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元貴のお誕生日の日から、カレンダーに「予定あり」と書かれることが多くなった。元貴も、ひろぱも、どうやらお友達と遊びに行ったりしているようだ。
「調理グループにさ、韓国の子がいて。ヒョヌ君って言うんだけど、すごく話が合ってさ。俺、韓国料理とかにもちょっと興味あって、ヒョヌ君オススメのお店とか一緒に回ってんだよね。」
食卓で、ひろぱが楽しそうに話してくれる。
「俺も、心理学の教授助手なんだけど、凄くいい先生がいてさ。二宮先生っていって、ニノ先生って呼ばれてて。最近よく話とかしてくれるんだよね。すーごい気さくな人でさ、お昼はだいたいニノ先生と食べてる。」
元貴も、目をキラキラさせて、これまた嬉しそうに話してくれた。先生と仲が良いなんて、学生の鑑みたいな事してるんだな、元貴は、と感心した。
二人のいない時間がどんどんと増えて、僕は自分が言い出した事だから、喜ぶべきなんだ。べきなんだろうけど…いや、やめておこう。二人が青春出来ているなら、それに越したことはないんだから。
今日は、僕も数少ない友人と夜ご飯を食べに行っていた。二人を見倣って、お友達を大切にしないとね。
オシャレな創作カフェに入って、予約してくれていた半個室に通される。
「亮平くん、お待たせ。」
「おつかれ、涼架くん。」
キッチンカーの集まりで出逢った、僕と同い年の阿部亮平くん。僕が時々任せてもらえるキッチンカーは、実は彼のもの。
亮平くんは、ご両親が元々飲食店を経営していて、その後を継ぐつもりだと言っていた。そして、自分の代から新しく、キッチンカーも運用していきたい、とご両親に相談して、実際に導入して回していっているのだから、尊敬に値する。僕と同い年なのに、とてもしっかりしていて、可愛い顔をしているのに、大人っぽい雰囲気の人だ。
「お、焼けたねー。夏楽しんだんだ。」
「ああ、これね、リゾバだよ。店長の海の家頼まれちゃってさ。」
「へえ、すごいじゃん。」
「そうそう、ありがたい話だよ。それで、元貴とひろぱと一緒に行ってきたんだ。色々あったけど楽しかったよ。」
「…?誰だっけ?」
「あ、亮平くんにはまだ話してなかったっけ。僕ね、今三人で暮らしてるんだ。」
「へえ、ルームシェア?」
「そんなようなもんかな。なんか、二人が追いかけて転がり込んできた感じなんだけどね。」
「ふーん。」
「いやほんとにビックリだったんだよ。朝起きたらいきなりピンポーンてさ…」
僕は、元貴とひろぱがやって来た時からこれまでの想い出と面白話を夢中で話した。
僕のキッチンカーの夢を一緒に叶える為に、学校へ行ってること、ベッド選びで元貴がキングサイズを選ぼうとしたボケ、僕の誕生日にひろぱが手作りケーキを、元貴がピアスをプレゼントしてくれたこと。時々ひろぱとは一緒にレシピ開発したり、実技の練習を手伝ったりしてるとか、リゾバでのハプニングなどなど。ひろぱからの『練習』のキス…?は、話すのはやめておいた。
「…あ、ごめん、僕しゃべりすぎだね。」
「ううん、そんなことないよ、聞いてて面白かった。すごく。」
「ほんと?まぁそんな感じでさ、あの二人が来てからほんと楽しくて。」
「いいね。大好きなんだね。」
「うん、幼馴染だからね。」
「…涼架くんもだけど、その二人が、涼架くんのこと大好きなんだね、って。」
「あー…そうだね、まだすごく甘えん坊だなって思うね。あの二人は。」
僕がクスクス笑うと、亮平くんは少し含みのある笑顔を浮かべた。
「…なんだか、会ってみたいな、その二人。」
