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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「勝負の必要、何処にあるのかなってくらいのラブラブぶりですね~」


茂みの陰から雪丸と銀次が二人を覗いていた。


だが、

「いやっ」

と銀次は拳を作る。


「誰が勝者になってもお嬢は若を選ぶかもしれないがっ。

それでも私はお嬢を好きだった気持ちを昇華させるためにも。

勝負に勝って、爪痕を残すっ」


「さすがですっ、銀次さんっ」

と雪丸が夏菜たちに聞こえないよう、小さく手を叩いた。


「でも、僕も頑張りますよっ。

棚ぼたで、夏菜さんと結婚。


楽しい結婚生活が待ってそうですよね」


「……実はお前が一番、譲りそうにないな」

と銀次は呟く。


そんなことはまずないが、まかり間違って自分が勝っても、夏菜との結婚は有生に譲るつもりだった。


夏菜に無理強いはしたくないからだ。


だが、雪丸は、

「やったーっ」

と無邪気に喜び、


「夏菜さんっ。

二人で幸せになりましょうねっ」

とか夏菜の手を取り、言い出しそうだ。


そして、人のいい夏菜は喜ぶ雪丸に水を差せないに違いない。


ある意味、最強の男……と思ったとき、夏菜たちが立ち上がり、二人仲良く奥に引っ込んだ。


でもきっと、有生は同じ部屋で眠っても、勝負が終わるまでは夏菜には手を出さないだろうと思えた。


「あー、いい男だなー。

男から見ても」

と思わず呟くと、雪丸が言ってくる。


「なに言ってるんですか。

銀次さんもいい男ですよ」


そうか? とお世辞とわかっていてもちょっと嬉しく思ったが。


「最初見たときから思ってたんですよ。

銀次さんって、俳優さんみたいだなって」


「えっ?」


「今にもVシネマとかに出てきそうですよっ」

と雪丸は笑っているが。


それは褒めているのだろうかな……。


あまり一般受けしそうにないが、と銀次は思う。


「よしっ。

今日は早く寝ましょう。


明日から体力作りしなくちゃですもんねっ。

そして、加藤さんを惑わして、罠のを訊くんですっ」


「やっぱお前、本気で勝つ気だろ……」


楽しげな雪丸に向かい、銀次はそう呟いた。




日曜日。

レース参加者も妨害する者も、みんな思い思いの服装で屋敷の前庭に集まっていた。


自らがもっとも動ける格好で来ているようだった。


道着、ジャージ、スーツ、スーツ……


スーツ!?

と夏菜は二度見する。


有生と指月はいつものスーツ姿だった。


「何故、スーツなんですか」

と夏菜が二人に問うと、指月は、


「いや、別に。

普段の格好で問題ないです。


罠を突破し、敵を蹴散らすことなど造作もないことですから」

と言ってくるが。


ほんとうにこの人、私にプロポーズしたのだろうかと疑問に思うほどの切って捨てるような口調だった。


一方、有生は、

「いや、このゲームの目的は、お前を手に入れることだろうが。

俺が一番格好よく見える服装でないと意味がない気がしてな。


俺がお前にもっとも誇れるのは、働いているときの自分の姿だ。


多少強引な手段を使っても、人から命を狙われても、俺は自分が正しいと思うことを貫いてきた。


お前に迷惑をかけることもあるかもしれないが。

俺はこれから先もその信念を曲げることなく生きていく。


俺の生き様のすべてを将来の伴侶となるだろうお前に見せたいと思ったから、仕事着を着てきた」

と言う。


「さすが社長。

その心意気や良しって感じですね」

と腕組みした雪丸が深く頷き、言ってくる。


いや、それ、何処から目線ですか……?

