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十一月に入った最初の土曜日、僕は遊園地に来ていた。
大きなゴンドラが降りてきて、観覧車に乗り込むと、目の前に座っているのは、蓮くん。
え?いつの間に、こんな事になったかって?
それは、僕にもよく分からない…。
『涼架くん、今度の土曜日、みんなでこの遊園地に行かない?』
キッチンカーイベントの後、亮平くんから早速お誘いが来た。
「元貴、ひろぱ、これどう?」
二人に、行き先の遊園地の画像を見せる。
「げ…遊園地かあ…。」
ひろぱが、嫌そうな声を出す。そういえば、遊園地って高所の乗り物が結構あるイメージだな。
「変えてもらう?」
「んー…!いや!…行く。」
「俺も大丈夫。」
「わかった、じゃあ返事するよ?」
「ん。」
「よろしくー。」
スマホを操作して、承諾の旨を返信した。その後、ソファーで寛ぐ二人に目を遣る。違和感を抱く、僕。
…なんだか、二人とも、いやに素直じゃないか?
そもそも、目黒さんと連絡先を交換した時も、なんか変だった。
だって、なんとなく、いつもの二人なら…
『遊びに行きませんか?え?何言ってんのこの人。ブロックして涼ちゃん。』
『はあ?なにこれ。なんでいきなり連絡先教えてんの?もう必要ないでしょ、削除。』
『遊園地?亮平さんと…目黒ぉ?だめよ。』
『涼ちゃん行く必要ないでしょ。亮平さんと目黒さんで行けばよくない?そう返事しとくわ。貸して。』
うわぁ…我ながらなんとリアルな想像…。でも、こうなってもおかしくないくらい、普段の二人は、僕への態度が度を越している。
もしかして、自分たちの行動を改めた…とか?ひろぱの誕生日も、友達を優先していたし、亮平くんとも仲良くなって、僕の交友関係にも寛大になって…。
あれ、むしろこれが普通だな。今までがちょっとやり過ぎなくらい愛情表現してくれてただけで、全然これが普通だぞ?!なにも違和感ないじゃないか。だいぶ毒されてたな、僕。危ない危ない。
でも、そうか…。これはきっと、二人の親離れも、もうすぐそこ、ということなんだろな。
そう思うと、急に寂しくなって、二人に近づいて頭を撫でた。
「…なに?」
「テレビ見えない。」
あ、冷たい。
「おはよう、亮平くん、目黒さん。」
「おはよう涼架くん、もっくん、ひろぱ。」
「いやそれやめてくださいって。」
「なんで?可愛いじゃん、もっくん。」
「もっくん♡」
「おい岩井。」
亮平くんと元貴たちが、戯れあっている。ホントに、急に仲良くなったなぁ。あの時、なんの話してこんなに仲良くなったんだろう。
僕が三人を見つめていると、隣に目黒さんが近づいて来た。
「おはようございます、涼架さん。」
「おはようございます。」
「これ、今日のチケットです。」
「あ、ありがとうございます。えっといくら…。」
「あ、いいですいいです、今日無理言って来てもらっちゃったんで。」
「いやいや!そんなわけにいきませんよ!」
僕がお財布を開けようとする手を、片手で制して、耳元に顔を近づける。
「…その代わり、蓮て呼んでください。」
すごく耳に近いところで声がして、僕はビクッと肩をすくめてついそっちを見た。至近距離に顔があって、クス、と笑っている。背が高くて、目線が僕より上なんてあまり無いから、やけにドキドキしてしまう。
「あ…え…で、でも…目黒さん」
「蓮。」
「あ、蓮さん、お若い…ですよね?」
「早生まれなんで、まだ18ですけど。」
「え!!元貴たちと一緒?!?!」
こんなに大人な雰囲気なのに、あの二人と同い年…!?僕は思ったよりもデカい声で言ってしまって、チラ、と二人を見る。すごいジト目でこっちを見ていた。
「…どーいう意味?」
元貴が、低い声で訊いてくる。ヤバい、地雷踏んじゃったぁ…。
「…いや、別に…。」
