TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

偉猫伝~Shooting Star

一覧ページ

「偉猫伝~Shooting Star」のメインビジュアル

偉猫伝~Shooting Star

27 - 第27話 キャッツオブフォーエバー①

2025年06月05日

シェアするシェアする
報告する


――さて、この前屯所での暮らしだがな、彼等は週一は必ずアカネを連れて遊びに来てくれていた。



約束は守り続けてくれたと言う訳だ。



一日ごとに……来る度に成長していく妹の姿を、オレは感慨深く眺めたものだ。



いずれ自分の足で立ち、自分の言葉を発してオレに接する。



そんな時が来るのが待ち遠しいと思うのは、オレでなくとも当然であろう?



だからオレはどんな理不尽にも耐えれた。



夜はむさ苦しい冥王との床を共にし、へつらうクロを弄る日々。



その全てがやはり、掛け替えのない時間だったと――今にして思う。



『だぁだあぁ』



――ある日、屯所内での昼下がりの事。



女神がアカネを連れて、屯所へと遊びに来た時の事だ。



すっかりと『ハイハイ』まで出来るようになったアカネは、優雅にくつろぐオレの尻尾を、その愛狂しく無邪気な動作で掴んできた。



猫は本来、己の尻尾を握られる事に嫌悪感を示す。



貴公等にも経験が有ろう? 何気無く触ったつもりで、逆襲の爪痕を貰った事が。



オレも例に洩れず、その寛容は海より深いとはいえ、『成人』に尻尾を握られた日には即座に“閃爪一閃”だ。



特に学習能力皆無としか思えない、実際そうだがはずれ者の間抜けな悲鳴を聞く度に、遺憾ながらも愉快が抑えきれなかったな。



――つまり“アレ”だ。オレはアカネになすがまま、されるがまま。



尻尾のみならず、両手で抱え込まれるように弄られる事も。



こんな無礼千万、はずれ者はおろか親戚の子供等でさえ、決して許されざる重罪。



但し、女神のみは例外に位置する。



オレを自由にして良いのは彼女だけだ。



その法定は絶対であり、例外は無い。



だが此度、新たなる法定としてアカネがそのリストに加えられたのだ。



つまりオレはアカネに対して、絶対不可侵の不文律。如何なる時も彼女を崇め、尽くし続ける事を余儀無くされた。



だが不満は無い。これはオレ自身が自ら受け入れた道。



『あぅぁ~』



可愛いのだ、愛狂うしいのだ。



擦り寄って来る、こんなにも無邪気な妹の存在を、誰が無下に出来ようか。



そんなの猫本来の姿ではない。



……変わったと思うかねオレを?



気高き猫としてのオレの姿と、懐柔されたようにも見える今の姿。



貴公等はどれが本当のオレと思うかね?














そう――真実は常に二つだ。



どちらも紛うこと無き、本当の姿と云えよう。



猫も人も誰しも、善と悪の相反するその心を持って生まれてくる。



嬉しければ笑うし、憎ければ怒る。



それが生体というものなのだ。そしてそれは決して恥ずべき事ではない。



それを決して忘れてはならぬ――。



『ほし~ほし~』



どれ程の時が流れたか、遂にアカネはオレの名前を呼ぶようになった。



とは言っても、まだまだ単語の反芻の域は出ないがな。



“ほし”



女神が命名したオレの生きた証。



時を隔て新たな世代に呼ばれた時の、この時のオレの心中は如何程のものだったか。



貴公等には理解しようとも、理解出来まいて。



――変わらぬ日々。此所に舞い戻ってから久しい。



“それそろ頃合いか?”



それは彼等も同様、オレを新屯所へと戻す計画を冥王と吟味していたのを、この耳で確と聞いた。



遂にこの時がっ――と、待ちに待った瞬間に鼓動が高鳴るのも当然。



理不尽な日々とも『さらばガイアよ』だからな。



まあ決して悪い場所ではないが、やはり彼女等と常に居たいのは猫の性というもの。



決行は今より七日後の正午。この期間は『七つの大罪』と言う訳だ。



つまりオレの真価が試される七日間。



暴食、色欲、強欲、憂鬱、憤怒、怠惰、虚飾、傲慢――全て纏めてこの地で浄化しておこう。



生まれ変わったオレ様ほし様の、新たなる猫生が幕を開ける。



――と、そう思う程にオレは浮かれていたのだった。



それは“前も”見えぬ程にな……。



――あの日は『暴食』、オレの中のベルゼブブを余裕で浄化した、その夕暮れ時の事だった。



銀のスプーンを腹十二分に食して満足満腹、これで次から腹八分で抑える為のな。



最近は必要以上に摂取気味の傾向があり、体重は著しく増加の一方を辿っていたので、これを機会に“一大決心”――と言う訳だ。



重いとアカネがオレを『抱っこ』する時キツいだろうからな。これも法定に沿ったオレらしい配慮と云えよう。



そして食後の運動は欠かせない。



眼前に広がる全ての領域は、オレが統治する“アブソリュート・フィールド”――即ち絶対領域。



全ての大地はオレの脚を着ける為に在る。



――フフフ……。久々の“ほし節”満開だな。



最近は妹の事もあって大きな事は言えなんだが、これが本来の在るべき姿と云えよう。



貴公等もその方が『らしい』と称賛したいであろう?



心配せずともよい。



どれだけ時が移り変わろうとも、オレはオレだ。それは決して変わる事は無い。



――話が逐一脱線するのは慣れて貰おう、というより慣れろ。



太古から『習うより慣れろ』と云うであろう?



それに貴公等も“ほし節”を聞くのを毎回楽しみにしておると、勝手ながら解釈しよう。てか寧ろ当然――。



……そうだ。笑顔を絶やすでない。この先何があってもな……。



これは貴公等の“人生”の為を思って言っておるのだ。



たまにはネガティブになる事もあろう。壁にぶつかり悩む事もあろう。



だが前向きに生きておれば、おのずと道が開かれるというもの。後ろ向きだと何の解決も、成長もなくそのまま試合終了だ。何処かのお偉いさんが言ってたが、オレを以て真実と云えよう。



『何時か本気を出す』



『本当の自分は何時かやってくる』



『何時か認められる』



そんなの戯れ言だ。待ってても来よう筈がない。



何時か本当の自分がやってくると、なあなあ無為で無駄に時間を浪費し、“その時”になって初めて気付くのだ。



自分の人生は何だったんだ――とな。



その頃にはもう既に時遅し。後悔のまま全てに幕を下ろす。



オレはな……貴公等にはそうなって欲しくないのだ。



だから足掻け。今を精一杯生きろ。




……また熱くなってしまったな。閉店の間際というのは、本当に話が尽きぬというもの。



貴公等もそろそろ疲れたろう? オレも疲れた。





――さて、そろそろ夜明けだ。残された時間も、そう多くはない……。



偉猫伝~Shooting Star

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