「あ、ホント?実は今度、キッチンカーの集まりに連れて行こうかなって考えてたんだ。」
「そう。じゃあその時に、ぜひ紹介してよ。」
「うん!ぜひぜひ!」
注文したお料理が運ばれて来て、僕らはそっちの味付けや盛り付けなどに意識が移っていった。
十月八日、ひろぱの誕生日がきた。カレンダーは例によってイラストで彩られていて、特別感を醸し出していた。
なのに。
今日は、二人とも家にいない。
以前、いつも通りに僕が誕生日の予定を二人に聞いた時、
「あー…。俺、調理グループの子らが誕生日お祝いしてくれるって言うから、そっち行ってくるわ。ごめん。」
「あ、じゃあ俺その日ニノ先生にご飯行こって言われてたから、行って来てい?」
といった風に、なんと二人ともお友達優先で予定が入ってしまったのだ。
おお、これは。
これは、寂しいぞ。
いやいや、良いことじゃないか。
お友達と仲良くして欲しいと言ったのは誰?他でもない、この僕だ。
だけど、まさか誕生日にまで、優先されるとは…。いやいや…。
なんだか、子どもが大きくなって離れていくのが嬉しくも寂しい親みたいな気持ちを一人モヤモヤと抱えていた。
「うーん、一応休みは取ったけど、まあ一人で家にいたってしょうがないか。どっか出掛けようかな。うん、それがいいと思うよ。」
安定の独り言ならぬ独り会話をしていた僕は、そうだ、と思いついて、ダメ元で亮平くんに連絡をする。すぐに返信が来て、『じゃあ、僕と遊ぼう』と言ってくれた。
「ふーん、振られちゃったんだ。二人に。」
「違うって、お友達と遊ぶんだって。素晴らしい事じゃない。」
僕と亮平くんは、落ち着いた雰囲気のバルに来ていた。そこまで広いお店ではなく、二人掛けのソファーに並んで座り、クイッと一口飲んだグラスを丸テーブルに置く。
「でも、寂しいから連絡して来たんじゃないの?そもそも、今日わざわざお休み取ってたんでしょ?」
「…まあね。思春期の子どもを持つ親みたいな気持ちですよ、こっちは。」
「親ねえ…。」
亮平くんは、グラスを見て緩く笑って、軽く口を付ける。
「…ね、涼架くんもさ、探してみたら?」
「ん?なにを?」
「出逢い。」
「出逢い?」
「僕、自分で言うのもなんだけど、割と顔広いからさ、好みのタイプとか教えてもらえたら、紹介するよ。」
「ああ…そういう…。」
「なに?」
「いや…うん…。実はさ…。」
僕は、亮平くんに、元貴たちに以前言ったような、恋愛感情がよく分からない、という話をした。
「ふーん。涼架くんは、もしかしたらアロマなのかな。いや、クワロマの方が近いかも。」
「なにそれ?」
「アロマはアロマンティック、他者に恋愛感情を抱かない人。でも、聞いた感じ、涼架くんはクワロマンティック、友情と恋愛感情の区別が分からない、もしくは区別をつけない人、クワロマっぽいなーって。」
スマホを操作して、亮平くんがそれぞれの言葉の意味を僕に見せてくれた。
恋愛感情がよく分からないってだけで、アロマだのクワロマだの、なんか僕がカッコつけてるみたいだな、と肩をすくめた。
「そんな、大袈裟なもんじゃないと思うよ。ただの経験不足でしょ。」
「ふーん、経験不足か…。なら、経験してみる?」
「ん?」
亮平くんが、ニヤリと笑う。
「僕さ、涼架くんは、気付いてないだけで、気付きたくないだけで、ちゃんと恋してる気がするよ。」
「恋?え、誰に?」
「それは、僕が言う事じゃないでしょ。」
亮平くんが、僕の肩をポンポンと叩いて、楽しそうに笑った。
なんだか、掴みきれない人だな、亮平くんは。なんで僕も気付いてないらしい事を、亮平くんは分かるっていうんだろう。それもこれも、経験の差か…、と僕はちょっと情けなくなって、グイグイとお酒を飲んでしまった。