「いや元貴は別として、俺は結構タメ感あるでしよ。ねえ?」
ひろぱが蓮さんに話しかける。
「そうだね、えっと…。」
「あ、若井です。」
「若井くん。タメで、いい、よね?」
「もちろん!」
「なあ、元貴は別としてってなに?俺そーいうの聞き逃さないから。」
元貴が、標的をひろぱに変えて、詰め寄っている。
僕はとりあえず二人をほっといて、亮平くんのところへ近寄った。
「ねえ、蓮さん、チケット代受け取ってくれないんだけど。」
「うん、僕が全員分出してるから、大丈夫だよ。」
「え!そうなの?」
「こら蓮!ちゃんと言えよ!」
「ごめんねー。」
向こうから、悪戯っぽく蓮さんが亮平くんに謝る。亮平くんには、年相応な、可愛らしい感じで話すんだな、と僕は思った。
「ま、そういうわけだから。」
「ええ〜…だめだよ、払わせて〜。」
「いいってホント。いつもキッチンカーでお世話になってるお礼。」
「いや逆でしょお、亮平くん…。」
「あはは、まぁいいからいいから、ほら、早く入ろ。」
「うー…じゃあ今度、ご飯ご馳走させて。」
「うん、ぜひ。ありがとう。」
「ホントにいいの?ありがとう。」
「うん。」
入場を済ませ、地図を広げて園内の乗り物を確認する。
「どうする?みんなで移動する?分かれる?」
亮平くんが、全体を見回す。
「せっかくだから、みんなで行こうよ。」
僕が言うと、蓮さんがチラ、とこちらを見た。
「涼架さん、これ平気?」
「ん?うん、大丈夫。あ…でも…。」
蓮さんが指差したのは、ジェットコースター。僕は、チラ、とひろぱを見る。
「若井くん、これいける?」
「いけません!」
「俺も無理。」
元貴も、ひろぱに同意する。
「あ、じゃあ、僕この二人引率するから、涼架くん、蓮と一緒に行って来なよ。」
「引率…。」
先生みたいなことを言う亮平くんに、元貴が呟いた。
「そうしましょうか、涼架さん。」
「え、えでも…。」
僕が戸惑っていると、スル、と手を取られて、あっという間に恋人繋ぎで手を引かれた。
「あっちだって、行こ。」
「う、あ、え?」
蓮さんが爽やかな笑顔を向けて僕を引っ張るので、なんとなく着いて行ってしまった。チラ、と二人を振り返ると、にこやかにこちらに手を振っている。
ええ!?おかしい!!やっぱり…
あれ、別にグループに分かれて遊園地で遊ぶのは、これまた普通か。またまた僕が毒されてただけだわ。
目的の場所に着いたが、さすが土曜日なだけあって、行列ができている。僕と蓮さんも、最後尾に並んだ。
「次どこ行くか決めとこうか。」
「あ、う、はい。」
「…ここはタメでいくとこでしょ?」
蓮さんが顔を覗き込んで、笑いかけてくる。
「あ、うん。蓮…くん?」
「うん。俺も、涼ちゃんて呼んでいい?」
「うん、もちろん。」
「ありがと、涼ちゃん。」
ああ、こうして話すと、確かに元貴と同い年って感じがする。まだ可愛らしいというか…。
ぐう〜…ぐきゅるるる…
蓮くんと見つめ合って、沈黙が流れる。
「…蓮くん?」
「いや涼ちゃんでしょ今の。」
蓮くんがクスクスと笑う。
「え、うそぉ!僕?!」
「はは…あーおもしろ。」
「スミマセン…。」
笑いすぎて涙ぐむ蓮くんが、指で目尻を擦る。
「じゃあ、これ乗ったらなんか食べる?」
「いや!ホントに、ちゃんと朝ごはん食べてきたんだよ?!」
「でも、鳴ってる。」
蓮くんが、人差し指で僕のお腹にそっと触れた。細くて長い指、少しドキリとする。
ジェットコースターを楽しんだ後、宣言通り、フードコーナーへ向かい、少し早めのランチを食べることになった。
「あ、キッチンカーある。 」
「ホントだ。あー、あのでかいネジネジポテト、食べてみたい。」
「いいね、じゃあー、半分こする?」
僕が首を傾げて尋ねると、蓮くんが口元に手を当てて、しばし考える。あ、一本全部食べたいのかな?
