テラーノベル
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ドン、と胸に響く音がして、彼の横顔が鮮やかな真紅に染まった。
その横顔をずっと、ずっと、ずうっと、見ていたかった________。
蝉がよく鳴く夏。
大学の夏休みは比較的暇で。
俺は冷房がよく効いた自室のベットの上でただ寝転がっていた。
去年のこの時期は親友と大学受験の勉強をしたり、遊んだり、暇なんてなかったはずだ。
でも、今。アイツはここにいない。
時計を見るともう13時。
朝もお昼も食べてない…となるとさすがに腹が減ってきたので仕方なくリビングへ降りる。
机の上に一枚のチラシが置いてあった。
〈八月〇日。××野原で花火大会。開始時刻17時。終了時刻20時を予定。花火は19時ごろ打ち上げる予定です。〉
「へぇー、今日花火大会あるんだ。」
小さい頃は毎年アイツと行ったなぁ。
人混みのせいでお互いの親と離れ離れになった時。
アイツは怖いと泣きついて俺の浴衣の袖を強い力で握りしめていた。
親と行かなくても大丈夫になった年齢でも、アイツの迷子っぷりは変わらなくて。
離れたら嫌だろを理由に手を繋いだ。
毎年毎年アイツと行ってたけど、流石に今年は_____。
「無理、だよな。」
母親から、
“なつくん、大学生活忙しいんだって。アンタも頑張りなさい”
って言われたことを思い出す。
きっともう、あの場所で新しい仲間を見つけて。
俺なんかよりずっと、ずっといい奴と仲良くなって。
俺なんか、忘れて。
あの日、行かないでってダサくても泣きつけば良かった。
あの大学になんて落ちればいい。
同じ大学でもきっと、もっと、楽しいはずだから________。
そんなのは俺のわがままだってわかってる。だけど、アイツには行かないで欲しかった。
適当にカップ麺を食べて、また自室へ戻った。
そして、スマホを開いて、意味もなくなつの連絡先をタップする。
〈今日暇か?〉という言葉を何度も打っては消す。
送信ボタンなんて、押せない。
夢を叶えたいがために行ったアイツのこと、“親友”としては、応援してやりたいんだ。
SNSを開けば赤の他人の幸せそうな笑顔。写真フォルダを開けば過去の楽しい思い出。
見るのが辛くなって、気づけばスマホの電源を切っていた。
「ん…っ、」
何時間寝ていただろうか。
気づけば17時をまわっていた。
ベットの上に座り伸びをする。変な時間に寝ちまったな…。
その時、『ピンポーン』とインターホンがなった。なんだろう。
宅配便かな?親が頼んでた?
いろんな可能性を考えながら、玄関まで向かう。
「…はーい、」
扉を開ける。そこにいたのは、
「よ、いるま。久しぶり。」
夏の太陽なんかに負けない、凄くかわいくて、輝いてる笑顔を浮かべていた____幼馴染だった。
「お前…なんで何も言わずにここに…」
「えー、来ちゃ悪い?いるまが連絡しても返信ないのが悪いじゃん。」
「は?連絡?」
「うん。2時ぐらいに、行くよーって。」
そーいえば、電源切ってたんだっけ?