亮平くんと分かれ、少しふわふわとした足取りで、部屋へと辿り着いた。まだ夜の十時。大学生にとってはまだまだ序の口な時間なのだろう、玄関をそっと開けても、中は真っ暗だった。
今日は帰ってこないのかもな…と玄関に視線を落とすと、元貴の靴が揃えてあった。
あれ?帰ってるのか、と視線を部屋に戻すと、寝室のドアから、仄かに灯りが漏れている気がする。
もしかして、寝落ちでもしてるのかな、と静かにノブに手を掛けようとした時、ドア越しに元貴の小さな声が聞こえた。
本能的に、ついドアに顔を付けて、聞き耳を立ててしまう。
「…りょ…ちゃん…。」
微かに聞こえた、その声。荒い呼吸の音と、甘く響くような声。これは、もしや。
「…っ。」
ティッシュを数枚引くような音の後に、息を飲み込むような声がした。
やっぱり。これは、たぶん、男の子の、自家発電だ。
僕は慌てて、足音を殺しながら玄関へ向かって、靴を履いて音もなく外へ出た。
とりあえず近くのコンビニに向かいながら、今自分が耳にした音を頭の中で反芻する。
………りょ…ちゃん…、って、言ってた…?
…涼ちゃん…?いやいやまさか。自家発電の時に思い浮かべるのなんて、きっと好きな子に決まってる。『リョウコ』ちゃんとか、そんな名前かな。
そうか、元貴、『リョウコ』ちゃんが好きなんだな…。大学の子だろうか。ニノ先生には、もしかして恋の相談なんかもしてたりして。
我が子の秘密を知ってしまった親の気持ちで、心を落ち着かせようとコンビニでスイーツを物色する。
商品を見てるような見てないような感じで、ボーッと棚の前にただ立っていると、コンビニのドアが開いた。
「あれ、涼ちゃん。」
元貴が、スウェットのまま、サンダルでコンビニに来ていた。僕は心臓が飛び出そうになる。
「ほ、あ、元貴。」
「ほ、あ、って何。」
元貴が笑いながら、僕の横に並ぶ。
「スイーツ買うの?じゃあ、俺これ。」
僕のとりあえず持っているカゴに、期間限定のスイーツを入れた。
「涼ちゃんいてラッキー。」
悪戯っぽく笑う元貴の顔が、いつもより大人っぽく見えて、見惚れてしまう。その棚の中で一番高価なスイーツを入れられていることにも、僕は気付いていなかった。
僕とひろぱの分も、種類の違う期間限定スイーツを買って家に戻ると、ひろぱも帰って来ていた。
「おかえりひろぱ。あ、お誕生日おめでとう。」
「ありがとう。それ何?プレゼント?」
「そーそー、おめでとう若井ー。」
「違うでしょ、僕に買わせたんじゃん!一番高いやつ!」
元貴がケラケラと笑って、ひろぱにカバンから取り出したプレゼントを渡す。
「お、ネックレスじゃん、カッコいい!ありがと!」
「いーえ。」
僕はホッと安心して、ひろぱにプレゼントを渡す。
「はい、僕からも。おめでとう。」
「ありがとう。…あ、ピアスだ!うわー嬉しい!」
ひろぱも、高校を卒業してこの部屋に来る前に、ピアスを開けていた。元貴は、穴あけが痛そうで嫌だから、ピアスホールは開けないんだって。
「よかったよ、元貴と被らなくて。」
「俺、今ピアスならいくらでも欲しいけどね。」
「そうかなとも思ったけど、多分涼ちゃんピアスにするだろなーと思って、ネックレスにしといた。」
僕のも元貴のも、どちらもシルバーのアクセサリー。もしかして、そこまで読んで合わせてきてたとしたら、元貴、凄すぎる。
「…二人とも、今日は楽しかった?」
「うん。みんなカラオケのパーティールーム借りてお祝いしてくれたよ。」
「へえー、よかったじゃない。」
「…涼ちゃんは?今日ちょっと寂しかったんじゃない?」
元貴が、こちらを伺うように言った。
「…ううん、亮平くんと飲みに行ったし、僕も楽しかったよ。」