「…なるほどね…。」
「ん?」
「…半分こ、しよ。」
ポテト串や、その他のメニューをいくつか買って、それぞれ分け合いながら、色んなものを食べた。
「最近の遊園地って、すごいね、美味しい。」
「そうだね。あ、涼ちゃん。」
ふふ、と笑いながら、お店から貰ったウェットティッシュで、僕の口を拭く。
「ん!付いてた?ごめん。」
「ううん、可愛い。」
テーブルに肘をついて腕を組み、蓮くんにじっと見つめられている。視線に耐えられなくなった僕は、地図を広げてそこに眼を逃した。
「あ、これ、観覧車乗りたい。ひろぱ絶対乗ってくれないし。」
ひろぱが泣いて嫌がる姿を想像して、クスクスと笑う。地図を持つ手を、不意に握られた。
「え?」
「…やっぱり、涼ちゃん、手冷たいね?」
「あ…そう、かな…。」
「うん、さっき手繋いだ時、冷た、て思って。冷え性?」
「冷え性、かなぁ?」
確かに、上から被されている蓮くんの手は、じんわりと暖かい。
「…ちょっと待っててね。」
蓮くんが、テーブルを離れて何処かへ行ってしまった。僕は、食べ終わったゴミを片付け、ふとスマホを見た。あちらの三人からは、何も連絡が来ていない。これは、亮平くんの引率が上手くいっていて、楽しんでる、という事なんだろうか。
どこかで合流するのかな、それとも終わりまでこのまま?僕は連絡するかどうか、テーブルの近くに立ってスマホと睨めっこをしていると、蓮くんが帰ってきた。
「はい、ココアかコーヒー、どっちが良い?」
「え、あ、ココア…。」
「はい。」
蓋つきのカップを手渡され、両手で受け取ると、指先がじんわり温かくなった。
「ありがとう、あ、お金。」
「いいです、僕が飲みたかっただけなんで。」
目の前に、片手を差し出されて、僕が蓮くんを見ると、困ったように笑って、カップに添えてある僕の片手を取って、手を繋いだ。
「よかった、あったかくなってる。」
蓮くんがニコッと笑う。
「じゃあ、行こうか。」
「へ?どこに?」
「…観覧車、でしょ?」
僕の手を引いて、また園内を移動していく。ココアを持つ手も、繋いだ手も、温かかった。
僕らの順番が来て、目の前に来たゴンドラに、蓮くん、僕の順番で乗り込んでいく。
ガチャン、と扉を閉められて、ゆっくりと上昇していく。
「…おお、結構揺れるね…。」
「ふふ、涼ちゃんも実は高いの苦手でしょ。」
「あは、バレた?」
だんだんと、位置が高くなって来て、見える景色が広大になっていく。わあー、と外を見て、景色を楽しんでいると、蓮くんが話し始めた。
「…涼ちゃん、今日楽しかった?」
「うん、まあ、まだまだ時間あるけどね。」
「…俺とさ。」
「ん?」
「手繋いでみて、どうだった?」
「…え?」
二人が黙ると、観覧車の中心が回るゴン、ゴン、という音が響く。
「どう…とは…。」
「あ、じゃあ、質問変えるね。」
「ん?うん。」
「あの二人とは、どこまでいってんの?」
「あの二人って、元貴とひろぱ?」
「うん。」
「どこまでって?」
「寝た?」
「え?うん、毎日一緒に寝てるけど。あの二人さあ、ベッドくっつけて来たんだよ。ちゃんと一人一部屋あるのにさ。それで言うと」
「そうじゃなくて、セックス。」
「………………………せ……………。」
「やっぱ、してないか。」
「…れ、蓮くん?」
「ん?」
「…蓮くんて、あれ?結構、過激な人?」