「ごめん、寝ててみてなかった。」
25
ねむ。☆彡☁️🌙
「んま、そんなことだろうと思ったよ。」
お見通しって顔でなつは言う。
久しぶりに見たなつは、特になんの変わりもなかった。
よかった。まだ俺の知ってるなつだ。
「で、なんで来たの?」
なるべく普通に。親友に。抱きしめたい衝動は抑えて。
「んーっとね、毎年恒例の花火大会はお前と行きたくて。」
「え…」
「大学でお友達も沢山出来たけど、やっぱり花火大会は親友とーって言うか?」
つまり、大学でお友達は出来たけど、親友はできていない。
俺はまだなつの“特別”なんだ。
「で、俺と行ってくれる?」
「…もちろん」
なつを家に上らせてから約15分。
毎年浴衣着て行ってたよな、という俺の一言が原因で浴衣をお互い着ることになった。
なつは浴衣が実家にも無いそうなので俺のお古を貸してあげた。
ひと足先に着替え終わったなつが今、リビングにいる。
「お待たせ、」
意を決してリビングに入る。ソファーに座っているなつの姿が見える。
「ん、おせーよ、笑」
「ああ…ごめん」
浴衣を着ることでだいぶ大人びて見えるなつ。
変わってない、って思ってたけど…違うんだな。
「じゃあ、行こうか」
お互い荷物を持って家を出る。
何千回も、何百時間も、一緒に通った道。だけど、この日は俺にとって特別な日だった。
それがなつも同じなら、嬉しい。
目的地に近づくにつれ、人が多くなってきた。
小さい町の一代イベント。それに加えてお盆休みだし帰省してる人もいる。
いつもより人通りが多い。
このままじゃ、昔みたいになつ迷子になるかも。
だけど、たった5文字の“手を繋ぐ?”が言えない。
「あのさ、いるま」
「ん?どうした?」
「迷子になるかも知れないし…手、繋いでもいい?」
なつの口から出たその言葉が、俺の鼓動を完全に狂わせた。
……ずるいだろ、そんなの。
「……しょーがねぇな。ほら」
なるべく不機嫌そうに、ぶっきらぼうに右手を差し出す。
「ありがと」と嬉しそうに笑って、なつの手が俺の手のひらに重なった。
ギュッと握り返したい衝動を必死に抑えて、はぐれないための最低限の力で、だけど絶対に離さないようにその手を包み込んだ。
「うわぁ、凄い人……! 匂いも懐かしい!」
坂を下りきると、お祭り会場の入り口だった。 色とりどりの提灯の明かりが、浴衣を着た人波を明るく照らしている。
ソースや砂糖の焦げる甘い匂い、風鈴の音、容赦なく押し寄せる人混みの熱気。
「いるま、あそこの焼きそば食べたい! あ、かき氷も!」
人混みに圧倒されるかと思いきや、なつは目をキラキラ輝かせて屋台の並びを指差した。
都会で大人ぶっていたアイツが、一気に子供の頃の顔に戻る。
その無邪気な笑顔が、屋台の赤い光に揺れて、ひどく綺麗に、艶っぽく見えた。 胸の奥がギュッと締め付けられる。
お前は、そんな顔を都会でも誰かに見せているんだろうか。
俺以外の奴にも、そうやって笑いかけているんだろうか。
嫌だ。見せたくない。
このまま、この手を引っ張って、誰もいないところに________。
「いるま? どうしたの?」
立ち止まった俺の顔を、なつが不思議そうに覗き込んでくる。
「別に…大丈夫。」
「そう?じゃあさ、焼きそば食べに行こ〜!」
「焼きそば二つ」
「二つね〜、毎度〜っ!」
焼きそばを受け取ってなつが待っていてくれるところまで向かう。
人気の少ない少し離れた神社の階段に腰掛ける。
「ほい、焼きそば」
「あ、ありがとっ!」
なつは焼きそばを受け取って、“いただきまーす”と言い、食べ始めた。
「ん〜っ!変わらず美味しい!」
「だな。」
なつは余程口にあったのかバクバクと焼きそばを頬張る。
美味しそうに食べる姿がかわいくて、誰にも見られてないかつい周りを見渡してしまった。
「…なぁ、なつ。大学どうなん?いい感じ?」
「どうって、別に普通。友達はできたし、講義も楽しい。だけどさ、」
なつは一度口を閉じる。言うのを躊躇うような間を開けてからまた口を開いた。
「高校生の頃が一番楽しかった。」
なつはそう言い、微笑む。
ちょっと恥ずかしくなったのか焼きそばを急いで頬張っていた。
