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ふと、照が立ち止まった。
「タクシー捕まえようかな」
「……なあ、今日はこのままどっか寄らね?」
まだ一緒に居たくて、咄嗟に俺の口から出た言葉に、照は少し驚いた顔をした。
でも、すぐに「別にいいけど」と頷く。
二人で静かなバーに入る。
照明が落とされた店内で、グラスを傾けながら、他愛もない会話をする。
けれど、心のどこかではずっと、照のことを考えていた。
グラス越しに映る照の指先。
酒に濡れた唇。
「……ふっか、今日はやけに静かじゃね?」
照がそう言って、グラスを置く。
鋭い目がこちらを捉えた。
「そうか?」
「そうだよ。なんか考え事?」
「……別に」
“照のことが好きで仕方ない”
そんなこと、言えるわけがない。
そんな本音を言ったら、この関係は壊れてしまう。
(それだけは、絶対にダメだ)
何でもないように笑ってみせる。
~~~~~~~~~~~~~
気づけば終電を逃していた。
「……じゃあ、俺んち来る?」
照が何気なく言ったその一言に、胸がざわついた。
「……いいの?」
「別に。泊まる場所ないんだろ」
それだけの理由だったのかもしれない。
だけど、俺にとっては救いの言葉だった。
二人はタクシーで照の家へ向かう。
関係を続けていたときは何度も訪れていた家。
関係をやめてから照の家には久しく行ってない。そのせいか今夜はいつもより心臓が速く鳴っていた。
「シャワー浴びる?」
「先入っていい?」
順番にシャワーを浴び、リビングでビールを開ける。
ソファに座り、並んでテレビを眺める。
何でもないはずなのに、異様な緊張感があった。
(……もう帰るべきなんじゃないか)
そう思った瞬間、隣からふいに声が聞こえた。
「ふっか、なんか飲みすぎたな……」
「大丈夫?」
「ちょっと横になる」
そう言って、照が俺の肩にもたれかかった。
ほんの一瞬、心臓が止まりそうになる。
(……近い)
触れてはいけないのに、触れたくなる。
それが、片想いの苦しさだった。
(今だけでいい、少しだけ……)
俺はそっと照の頬に指を滑らせ、唇を合わせる。
照は何も言わずに受け入れてくれた。
自分からやめたくせになって思いながら、苦笑する。
それでも照に甘えて、もう一度キスをする。
「…っん」
久しぶりにする照とのキスは、脳が蕩けそうだった。