「ん、まあ、俺は亮平とちゃんとヤッてるからね。」
開いた口が塞がらない。
「…えーと…つまり、蓮くんと亮平くんは、恋人同士ってこと?」
「そ。」
「おお…そうだったんだ。え、でも、じゃあ僕と周ってる場合じゃないじゃん、亮平くんと行かなきゃ。」
「大丈夫、うちは、フリーセックスだから。」
「………なんですか、それ。」
「恋人ではあるけど、お互い自由恋愛オッケーなんだって。」
「………それって、恋人?」
「…言うと思った。ま、俺もそう思う。」
「え?」
「亮平が言い出したんだよ。付き合っても良いけど、フリーセックスにしてくれって。」
「え、亮平くんが?」
意外だ…。賢くてしっかり者の彼が、そんなこと言うなんて。
「…そう言いながら、亮平は全然しないよ、他の人とは。俺にね、もっと自由にしてほしいんだって。まだ若いから、色んな人との恋愛を経験してほしいって。」
「ふーん…なんでそんなこと言うんだろう、亮平くん。」
「さあね。俺もムカつくから、絶対亮平以外としないけど。」
「…ん?それって、つまり二人ともお互いだけって事だよね?」
「…まあ。」
「そっか、ならちゃんと恋人同士じゃない。」
「…結果論はね。しかもまだわかんないし。」
ゴンドラが天辺に差し掛かった時、蓮くんが立ち上がって、僕の方へ歩み寄った。
「わ、わ!結構、揺れる!」
僕は慌てて椅子の縁を掴んで恐怖を紛らわせた。僕の背後の窓枠を、僕を囲うようにして蓮くんが両手で掴む。上半身を屈めて、顔がすごく近くなった。
「…キスくらいまでなら、良いかなって、思ってるけど。」
「…え。」
ゆっくりと、蓮くんの顔が近づく。
ふと、ひろぱが『練習させて』と言ってキスをしてきた時の、ひろぱの顔が、蓮くんと重なった。あの時は、受け入れたけど…、蓮くんは…。
「…やだ!」
両手で蓮くんの肩を押して、顔を背ける。
「…やっぱりね。」
「…え?」
ゆっくりと、元の席に戻った蓮くんが、優しく笑って僕を見つめる。
「嫌だったでしょ?」
「え…。」
「でも、若井くんは受け入れたんだよね。」
「…受け入れたというか…気付いたら、というか…。」
「でも、嫌だったら、さっきみたいに拒否るよね。」
「………。」
「あと、俺と手を繋ぐのと、大森くんと若井くんと手を繋ぐのと、どう違った?」
「…え?」
蓮くんが、ちら、と窓の下を見て、ふ、と笑った。
「残念、タイムオーバー。」
「え?」
僕も釣られて下を見ると、元貴とひろぱと亮平くんが待っていた。
「あ、合流するのかな。」
「ねえ、涼ちゃん。」
「ん?」
「俺の、『涼ちゃん』と、二人の『涼ちゃん』、響きが違うか。」
「え?」
「俺と、あの二人と、手を繋ぐのが、どう違うか。」
ゴンドラが下に着いて、係の人がドアを開ける。
「ちゃんと、考えてあげてね。」
そう言って、蓮くんが先に降りた。僕はハッとして、急いで後に続く。
その後、三人と合流して、みんなで園内を歩く。同級生三人が前を歩き、僕と亮平くんというこれまた同級生がその後ろを少し離れて歩いている。
「…蓮くんに聞いたよ。」
「ん?ああ、付き合ってる事?」
「うん。…どうして、自由恋愛なんて言うの?」
「あは…、蓮、自分の事そんなに話したんだ。それは計画に入ってなかったのに。」
「え?」
「ううん。なに、自由恋愛?」
「うん。」