「俺もだよ。」
「え、」
「俺もお前といた時の方が楽しかった。」
気楽で入れるし、なんでも話せるし。
居た方が、居てくれた方が何倍も何千倍も楽しいのに。
「うん、ごめんね。自分から離れたくせに」
「いいよ、夢なの知ってるし。」
なるべく物分かりのいい“親友”の顔を作って、そう言った。
なつの夢は応援したい。
それは嘘じゃない。 だけど、
「……そっか。ありがと、いるま」
なつは少し安心したように、でも、どこか寂しそうに微笑んだ。
その顔を見て、胸の奥がズキリと痛む。
違う。俺が言いたいのは、こんな綺麗事じゃない。
行くな、俺のそばにいろ、都会の大学になんて、行くな。
そう言えたら、どれだけ楽だっただろう。その時だった。
『——————ドンッ!!!』
お腹の底に響くような大きな音がして、思わず身体が強張る。 あ、始まった。
「うわぁ……! 上がった!」
なつが嬉しそうに声を上げて、夜空を見上げる。
神社から見える夜空に、一発目の大輪の花火が、鮮やかに咲き誇っていた。
パッと視界が開けて、なつの横顔が真紅に染まる。
その横顔をずっと、ずっと、ずうっと、見ていたかった________。
「あぁ、やっぱり綺麗だ」
都会に行って、少し大人っぽくなったと思ってた。
だけど、火花に照らされて目を輝かせているなつは、あの頃と何も変わっていなくて。
それがたまらなく愛おしくて、同時に、泣きたくなるほど切ない。
「ん?なんか言った?」
「別に、綺麗だなって」
「ん?嗚呼、花火綺麗だよな。」
____綺麗なのは花火だけじゃないけど。
「なつ、また来てくれる?」
「え、あー、ま、もちろん?」
「そっか、」
「なぁに、寂しいの?」
「それはお前もだろ」
「……バレた?」
なつが困ったように笑う。
「大学、楽しいんじゃなかったのかよ」
「楽しいよ。友達はできたし」
そう言ってから、なつは少しだけ空を見上げた。
夜空には大輪の花火が咲いている。
「でもさ」
ぽつりと落とされた声。なつの表情が少し暗くなる。
「向こう行ってから分かったんだ」
「何が?」
「俺、思ったよりいるまに会いたかったみたい」
心臓が止まりそうになった。
なつは照れ隠しみたいに笑う。
「毎日一緒にいたからかな」
「……」
「なんか、変な感じだった」
ドン、と花火が上がる。
赤い光がなつの横顔を照らした。
「今日会えて、安心した」
その一言が、胸の奥に真っ直ぐ落ちてくる。俺だけじゃなかった。
離れるのが寂しかったのも。
会いたかったのも。
ちゃんと、俺だけじゃなかったんだ。
「なつ」
「ん?」
「秋休み、俺がお前のとこ行くわ」
「え……?」
なつが目を丸くする。
「お前がこっち来れないなら、俺が行けばいいだけだろ」
「……うん」
「だから大人しく待ってろ」
なつは少しだけ俯いて、
「うん。待ってる」
と小さく答えた。その声が妙に嬉しかった。その瞬間。
『_____ドババババンッ!!!』
夜空を埋め尽くすような花火が、一斉に咲く。
色とりどりの光がなつの顔を照らした。
綺麗だと思った。
花火も、夏の夜も、全部。
だけど、今俺の目の前で笑っているなつが、一番綺麗だった。
「なつ」
「なぁに?」
振り返ったなつの瞳が、まっすぐ俺を見る。逃げる様子はない。
その目が、どうしようもなく優しい。
俺はそっと左手でなつの頬に触れた。
「……いるま?」
驚いた声。だけど、離れない。
花火の光が揺れる。俺は少しだけ身を寄せた。
なつの睫毛が震える。
そしてゆっくりと、その瞳が閉じられた。それが答えだった。
俺はそっと唇を重ねた。
“あの花火が終わるまで。”
____もう少し、このままでもいいかな?
コメント
1件
うわっ、これ…めっちゃ良かった…! 冒頭の「ずっと見ていたかった」が最後に回収されるの、たまらんね。花火の夜に幼馴染が再会して、ちょっとずつ距離が縮まっていく感じが甘酸っぱくて、胸がギュってなった。なつが「会いたかった」って素直に言えるようになったの、いるまの気持ちが通じた証拠だよね。この2人のこの先、めっちゃ気になる…! 続き待ってる🔥