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「いえ…食事なんて、私は……」
首を横に振って断ろうとすると、
「私からの誘いを断るということは、あなたが職を失うということにもつながりますが……それでも、」
政宗医師が、メガネの奥からじっと私を見据えて、わざとらしく言葉を切ると、
「……いいんですか?」
フレームの端を細く長い指先でつと摘まみ上げて、思わせぶりに問いかけてきた。
「そんな……まるで、脅すような言い方って……」
「……脅す?」と、政宗医師が軽く首を傾げて見せる。
「……面白いですね、まったく。脅すなどと、人聞きが悪いことを言うのはやめてもらえますか」
そこまで言って、「ふっ…くくっ」と、喉の奥で短く笑うと、
「脅しているのではなくて、これは……選択肢です。君が、私の誘いに乗れば職務は継続……乗らなければ、ここで失職もあり得るという、ただの選択肢……」
薄い笑みを口元にたたえ、にべもなく冷ややかに告げた。
選択肢だとは言いながら、拒めば失職を言い渡されるのでは、初めから選択の余地などあろうはずもなく、
「……。……わかりました、行きます……」
と、私には、屈伏したように答えるしかなかった。
「……いいでしょう。それでは、先にここへ行って待っていてください」
消沈する私に、政宗医師はペンを走らせたメモをピッと破いて、手渡した。
そのメモには、ハイクラスなホテルの最上階にあるラウンジの名前と、その場所とが書かれていた。
几帳面に並ぶ、まるで書き方見本のようなその文字をしばらく眺めていると、複雑で得も言われぬ思いが込み上げて、私は手の中の紙片をぎゅっと固く握りつぶした──。