「だってさ、蓮はまだ18とか19だよ。これから先まだまだたくさん出逢いがあるし、お互い若い時にしか出来ない恋愛もあるでしょ。こんな早くに僕に決めちゃわないでさ、もっと自由に考えてほしいのよ。」
「…でも、寂しそうだったよ。蓮くん。」
亮平くんが、少し俯く。
「…ねえ、蓮くんは、すごく亮平くんが好きなんだと思う。」
「…うん。」
「亮平くんもでしょ?」
「…ふっ…。…うん。」
亮平くんは、少し悲しそうに笑って、頷いた。
「…予防線、張ってるんだよね、僕は。」
「…蓮くんが離れて行った時の為に?」
「…そう。自由恋愛にしてれば、他の人に行っても、まあそっか、てなるし、もしかしたらまた僕に戻ってくるかもじゃん。」
「…亮平くんて、結構不器用だったんだね。」
「そう?合理的じゃない?」
「違うと思う。二人とも少しずつ傷ついてるじゃない。全然合理的じゃないよ。」
「…言うね。」
「…ちゃんと、お互いだけと向き合って、真剣に長く付き合う為に二人で努力する方が、よっぽど合理的だと思うよ。」
「…ていうか、涼架くん、人の事になると、こんなにハッキリするんだ。」
「え?」
「自分の事になると、途端に誤魔化すのにね。」
「誤魔化す?」
「蓮に、なんか宿題出されなかった?」
「宿題?」
僕は、観覧車での、蓮くんの最後の言葉を思い出した。
『俺とあの二人と、どう違うか考えてあげてね。』
「…あのことかな。」
「たぶん、それ。ちゃんと、考えてあげなね。」
「うん…?うん…。」
亮平くんたちと分かれ、僕たちは晩ご飯の買い物を済ませて、家に帰ってきた。
僕は、帰り道、ずっと考えていた。蓮くんに言われた事を。亮平くんに言われた事を。
蓮くんと、元貴とひろぱの違い…?
元貴とひろぱは、僕の幼馴染で、兄弟みたいなもので、蓮くんは最近知り合った、友…達?
「でも、そーいう事じゃないよなぁ。」
「なにが?」
ハッと気付くと、キッチンで元貴と並んで料理中だった。しまった、声に出てた。
ひろぱは、お風呂掃除と洗濯をしに行ってくれてる。
今日は、僕と元貴がご飯当番の日。一緒に夜ご飯を作ってるんだった。
「…なんでもない。」
「…ふーん。」
またそれぞれの作業に戻るが、僕は元貴の横顔をちら、と見る。
元貴と、蓮くんの違い…。
「…身長?」
「…は?」
しまった、また声に出ちゃった。
「なに?さっきから。」
「…今日、蓮くんに出された宿題を考えてたの。」
「…どんな?」
「蓮くんと、元貴達の違い。」
「…それ、合ってる?」
「え?」
「なんか微妙にニュアンス変わってそうなんだけど。」
「え?」
「…何したの?目黒くんと。」
「何って…。 」
手を繋いで、キス、されそうに…。
でも、蓮くんを拒否した。キス、したくなかった。
『でも、若井くんは受け入れたんだよね?』
「あれっ?」
「なに! 」
もう何度目かの僕の奇声に、元貴が苛立つ。
「なんで蓮くん、ひろぱのキス知ってたんだろ。」
「…はい?」
「あ…。」
なんでもかんでも、口に出すもんじゃない。僕はみるみるうちに、顔が熱くなる。
「いや、あの…。」
「…練習、したんでしょ?」
「へ?」
「なんで知ってるかって?俺たちが亮平さんに話したからだよ。」
「…え?なにを?」
「若井が、涼ちゃんとキスの練習したって。」
「え!え、なんで元貴まで知って」
