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#一途
shima7a
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第59話 「背中を追う者たち」
2022年4月。
センバツ優勝から数週間。
柳城高校野球部には多くの新入部員が入ってきた。
例年の倍近い人数だった。
部室は狭く感じるほどだった。
一年生たちは緊張している。
全国王者の野球部。
その看板は想像以上に重かった。
練習初日。
一年生たちはグラウンド整備から始まった。
ボール拾い。
道具運び。
声出し。
華やかなものは何もない。
「思ったより大変やな」
誰かが小声で言う。
周りも頷く。
すると。
近くでトンボを引いていた塁が聞こえたらしい。
「俺らも去年そう思った」
一年生たちが驚く。
甲子園優勝投手が普通にトンボを引いていた。
「野球は地味なことの積み重ねやけん」
そう言って再び整備を始める。
一年生たちは顔を見合わせた。
テレビで見たスター選手とは違った。
数日後。
守備練習。
史陽が一年生へノックを打っていた。
厳しい。
とにかく厳しい。
「足止まっとる!」
「捕って終わりじゃない!」
一年生たちは必死だった。
だが練習後。
史陽はグラブの手入れをしながら一年生へ言う。
「最初から出来るやつなんかおらん」
「失敗はしていい」
「同じ失敗を繰り返すな」
その言葉に一年生たちは救われた。
夕方。
おっちゃんの店。
新入生数人が来ていた。
野球部の先輩に連れて来られたのだ。
店内には甲子園優勝の記事。
優勝旗の写真。
新聞の切り抜き。
一年生たちは目を輝かせる。
おっちゃんが笑う。
「憧れるのはいい」
少し間を置く。
「でもな」
「塁や史陽も最初はただの一年坊主やった」
一年生たちは驚く。
当然の話だった。
だが忘れがちだった。
今の姿しか見ていないからだ。
帰り道。
塁と史陽は並んで歩いていた。
桜はほとんど散っている。
「一年生、多かったな」
塁が言う。
「優勝したけんな」
史陽が答える。
しばらく沈黙。
そして塁が笑った。
「去年の今頃は俺たちも緊張しとったな」
史陽も珍しく笑う。
「お前は今も変わらん」
「うるさい」
二人の笑い声が春の夜に消えていく。
その頃。
福間監督は職員室で資料を見ていた。
夏の組み合わせ予想。
全国の強豪校のデータ。
そして柳城の選手名簿。
センバツ優勝。
だが監督の視線はもう夏へ向いていた。
春夏連覇。
それは簡単な言葉ではない。
全国の高校が柳城を倒しに来る。
王者として迎える初めての夏。
その戦いが、静かに始まろうとしていた。
第59話 終
コメント
1件
うわあ、この59話、じんわり沁みました。新入部員たちが「テレビで見たスター選手」と現実の塁たちのギャップに驚く場面、すごくリアルで好きです。王者になっても地味な積み重ねを続ける先輩たちの姿が、おっちゃんの「最初はただの一年坊主」という言葉でさらに深みを増して。塁と史陽が夜道で笑い合うところ、ほっこりしました。福間監督の視線がもう夏に向いてるラスト、続きが楽しみです。