僕は、上手に笑顔を作って、元貴に応えた。
「…りょうへいくん?」
「誰?」
二人が、少し怪訝な顔をする。
「え、あ、亮平くんのこと話してなかったっけ。ほら、僕が元貴たちとお祭りで逢った時に借りてたキッチンカー、あれが亮平くんのなの。キッチンカーの集まりで知り合って、僕と同い年なんだけど、凄い人なんだよ。」
「…ふーーーん。」
元貴が、興味があるのかないのかよくわからない返事をした。
「あ、そう。亮平くんにね、僕ももっと出逢いを広げた方がいいって言われちゃって。恋人作って経験詰んだ方がいいから、誰か紹介しようか、って。でもさ」
「はい?!なにそれ!」
若井が、大きな声で話を遮る。
「その話、乗ってないよね?」
元貴も、なんだか焦ってるみたいに詰め寄ってきた。
「ないない、だから、僕がよく恋愛がわかんないって話を亮平くんにもしたんだ、って言おうとしたの。」
僕も慌てて弁明する。なんだか、二人の顔が険しい。
「…そっか、よかった。」
若井がホッとため息を吐いて、そう零した。
「…俺、会ってみたいな、そのりょうへいさん。」
元貴が、全く目の奥が笑っていない笑顔で、僕に伝えてきた。うん、また今度ね、とだけ応えて、僕は買ってきたスイーツを冷蔵庫に入れに行った。
「…引く作戦は、ダメだったみたいだね。」
「まさか、そんな虫が付いてるとは思わんしな。」
「…でも、あっちはうまくいったよ。」
「マジ…?ホントにやったんか、お前すげぇな…。」
「まぁね。」
また、元貴とひろぱが小声で何か話をしている。僕はいつも通り気にしないフリをして、冷蔵庫を閉めた。
次の土曜日、早速キッチンカーの集まりがあったので、二人を誘ってみる。亮平くんに会えるよ、と伝えると、二つ返事で「行く。」と応えた。
今日の集まりは、亮平くんのお店で開催されている。80’sのアメリカをイメージした、レトロ可愛いお店だ。
お店の車庫の中には、いつも貸してもらってる黄色いキッチンカーが停めてある。
「いらっしゃい。…この子達?」
亮平くんが、入口まで出迎えてくれた。元貴とひろぱを見て、亮平くんが微笑んだ。
「どうも、いつもうちの涼架がお世話になってます。大森元貴です。 」
「うちのりょうか…?」
「涼架と同棲してる、若井滉斗です。」
「どうせい?」
両脇の二人の言葉に僕がいちいち引っかかって繰り返していると、プッと亮平くんが吹き出した。
「…いや、ごめん。思ってた通り、面白そうな子達だな、と思って。」
「…ありがとうございます。」
元貴が静かに微笑む。
「涼架くん。」
「…涼架くん?」
亮平くんが僕に話しかけると、ひろぱがその呼び方に反応した。
「…涼架くん、あっちで、今度のイベントについてみんな話し合ってるから、ちょっと聞いてきてくれる?」
「あ、そっか、またキッチンカー任せてくれるんだったね、ありがとう!ごめん、元貴、ひろぱ、ちょっと行ってくるね。」
「え?」
「あ、俺らも…。」
「元貴くんとひろぱくんは、ちょっと僕とお話ししない?」
「ひろぱくん…?」
ひろぱが困惑する。亮平くんが二人の相手をしてくれるみたいだったので、僕は話し合いの方へと合流した。みんなの話を聞きながら三人の方をチラと見ると、最初は警戒しているような表情を浮かべていた元貴たちが、だんだんと亮平くんと打ち解けていったようで、何やら真剣に話し合っているようだった。
良かった、仲良くなってくれたみたいだな、と僕は安心して、今度のイベントの話へと集中した。
「涼架くんお疲れ様、今度もよろしくね。」
話し合いが終わって、亮平くんたちのところへ戻ると、三人の話もひと段落着いたようだった。