「俺が若井に言ったから。誕生日の日。涼ちゃんが恋人でも作れとかうるさかったから。ムカついて、若井に涼ちゃんとキスの練習すれば、って。」
あの、スマホのやり取りは、それだったのか…。
「あれは…うん、ごめん。余計なお世話だったって、反省してる。」
「…そうじゃなくて…。」
元貴が、僕の方へ近づいてくる。腕を掴んで、キッチン奥の壁へと僕を追いやる。
「…蓮さんとは、キスできなかったんでしょ?」
「え…え、なんでそれ」
「蓮さんから聞いたから。」
「あ、あの三人の時…?」
「…じゃあ、俺は?」
「え?」
「…俺も、練習させてよ。」
元貴が、片手で腕を持ったまま、もう片方の手で頭を後ろから掴んで、引き寄せた。
「ん…!」
元貴と唇が、重なり合う。
両手の自由はきく。ならば、押し返せば良い。蓮くんのように、肩を力一杯、押し返して拒否すれば。
だけど、僕は、そうしない…できない。
なんでだ…?
頭の中は意外と冷静に考えているもんだ、なんて思いを巡らせていたら、顔の角度を変えて、元貴がキスを深めてくる。
「ん…。」
ぴちゃ、と舌が入ってきた。
「ん…?!」
お腹の辺りがゾクゾクとして、力が抜けそうになる。壁に押さえつけられて、何度も何度も元貴の舌で、僕の舌を撫でられる。
ようやく、元貴の顔が離れて、僕は急いで息を吸う。
「…これで、ちゃんと考えろよ。」
ふい、とキッチンに向き直り、元貴は作業を再開した。僕は、壁に張り付いたまま固まって、胸に手を当てて、心臓をなんとか落ち着かせる。
ボーッと、元貴の横顔を見ていたら、元貴の耳が、真っ赤っかになっているのに気付いた。首元も、真っ赤っか。
僕は、それを見た途端、心がじわ…と暖かくなった。なに、これ。なんだこれ。
めちゃくちゃ、かわいいぞ…?
「ねー、洗濯物、後でみんなで畳むー?」
用事を一通り済ませたひろぱが、キッチンを覗き込んできた。ひろぱが、壁に貼り付く僕と、作業を続ける元貴の様子を交互に見比べて、ボソリと呟く。
「…なんかした?」
「…別に。」
元貴が手元から視線を外さず応える。
「…茹でダコだよ、二人とも。」
ひろぱはニヤ、と笑ってソファーの方へ歩いて行った。
僕は、そろそろと、元貴の横に戻って、静かに自分の仕事に戻った。
この日の晩御飯の出来が酷いものだったことは、言うまでもない。
コメント
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戻ってきましたbreakfast!!最高です🥰 やっぱり🖤💚にすると思いました!というか完全に私の理想笑。不器用な💚くん好きです〜それに対してはっきり意見を言っちゃう💛ちゃん笑 宿題頑張って欲しいですね! ❤️さんもついにですか、、ちょっとずつ想いが伝わってきてる、、?といいなぁ☺️
木の枝を両手に生け垣から覗く3人🤣💕笑 七瀬さんのラブコメ要素もやっぱり大好き❣️ 💛ちゃん宿題、頑張って🫶 ⛄🖤さん、良い仕事されており、大満足させてもらいました〜👏💕
無事イケメン☆パラダイスをリアル妄想で出来ました、ありがとうございます🙂↕️私の待ち焦がれためめデート…やっぱりカッコよくエスコートしててよきよき✨ ⛄️🖤💚はちょっと予想してましたよ、私😏(考察してた感出してみる笑)じゃないと2人か許さないよなーって🤭 宿題の答え、ちゃんと正しく回答できるのか次回も楽しみです✨