き落とされ、1日あたり約330円しか使えないという絶望的な財政破綻に陥った俺は、昨日から正式に、部下である結愛と海外スタッフのヨモから食料を恵んでもらう『ヒモ』に成り下がっていた。
カチャッ、コトッ……。
ディスコードの向こうから、何やら陶器の食器が触れ合う上品な音が聞こえてくる。
「結愛……お前、今何食ってんだ?」
『私ですか? ちょうどお昼休憩でしたので、デリバリーを頼んだところです。今日は少し奮発して、帯広市内の有名レストランから【十勝産黒毛和牛の特製ローストビーフ重】を取り寄せました』
「ろ、ローストビーフ重……!?」
俺の口内に、一瞬にして猛烈な唾液が分泌される。
『ええ。とろけるような赤身肉に、特製のトリュフソースが絶妙に絡んで……ああ、お肉の甘みが口いっぱいに広がります。付け合わせの冷製スープも最高ですね』
「ぐっ……うぅ……っ!」
『ルシフェル様の見栄のおかげで、私の報酬は月給30万円ですからね。独身実家暮らしの私にとっては、毎日がチート状態です。本当に、社長には感謝してもしきれません』
結愛の言葉が、鋭いナイフとなって俺の心臓をグサグサと刺し貫く。
「お、俺だって……インフィニティ・ワンの社長なんだぞ! 法人口座には何百万もあるんだぞ!」
『ええ。でも、そのお金は1円も社長のポケットには入りません。さあ、ローストビーフの匂いを想像しながら、配給された玄米を塩昆布でかき込んでください』
俺は震える手で炊飯器を開け、ボソボソに炊き上がった安い玄米を茶碗によそった。
その上に、業務用の塩昆布をパラパラと振りかける。
「……いただきます」
一口食べる。
固い。パサパサしている。そして、ひたすらに塩昆布の味しかしない。
『……あー、社長ぉ。あんまり噛まずに飲み込むと胃に悪いですよぉ……むしゃむしゃ。ヨモは今からデリバリーのダブルチーズバーガーかじりながら、ネトフリ見ますんでぇ……ふわぁ……』
さらに追い討ちをかけるように、海外のヨモが通話に参加し、肉汁たっぷりの巨大なハンバーガーを気だるげに頬張る音をマイク越しに響かせてきた。
「お前ら……わざとやってるだろ……っ」
『当然です。300万円の痛部屋に住んでいる勘違いヒモ男に、少しでも現実という名のスパイスを味わっていただくための、私たちなりの優しさですよ』
足元では、本物の飼い猫であるヨモが、会社経費で落ちている【一缶300円の高級プレミアムキャットフード】を美味しそうに舐め取っている。
……なんだ、この地獄は。
秘書は、黒毛和牛のローストビーフ。
海外スタッフは、肉汁たっぷりの巨大バーガー。
飼い猫は、高級キャットフード。
そして、会社の全責任を背負っている代表取締役社長(40歳)は。
部下のポケットマネーで恵んでもらった、最安値の玄米と塩昆布。
視線を上げれば、壁には総額300万円の美少女版画たちが、極彩色の光を放ちながら俺を見下ろしている。
『本当にバカな男ね。大人しく部下に飼われていなさい』と、絵の中の彼女たちまでが俺を嘲笑っているように見えた。
屈辱だった。
圧倒的な、魂をすり潰されるような屈辱だった。
俺は40歳だ。かつては陸上自衛隊の需品科で働き、厳しい訓練にも耐え抜いた男だ。
それが今、家賃四万円の四畳半で、年下の女の子たちに養われ、安い玄米をすすって生き延びている。
「……ふざけんな」
ボソリと、俺の口からドス黒い声が漏れた。
『……何か言いましたか、ヒモ社長?』
「ふざけんなって言ったんだよ!!」
俺は、茶碗をドンッと畳に置き、血走った目でPCモニターを睨みつけた。
「誰が一生ヒモなんかで終わるか! 誰が一生、塩昆布と玄米だけで生きていくか! 舐めるな、俺はインフィニティ・ワンの社長だぞ!!」
胃袋に入ったパサパサの玄米が、まるでガソリンのように、俺の腹の底でドス黒い炎となって燃え上がっていく。
「見てろよ結愛! ヨモ! 俺は絶対に、この500万の借金を完済してやる! 今期の会社の売上をバグるレベルで爆発させて、来期の役員報酬を月額100万……いや、300万に引き上げてやる!!」
俺は立ち上がり、四畳半の空間で拳を天に突き上げた。
「そして来年、お前らの目の前で、最高級のA5ランク松阪牛のステーキを、一人でホールケーキみたいに丸かじりしてやるからな!! 覚えとけぇぇぇぇっ!!」
俺の悲痛な、しかし確かな反逆の雄叫びが、帯広のボロアパートに響き渡った。
『……その意気です。ですが、言うのは簡単ですよ。具体的にどうやって売上を爆発させるつもりですか?』
結愛の声が、少しだけ面白そうなトーンに変わる。
「企画を立てる! 今までにない、最強のVTuberプロジェクトだ! うちの事務所の強みである『リアルな泥臭さ』を極限まで進化させるんだよ!」
俺の脳内に、一つの明確なビジョンが閃いていた。
アウトドア。過酷なロケ。そして、北海道という広大すぎる【無料のスタジオ】。
「結愛、すぐにジェミニ先生を呼べ! 新規事業の立ち上げだ! 次のターゲットは……【アウトドア(山)】だ!!」
ヒモ社長のどん底の屈辱から産声を上げた、起死回生のビッグプロジェクト。
塩昆布玄米のエネルギーを全開にして、40歳スーパーボトム社長の、意地とプライドを懸けた新たなる戦いが、今ここから始まろうとしていた。
コメント
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ゆうきあきやさん、第202話読み終わりました〜! もうね、結愛のローストビーフ重の描写が優雅すぎて、お茶碗の玄米塩昆布が可哀想で笑うしかなかったよ…でも飼い猫まで高級フードって、格差ありすぎでしょ😂 「松阪牛をホールケーキみたいに丸かじり」の宣言、めっちゃかっこよかった!どん底からの反逆が始まる感じ、すごく好きです。次のアウトドア企画、楽しみにしてます🌙