と苦笑いしながらも、夏菜はマジマジと雪丸を見る。


雪丸が何故か部屋着らしいうさぎの着ぐるみのようなものを着ていたからだ。


「お前、やる気あるのか……。

いや、なくていいんだが」

と珍しくジャージ姿の銀次に言われている。


なんかものすごい紫色のジャージだ……とそちらにも目を奪われていると、雪丸は、

「いやいや、ありますよっ」

と笑って言ってきた。


「いやあ、さすが本番になると緊張してきたので。

うっかり、本当に夏菜さんを好きで手に入れたいんじゃないかと思ってしまうほど。


それで緊張をほぐすのに普段寝るときの格好で来てみました」


だから結婚する気ないのに参加しないでくださいってばと夏菜は苦笑いしていたが。


まあ、雪丸が勝ったら、結婚話の代わりになにか別の賞品を用意したらそれで収まりそうだな、とは思っていた。


だが、横から、銀次がぼそりと、

「いや、こう見えて、奴はなかなかの策士で本気ですよ、お嬢。

お嬢に本気なんじゃなくて、勝負に買って、わーいってなりたいことに。


そして、ラッキーチャンスは逃さない男なんで、ほんとうにお嬢と結婚しますよ、きっと」

とロクでもないことを言ってくる。


わーいで結婚させられるのもな~と思っていると、雪丸は、

「それに、もしかしたら、うさぎと間違えられて見逃してもらえるかもしれないしー」

ととんでもなく見通しの甘いことを言ってきた。


「見間違えるか」

「デカすぎる……」


「って言うか、この山で野うさぎ見たことないです」

と有生、指月、夏菜が呟いた。


それにしても、更にわらわらとこんなに人いたっけ? というくらい男たちが集まってくる。


どうやら、もう道場を出て、警護の仕事をしているものたちも聞きつけて集まってきたようだ。


……みんなお祭り好きだからな。


っていうか、みんな本当に思い思いの格好しているな。


アロハシャツにサングラスとか、最早、なんの行事かわからないし。


この寒いのに、タンクトップに短パンの人もいる。


いや、タンクトップに短パンに、タスキだ。


「何故、タスキですか……」

と夏菜が訊くと、


「いやあ、過去を思い出してやる気になるので」

と笑って言ってくる。


フェンシングの人もいる。


「過去を思い出してやる気になるので」


誰だかわからなくて怖いんですけど……。


そして、忍者もいる。


「過去を思い出してやる気になるので」


どんな過去っ!?

と思ったとき、ガタイのいい男たちの間に、メモ帳とペンを手にしたモデルのような優男やさおとこが混ざっているのに気がついた。


「……お兄様、何処から湧いてきましたか」


っていうか、此処にいていいんですか、と訊くと、

「いや、今日決まるお前の花婿がこの道場も祟りも継いでくれるんだろ?

じゃあもう逃げ歩かなくていいかなと思って。


っていうか、ちょっとネタにつまってるので取材に……」

ははは、と笑って言ってくる。


その横に可愛らしい赤いメガネをかけた女性がいた。


シャツにパンツに軽めのコート。


髪もひっつめていて、兄よりはこちらの方が戦えそうだと思ってしまう。


「編集の小松菜さんだ」

「小松菜々子です」


ああ、便りのないのは悪い便りの編集さん……。


あったのか、便り。


よかったですね、お兄様、と思っていると、菜々子は可愛い顔に不似合いな感じに、くいっ、と教育ママ風にメガネを持ち上げ、


「いえ、令和のロミオとジュリエットの取材ができるかもと言うので、ちょっと興味があって来てみました。


……素敵ですね、そのドレス」

とじっと夏菜を見つめて言ってくる。


誰が令和のロミオとジュリエットなんだ……。


もともとはそうかもしれないが。


今や、おじいさまに結婚を推し進められているんだが、と思いながらも、夏菜はちょっと照れる。


「今日は夏菜様が、こう言っては失礼ですが、賞品なので、やはり美しくないと」

と言って、加藤がミニの白いウエディングドレス風のドレスを用意してくれたのだ。


だが、寒いので。

白いふわふわのボレロと肌色だが極厚のタイツを着用したうえに、ホッカイロを大量に貼っている。


ちょっぴり着だるまになっているので、可愛く見えるかどうかは自信がなく、奈々子に褒めてもらって嬉しかった。


……この人たちは、求婚者のはずなのに、全然褒めてくれませんしね、と有生と指月を見たが、ふたりともさりげない風を装って、視線をそらしてしまう。


なにかそういう息は合ってますね、と思ったとき、頼久が加藤を従え現れた。


「みんな、よく集まってくれた。

今回の勝者に、夏菜とこの道場をくれてやろう。


……レースの立候補者は四人だが。


妨害する側の人間でも。

敵も味方も全員倒して、夏菜の許にたどり着けたら、夏菜と道場をくれてやろう」


おおっ、と男たちが盛り上がる。


いや、歴戦の勇者みたいなガタイのいいOBの方々はほとんど既婚者なので、別に私はいらないでしょうけどね、と苦笑いして夏菜は見ていた。


有生もなにか違うことが引っかかっているようで、頼久を見ている。


その意図がわかっているらしい頼久は、有生を見てもう一度言った。


「夏菜と道場をくれてやろう」

「道場はいりません」


「くれてやろう」

「いりません」


戦いが始まる前に、別のところで争いが勃発するところだった。


が、加藤が割って入り、

「では、皆様、スタートの位置に並んでください」

と話を終わらせる。


「山を越え、街にたどり着いたら、此処まで戻ってきてください。

……ゴールは夏菜様です」

と加藤が笑う。


おおーっという地鳴りのような歓声のあと、頼久が、

「では皆の者、出発するがいい!」

と宣言した。


一斉に庭から人が消える。


あとに残った兄、耕史郎こうしろうが、

「いやあ、誰が俺の弟になるのか楽しみだな~」

と笑い、菜々子が溜息をつきながら、はいはい、と言っていた。




今夜、あなたに復讐します

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