「うん、こちらこそ、よろしくね。元貴たちの相手もありがとう。楽しそうだったけど、何話してたの?」
「ん?亮平さんが色々物知りでね、いいこと教えてくれたんだよ。」
元貴が嬉しそうに話す。
「へえ、何?」
「それは内緒。な。」
ひろぱが、元貴に目配せする。
「なんだよー、仲間はずれ〜?」
「ふふ。…そうだ、涼架くん、今度のイベントでさ、僕の常連さんが来ると思うから、よろしくね。」
「常連さん?僕でいいの?」
「うん、涼架くんがいいんだ。」
「?うん、わかった…。」
「俺たちも手伝わせてもらうことになったから。」
「まだ呼び込みと売り子しか出来ないけどね。」
元貴とひろぱが、手伝いに来てくれるなんて、初めてだ。僕は俄然楽しみになってきて、機嫌良く集まりを後にした。
キッチンカーのイベント当日。郊外の大型ショッピングモール内にある催事用の芝生広場に、さまざまな出店やキッチンカーが所狭しと並んでいる。
秋晴れの天気にも恵まれ、開店時間から順調に客足が増えていった。
「いらっしゃいませー。」
「こちら、ランチボックスになりまーす。」
元貴とひろぱが、キッチンカーの少し前に立って、客寄せをする。みるみるうちに、女性を中心に行列が出来ていく。
「涼ちゃん、大丈夫?」
「うん、二人ともありがとう。注文を整理してくれるからすごくやりやすいよ。」
「そう?よかった。」
元貴も、海の家の時より、柔らかな表情でお客さんに対応出来ている。
おかげで、ランチは完売。この後、スイーツ販売に切り替えるため、一度お店を閉める。
「元貴、ひろぱ、お疲れ様。ちょっと休憩しておいで。」
「いや、涼ちゃんこそ休みなよ。」
「そうだよ、ずっと一人で回してたじゃん。」
「僕は次の仕込みがちょっとあるから、行っておいで。」
「…そう?」
「じゃあなんかドリンク買ってくるわ。」
「うん、ありがとう。」
二人が、宣伝も兼ねて、お店のエプロンのまま辺りを歩き始めた。すぐに女性たちに声をかけられて、写真までお願いされている。
あの二人に限っては、夏の海マジックなんかじゃなかったな、普通にモテモテだ。
「あの。」
二人を目で追っていると、キッチンカーの前から声をかけられた。
「はい。」
「あ…ランチ終わっちゃったんだ。」
「あ、そうなんです、すみません。この後二時から、スイーツの販売もあるので、是非そちらにいらしてください。」
「…藤澤、涼架さん?」
「え?」
目の前の、背が高くて、元貴たちと同じくらい、いやそれ以上かもしれない程の端正な顔立ちの若い男性が、不意に僕の名前を呼んだ。
「そう…ですけど…。」
「りょう…阿部から聞いてます、今日は藤澤さんの日だって。」
「あ、もしかして、亮平くんの常連さん?」
その男性が、ニコッと笑う。笑うと、余計にカッコいい。
「あ、ですか。」
僕は、タメ口を聞いてしまったと、慌てて語尾を付け足した。
「ふふ…聞いてた通り、可愛らしい人ですね。」
突然の褒め言葉に、顔が赤くなる。
「…僕、ちょっと今からここ離れなくちゃいけなくて。スイーツも終わっちゃったら悲しいんで、もしよかったら連絡先教えておいてもいいですか?終わっちゃうようなら、連絡もらえたら嬉しいんですけど。」
「あ、全然全然!もちろん大丈夫ですよ。」
僕は、ポケットからスマホを取り出す。常連さんが、QRコードを出してくれたので、かざして読み取る。
「あ、出ました、目黒…。」
「目黒、蓮です。」
ぺこり、と頭を下げて、颯爽と歩いて行った。イケメンは、名前までカッコいいんだな、と僕はスマホに目を落とした。
『突然すみませんでした、よろしくお願いします。』
ポコン、とメッセージが届く。亮平くんの常連さんだ、僕も丁寧に接しておかないと、失礼になっちゃう。
