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オフィスでのあの夜から、涼さんの態度はますます「過保護」に拍車がかかっていた。
朝は私の髪を整えてくれて、夜はキッチンで並んで料理をする。
……もちろん、一歩会社に入れば「完璧な専務と部下」に戻るけれど
彼の視線が時折、私を熱く射抜くのを肌で感じていた。
「——専務、失礼いたします。本日15時からの来客、神条グループの神条エリカ様がお見えです」
秘書室からの内線に、私の胸がざわついた。
神条エリカ。涼さんの幼馴染で、親同士が決めた一番の「本命婚約者候補」だと噂されている女性だ。
応接室に現れた彼女は、私のような平凡なOLとは正反対の、華やかな大輪の薔薇のような人だった。
「涼様!お久しぶりです。お見合いの件、お父様から伺いましたわ。あんな話、お互い迷惑ですわよね?」
扉越しに漏れ聞こえる、親密そうな声。
お茶を運ぶ私の手は、自分でも驚くほど震えていた。
「エリカ、わざわざ会社まで来なくてもいいと言っただろう。……天音さん、ありがとう。そこに置いておいて」
涼さんの声は、私に対してはいつも通り事務的。
でも、エリカ様は私の存在なんて目に入らないといった様子で、涼さんの腕に抱きついた。
「嫌だわ、冷たい!私たち、結婚する運命なんですもの。今度、二人でディナーに行きません?」
涼さんが彼女の手を優しく、けれど確実に外すのが見えた。
でも、私の胸にはどろりとした黒い感情が広がっていく。
(……私は、ただの契約。彼女は、彼にふさわしい本当のパートナー候補……)
用件を済ませて部屋を出ようとした時、エリカ様の鋭い視線が私を射抜いた。
「あら、そのペンダント……。涼様、それ、以前あなたがオークションで落札したものではなくて?」
私の胸元にある、涼さんから「同居のお祝い」にともらった華奢なネックレス。
しまった、と思ったときには遅かった。
「……ええ。彼女は非常に優秀な部下だからね。プロジェクトの成功報酬だよ」
涼さんが、さらりと嘘をつく。
エリカ様は疑わしげに鼻を鳴らしたけれど、それ以上は追求してこなかった。
その日の夜
マンションに帰っても、私は一言も喋れなかった。
「……琴葉さん? さっきからずっと黙っているけど、どうしたんだい?」
ソファで資料を読んでいた涼さんが、私の手を引いて自分の膝の上に乗せた。
いつもなら照れて逃げ出すのに、今の私は、彼に縋り付きたい衝動を抑えられない。
「エリカ様…とっても綺麗でしたね。涼さんにお似合いで……」
「……ヤキモチ?」
涼さんは嬉しそうに目を細めると、私の腰を強く引き寄せた。
「彼女とのことは、ただの付き合いだよ」
「っ、…でも、私はただの契約妻で……」
「契約、ね」
涼さんの指先が、私のネックレスを愛おしそうになぞり、そのまま首筋に触れる。
「君が不安になるなら、もっと深く僕を刻み込むしかないかな」
爽やかな笑みの奥にある、剥き出しの独占欲。
エリカ様の登場が、彼の「理性のタガ」を確実に外そうとしていた。