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「あ、雪蛍くんのマネージャーさんだぁ」「どうも」

「あのぉ、ちょっと話があるんですけどぉ」

「お話ですか? それなら個室へ戻ってから――」

「えぇー? それが出来ないから今言ってるんですよぉ? どうしてだか分かります? 雪蛍くんに聞かれたくないって事なんですけどぉ?」


私と話があるらしい彼女の口振りから、どうやら雪蛍くんに関わりがあり、尚且つ本人には聞かれたくない内容のようだ。


「……分かりました。それでは今お店の方に空いている個室をお借りできるか聞いてきますね」


いくら芸能人御用達のお店とは言え廊下やトイレで話をする訳にはいかないので、私は空いている個室を少しだけ使わせて貰えないかお店の人に頼みに行く。


そして、雪蛍くんに少し戻るのが遅くなる旨を伝えた私は彼女と二人きりで案内された個室に入り、店員さんが去って行ったタイミングで「それで、お話というのは?」と早速彼女の話を聞き出そうと問い掛ける。


「結萌、雪蛍くんの事すごーく気に入っちゃったんです。っていうか、前からのファンなの。今回主演同士で運命も感じちゃったしぃ、きっと結萌と雪蛍くんは赤い糸で結ばれてると思うんですよぉ、だからねぇ、マネージャーさんからそれとなーく雪蛍くんに結萌の事お話して欲しいなぁって」


彼女の話というのは、雪蛍くんとの仲を取り持って欲しいというお願いだった。


正直、彼女のその発言には驚いてしまう。


運命だとか、赤い糸だとか、考え方が幼稚というか脳内がお花畑過ぎる彼女に若干身体が拒否反応を起こしていたし、『雪蛍くんは私の彼氏なんで!』という言葉がすぐそこまで出そうになるのをグッと堪え、


「その、桜乃さんのお気持ちは分かりましたが、雪蛍はうちの事務所の稼ぎ頭ですし、この業界にスキャンダルはご法度です。桜乃さんはアイドルですし、そういう事には色々と制約が厳しいのではないでしょうか?」

「えー、それはそうだけどぉ、愛し合ってたら問題はないでしょ? 雪蛍くんだって絶対に結萌の事意識してるもん」

「………」


その言葉に、ますます言い返してやりたい気持ちを抑えつつ話を続けていく。


「その、雪蛍の気持ちは私には分かりかねますが、恋愛沙汰に関しては事務所からも煩く言われていますから、雪蛍自身も立場をわきまえていると思うので桜乃さんのご期待には添えないかと……」


すると私の言葉に気分を害したらしい彼女は、


「はぁ……。貴方、使えないわね。本当マネージャーって無能な人ばっかりね。いい? 貴方の見立てなんてどうだっていいのよ。マネージャーはマネージャーらしく素直に従いなさいよ。とにかく雪蛍くんは絶対私の事好きなんだから、話を取り持って! いい? 絶対よ? そうしなかったら、貴方の事務所を訴えてやるわ。映画だって、貴方のせいで主演降りるって言ってやるからね!」


急に人が変わったかのように表情と態度を変えて捲し立てて言いたい事を言うと、彼女は怒って部屋を出て行ってしまった。


(あれが、桜乃 結萌の本性……)


勿論、私には彼女の本性がどんな感じか何となく分かっていた。


芸能界には、彼女のような人間も少なからずいるのは確かだから。


「はあ……面倒な事になったなぁ……」


とは言え、彼女のあの怒り具合から見て、このまま蔑ろにしては事が大きくなってしまうのは予想がつく。


雪蛍くんが彼女を好きだなんて一ミリも有り得ないのは分かっているし、告げ口をするようで気は引けるのだけど、雪蛍くんには彼女の本性も含めてきちんと話をしなければならないので帰ったら話そうと決めた私は、お店の人に部屋を貸してくれた事へのお礼をして雪蛍くんたちが待つ個室へ戻って行った。


「はぁ、マジかよ。アイツ面倒くせぇなぁ……」


日付が変わる前に雪蛍くんのマンションへ戻って来て、コーヒーを淹れてひと息吐いたところで私は事の顛末を彼に話した。


予想通り、雪蛍くんはうんざりとした表情を浮かべて大きな溜め息を吐く。


「なぁ、もういっそ俺らが交際してる事公表しようぜ。じじいにも話してさ」

「なっ!? それは駄目に決まってるでしょ? 雪蛍くんは売れっ子なんだよ? まだまだこれからっていう時に、恋愛沙汰はご法度だよ?」

「俺は別に構わねぇ。それで仕事が減っても別にいい。いずれは公表する事になるなら、今でも後でも変わらねぇよ」

「雪蛍くん……」


彼のその言葉は、素直に嬉しい。


だって、いずれは公表する、今でも後でも変わらないなんて、それって、今もこれからも私とずっと一緒に居てくれるっていう意味なのだから。


だけど、彼は今年二十歳になったばかりでまだまだこれからも活躍出来る。


そんな雪蛍くんが五歳も年上のマネージャーと付き合ってるなんて世間に知られたら、少なからず影響は出るだろう。


勿論私だって雪蛍くんの事は好きだし、これからも絶対その想いが変わる事もないと言い切れるけれど、彼の足枷にだけはなりたくないのだ。


「とにかく、この話はまだ保留。仕事も沢山貰ってるし、今は映画の事を一番に考えよう? せっかくの主演なんだから。ね?」

「……分かってる」


少し拗ねた表情を浮かべた雪蛍くんは横に座っていた私を後ろから抱き締めると肩から首の辺りに顔を埋めてくる。


「雪蛍くん、くすぐったいよ……」

「少しこのままで居ろよ。変な話聞かされて疲れた。充電中」

「もう……」


最近はこうして甘えてくる事も多くて、その度に彼を可愛く思う。


こうして甘えられるのは彼女である私だけの特権だから凄く嬉しかった。

ヤキモチ妬きな彼からの狂おしい程の愛情【完】

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