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ー選ぶということー 寧々視点
正直、怖かった。
鬼がすぐそばに立っているのに、
足が震えて逃げらない自分が。
寧々(心:逃げたい…!怖い…!)
そう思うのに、体が動かなかった。
だって、この子は____
私より、ずっとずっと怖がってるから。
鬼は床に手をついて泣いていた。
声を出さず、ただ肩を揺らして。
花子くんはその前に立っている
いつもみたいに軽い笑顔じゃない。
でも、突き放す目でもない。
(……花子くん)
炭治郎くんは、少し離れた場所で刀を握っている。
抜いていない。
でも、いつでも抜ける。
その距離が、苦しい。
炭治郎「……鬼は、人を殺します」
低い声だった。
自分に言い聞かせているみたいな声。
炭治郎「それでも、守ると言うなら……
俺は、迷います」
迷う、って言葉に、胸がきゅっとなった。
(迷ってくれてる)
それだけで、少しだけ救われた気がした。
善逸「ね、ねえ……
俺さ、鬼のこと詳しくないけどさ……」
善逸くんが、恐る恐る前に出る。
善逸「この子……
今すぐ暴れる感じ、しないよね?」
誰も否定しなかった。
沈黙が、答えみたいだった。
私は、鬼の前にしゃがみ込む。
寧々「……ねえ」
鬼の肩が、びくっと跳ねる。
寧々「名前、思い出せなくてもいい。
でも……誰かを、守りたかった?」
鬼の喉が、小さく鳴った。
ゆっくり、首が縦に動く。
(……やっぱり)
胸の奥が、じんわり痛くなる。
この子は、
何かを失って、
それでも、ここに残った。
寧々「私ね……怖いの、すごく」
声が震える。
寧々「でも、怖いからって……
最初から“消す”のは、違う気がする」
炭治郎くんが、私を見る。
真剣な目。
炭治郎「……君は」
寧々「八尋寧々です」
炭治郎「……八尋さんは、もしこの鬼が、また人を傷つけたら…どうするつもりですか?」
逃げられない質問。
私は、花子くんを見る。
花子くんは、何も言わない。
代わりに——
任せるって顔をしていた。
(……選べってことだ)
私は、息を吸った。
寧々「そのときは……ちゃんと、止めてください」
はっきり言った。
寧々「私も、花子くんも…このままじゃ、守りきれない」
炭治郎くんの眉が、わずかに動く。
寧々「だから……今は、時間をください」
しばらく、誰も喋らなかった。
やがて、炭治郎くんが小さく息を吐く。
炭治郎「……分かりました」
刀から、手を離す。
炭治郎「今夜は、斬りません」
善逸が、目を見開く。
善逸「え!?いいの!? それでいいの!?」
炭治郎「……責任は、俺が取る」
その言葉に、胸がいっぱいになった。
花子くんが、少しだけ笑う。
花子くん「ありがと、炭治郎」
その声は、軽いのに、どこか真剣で。
鬼が、ゆっくり顔を上げる。
涙でぐちゃぐちゃの顔で、
それでも——
ほんの少し、安心したみたいだった。
(……選んだんだ)
誰かを消すことじゃなくて。
誰かを信じるほうを。
この夜は、まだ終わらない。
でも確かに、
“違う未来”へ一歩踏み出した夜だった。