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#幽霊
凛道桜嵐 新
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#日常
がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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翌朝。和泉の検査結果には何の異常もなくて、今日の午後に退院になった。和泉は、受付とか支払いはできるけど肋骨が折れてるから荷物を持つのが難しいってLINEしてきたので、迎えに行った。
ワシは病室まで行って、和泉の荷物をまとめてやった。
「ごめんね、コルセットしてるんだけど、かがんだり体ひねったりが痛くて……」
『いーから。骨折れてる奴に無理させないよ』
「受付、時間かかるかもだから、荷物持って座って待ってて」
『うん』
なんか、高額療養費制度って言って、高い医療費を減らす制度があるんだけど、和泉はマイナンバーカードの保険証をちゃんと使ったことがなくて、やり方がよくわかんないんだって。
荷物持って大人しく待ってたら、和泉は意外と早く受付から戻ってきた。
「すんなりできたよー。書類書いてる時間のほうが長かったな」
『安く済んだか?』
「んー、まあ、払える程度までは減った」
『ワシが払ってやってもよかったんだぞ、お前に何かあった時頼らせてやるって言っただろ』
「今回は大丈夫、仕事も傷病休暇出たし」
そんなこんなを喋りながら、ワシらは病院を出た。タクシーで帰ることにしてたんだけど、全然タクシーが来なくて、ワシらはタクシー待ちのベンチに座った。
台風が過ぎてから、少しだけだけど暑さが和らいできてる。夕方は、外にいられないってほどの暑さじゃない。秋、もうすぐ来るんだな。
ワシは和泉に話しかけた。
『夕飯、下ごしらえしてあるぞ。牛乳いっぱいかぼちゃポタージュと、ピーマンのしらす和えと、鮭の缶詰のちゃんちゃん焼きだ』
「おおー、カルシウムがすごい」
『缶詰だから鮭の中骨も食べられるぞ、そこからもカルシウム取れるぞ』
「あ、それは言われないと気づかなかった」
和泉は笑い、そして、ふと真顔になって「あ、そっか、俺、また千歳のご飯食べられるんだ……」と呟いた。
「そっか、俺、千歳のご飯これからも食べられるんだ……これからも……」
和泉の目が潤み出し、和泉はうつむいて目頭を押さえてしまった。
『え、どうした!?』
「……俺、俺、最後の日、夕飯、これで千歳のご飯食べるの最後だなって思って、それで」
和泉は一生懸命ワシから顔を背けて目を押さえたけど、目を押さえてる手から涙がこぼれだすのが見えた。
「で、でも、また家に戻れて、また千歳のご飯食べれるんだって、また元の暮らしに戻れるんだって、そしたら、俺、俺……」
『な、泣くなよ、大丈夫だから』
ワシは慌て、入院荷物からとりあえずタオルを出して、和泉に渡した。
『ご、ごめん、この一ヶ月辛かったな、ごめんな、なんにも気づいてやれなくて』
タオルで顔を押さえて鼻をすする和泉の背中をそっとなでる。そうだよな、あと一ヶ月で死ぬなんて怖かったよな、辛かったよな、苦しかったよな、なんにも気づいてやれなくてごめんな。
和泉の背中の震えは、止まらなかった。
「お、俺、俺がいなくなっても千歳が大丈夫なようにって、がんばって、できるだけのことはやったからってがんばって諦めようとして、でも本当は千歳ともっとずっと一緒にいたくて、そんで、今までバタバタしてたけど、今、千歳とまだ一緒にいられるんだって、思ったら、ごめん、みっともなくてごめん」
『うん、うん、わかった、泣くな』
和泉が泣き止むように、ずっと背中をなでてたけど、ワシは和泉が泣いてる理由にびっくりした。
こいつ、これからもワシとずっと一緒にいられるから嬉しくて泣いてるのか!? それじゃ、ワシが和泉から離れて暮らすなんて言ったら、どういうことになるんだ!?
……そうだ、前、峰家にうちに来ないかって話持ち出された時、断って、ずっと和泉のところにいるって言ったら、和泉は嬉し泣きした。
……ワシが、迷惑かけっぱなしでも、なんにも気づかないクソボケでも、和泉は、ワシと一緒にいるのが嬉しいのか?
こいつ、バカだな、本当に、バカだな……。
和泉を抱きしめてやりたくなった。いや、本当に抱きしめたら和泉は肋骨が折れてて痛いからしないけど。
代わりに、背中をなでながらこう言ってやった。
『泣くなよ、ずっと一緒にいてやるから』
「うん、うん、ごめん、みっともなくてごめん、止まんない」
『いいから、別にこれくらい』
別にお前がみっともなく泣いても、そんなんで、お前のこと嫌いになったりしないよ。お前が泣いたら、お前のそばに行って、背中をなでてやるよ。
ああ、そっか。ワシは、こいつのこと、大事なんだ。
こいつはワシが大事で、ワシもこいつのこと大事なんだ。そっか……。
『ずっと一緒にいてやる。どこにも行かない。だから、お前もどこにも行くな』
「う、うん、がんばる。ずっと、ずっと千歳といられるように、がんばる……」
和泉は、泣きながら頷いた。
ワシはこいつに迷惑かけっぱなしで、何にも気づかないクソボケだけど。でも、お前がワシと一緒にいたいなら、それなら絶対に、ずっと一緒にいてやるよ。
コメント
1件
うわあ、もう、このエピソード、胸がぎゅっとなりました……。和泉さんが「千歳のご飯食べられるんだ」って気づいて涙が止まらなくなる場面、すごく切なくて温かかったです。「最後の日だと思ってた」って心境を思うと、退院して日常が戻ってきた喜びがひしひし伝わってきました。千歳さんが背中を撫でながら「ずっと一緒にいてやる」って言うところも、お互いがお互いを大事に思ってるのが伝わってきて、じんわりしました。素敵なお話をありがとうございます。次も楽しみにしています!