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死は美しい。いや、正確に言うと、私は、私だけが、死を美しくできる。人は生きている限り老いていく。若いうちはまだよい。それは成長と呼べるから。しかし、それさえも、幼く純真だった心を忘れ、醜く、賤しくなっていく過程でもある。
私は時を止められる。人は私をネクロマンサー、死霊術師と呼ぶ。だが、私は芸術家なのだ。私は、死を永遠にするものだ。私が作るものは死者の美しさであり、永遠の美しさだ。
見よ、この少女の体を。子どもとも、大人の女性とも違う、この体つき。少女には、数年で失われてしまう、少女だけの美しさがある。そう、少女にしかない美があるのだ。その美しさが今ここに在る。今しか無い、この瞬間にしかない美しさが、ここにあるのだ。
例えば瞳。人間の瞳は、年をとると濁っていく。濁りなき白目は、少年少女だけがもつ特権だ。それからこの体つき。成熟していく前の、少年のような細い手足。大人になったら失われていくもの。私は、それらを永遠のものに出来るのだ。ああ……なんて素晴らしいことだろう! 私はもっと、たくさんの作品を作ろう。
「こんな夜に、学校で何をしているんだ?」
「――っ!?」
こいつは、私の芸術作品のひとつ、吉田拓海を破壊した男! 私のアトリエ(学校)に土足で侵入してきたがゆえ、殺してただのゾンビにでもしようと思ったが、返り討ちにされた。おそらくは私に差し向けられた刺客。
「なあ、昼間の話なんだが」
男は何気ない雑談をしているようで、一切すきがない。獲物を見る鷹のような眼で、こちらを見ている。うかつな動きは出来ない。
「お前は、避難訓練の騒ぎのとき、部室にいた、といったよな? ……ところで、これが何だか分かるか?」
男はポケットからゆっくりと何かを取り出し、私に見えるよう、高く掲げた。それは……鍵だった。
「部室には鍵がかかっている。機材なんかもあるからな。マネージャーでも何でもない、お前がどうやって部室に入れたんだ、佐々木絵美?」
「…………、私は、拓海から部室のカギを預かっていたんです」
「それはない!」
と、突然もうひとつの声がした。
先生はついて来るなと言ったけれど、どうしても、僕は確かめたかった。拓海を殺し、生きる屍に変えた、黒魔術師の正体を。物陰に隠れて様子を見ていたけれど、佐々木絵美がついた嘘に、思わず反応してしまった。
「それはない!」
二人がこちらを見る。先生はやれやれという感じで、そして佐々木絵美はぞっとするような眼で。
「拓海がもっていた鍵は、僕が預かっているから」
「…………」
「君は嘘をついている。あのとき君は部室いたから睡眠ガスに巻き込まれなかったんじゃない、きかなかったんだ。そうだろ? 佐々木!」
「いや」
先生が僕の後に続いてしゃべりだした。
「そいつは、佐々木絵美ではない。……少なくとも中身はな。……俺も知らない、高度な死霊術。その研究の完成には、膨大な時間を必要としたろう。生きた人間の記憶をそのまま残す、ゾンビとは別次元の生きた屍(リビングデッド)。だが、残せる記憶は他人のものだけではなかった」(続く)