『いえ、ランチ終わっちゃってすみませんでした。二時から、お待ちしてますね。』
こんな感じかな、とスマホをポケットにしまうと、またブルッと震えた。
『涼架さんにまた会えるの、楽しみにしてます。』
りょ…!いきなり涼架さんだなんて、イケメンは違う。僕は、無難なお辞儀のスタンプを送って返した。
「涼ちゃん、はい。」
顔を上げると、二人がドリンクを持って帰って来ていた。
「あ、ありがとー。」
「さ、あんまり時間ないよね、準備手伝えることある?」
「あ、じゃあ、後でのぼりと看板を替えてもらえるかな?」
「よし、おっけーおっけー。」
僕たちは、少し日陰に寄って、炭酸のフルーツドリンクを楽しんだ。
その後、スイーツの販売が始まっても、元貴とひろぱ効果でまたもや早くに完売となってしまった。嬉しいのだけど、なんだか少し切ない。僕だけの時と、あまりに売れ行きが違いすぎて、ね。
「あ、そうだ。」
早めの店仕舞いをした後、目黒さんの事を思い出して、スマホを取り出す。
『すみません、スイーツも完売になり、早めにお店を閉めちゃいました。また今度、機会があれば是非お越しください。』
なんだか申し訳なかったな、常連さんらしいのに。そう思っていたら、ポコン、と返事が来た。
『そうですか、残念です。涼架さんにお会いできないのが結構ショックですね。もう少しお話ししてみたかったのに。』
おお…なんかすごくストレートに来るな、このイケメン常連さん。そう驚いていると、ポコン、とまたメッセージが届いた。
『もし良かったら、今度、阿部と一緒にどこか出掛けませんか?』
「ぅえ?!」
「なに?涼ちゃん。」
「どした?」
二人が同時に僕を見た。僕も二人を見て、またスマホに視線を戻す。え?これ、え?どうすれば…。
「…誰?」
いつの間にか覗き込んでいた元貴が、僕に訊いた。
「…あのー…ほら、前に亮平くんが言ってた、常連さんみたい…。」
「あー…。」
「え、めっちゃ誘われてるやん。どーすんの?」
ひろぱも覗き込んできて、僕を見た。
「どー…すればいいんでしょう…。」
僕が迷っていると、元貴がスマホをパッと奪って、素早くメッセージを打った。
「え、ちょっ」
「はい。」
「え、はや、え?」
返されたスマホを見ると、僕からのメッセージが追加されていた。
『もちろんぜひ!僕も友達2人連れて行きますね!』
「え…これって。」
「もちろん、俺らも行きます。」
「元貴ナイスゥー。」
二人がグータッチを交わして、助手席に乗り込む。
「涼ちゃん、早く帰ろ。」
窓からひろぱが顔を出して、僕を呼んだ。また、スマホが震える。
『楽しみです。』
なんだかよく分からないけど、皆んなで出掛けることになったみたい。僕は首を傾げながら、運転席に乗り込み、亮平くんのお店へと車を走らせた。
コメント
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あああああ阿部ちゃん?!!めめぇ?!!!!
いやあああああ、、最高すぎる✨ 私、実はsnowmanも好きで、、阿部ちゃん大好きなんですよ!出てきた瞬間素で声が出ましたね笑 全て❤️💙の計画通りだったとは、、!さすがですね😆 💛ちゃんは相変わらず鈍感すぎるのよ!!笑 夏の影も楽しみにしてます〜!主様のペースでゆっくり作っていただけるとこちらも嬉しいです🥰
更新ありがとうございます🥰 もう2人とも引きすぎ😆✨ でも可愛い可愛い〜💕 確かに他のお二人と比較したらラブコメ代表かもですが、私はリョーカと若井さんで当時大号泣してた人間なので、七瀬さんの色んな作品楽しみにしています💕夏の影も楽しみです〜🥰