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「部長、ありがとうございます。さっき泣いていた時は、辛かったんですけど、部長に話を聞いてもらって、楽しいご飯を食べたら気持ちが楽になりました」
「良かったです。芽衣さんの顔が明るくなった気がして。俺も嬉しい。悲しいことや辛いことがあったら、俺に頼ってください」
部長はハハっと笑ってくれている。
男性とちゃんと会話ができている。
自分の中でかなり進歩をした。
「芽衣さんのこと、もっと知りたいんです。教えてくれませんか?」
私のこと……?
「過去にお父さんとの経験を教えてくれましたよね。俺が芽衣さんの髪の毛に触れてしまいそうになった時、フラッシュバックさせてしまったから。芽衣さんが怖いと思うことは控えるので、教えてほしいんです」
そうか。私、部長に酷い態度をとっちゃったんだ。
ふと、窓から景色を見た。
街のネオンが綺麗で、高層ビルはいっぱいだし、ここにはたくさんの人がいて、私以上に辛い経験をした人もいるだろう。
そんなことはわかっているはずなのに、過去のトラウマをどうしても克服することができない。
「私、小さい頃に両親が離婚しているんです。母が再婚して、一緒に暮らした義父が酔うと攻撃的になる人で。<はい>以外の言葉を使うと、叩かれました。母は見て見ぬフリでした。小さい時の影響で、中学校、高校になってもコミュニケーションが下手で。クラスで浮いている存在になりました。高校の時に唯一、話せた男子がいたんですが、結局その子は周りの友達とつるんで、私で遊んでいただけで、最終的にはバカにされて。だから人間不信というか、友達も恋愛も興味がないんです。指示に従わなければ殴られる、心を開いたら裏切られる、人に対してはそんなイメージです。結局、大学生になってからは両親から離れて暮らしていて、ほとんど帰っていません。ええっと、急に顔の近くに手があると、きっと反射的に怖いと感じてしまうんだと思います。長くなってすみません」
こんな話を部長にしてしまったけれど、引かれたかな。事実なんだけど。
チラッと朝霧部長を見ると
「話してくれてありがとうございます。芽衣さんのこと、知ることができて良かった。信用してもらえるように頑張ります」
てっきり、何も言葉が出てこないんだろうと思っていたけれど、部長はポジティブに私の話を捉えてくれる。
ていうか、どうして部長は私のことをこんなにも気に入ってくれたんだろう。
ネコと接している時の顔が好きだとか言ってくれたけれど、結局性格はこんなんなのに。
「朝霧部長は、モテそうですけど、どうして私なんかのことをこんなに気にかけてくれるんですか?」
部長はキョトンと私の質問に驚いている。
「モテる、と言われればモテます。だけど、実際は俺じゃなくて、俺の肩書きがみんな好きなんですよ。そして、俺が芽衣さんのことを好きになった理由は、この前話した通りです。けれど、もう一つ惹かれたキッカケは、いつもの保護猫カフェができた時、ネコのことを乱暴に扱うカップルがいたんです。スタッフがたまたま近くにいなかったので、俺も注意しようと思いました。だけど俺が注意する前に芽衣さんが果敢にも注意して、ネコを守って抱き抱えた時に、男から蹴られてしまって。痛かったと思うんですが、ネコを守って離さなかった。スタッフが来たので、その方たちはまずいと思ったのかすぐに退店しましたけど。その後、芽衣さんはネコに<ごめんね>って謝っていました。悪いことなんて何もしていないのに。きっと怖かったよねって意味で言っているんだろうなって思いました。優しい人なんだろうなって、その日から気になって。芽衣さんが魅せる顔に惹かれていきました」
あの時のことだ。覚えてる。
ネコを無理に抱っこしようとして、爪を立てられて、逆上したカップルがいた。
怖かったけど、ネコがケガをする方が嫌で。
身体が勝手に動いていた。
あのあとは、スタッフさんがフォローしてくれたし、それに
「あの時、最初に私に声をかけてくれた男性ってもしかして朝霧部長ですか?」
優しく声をかけてくれた人がいる。
カップルとの間に入って、私を守ってくれた人。
「覚えていてくれたんですね」
部長は嬉しいとだけ呟いた。
そうか、あの時から朝霧部長は私のことを気にしてくれていたんだ。気づかなかった。
思い出すと、なんだか懐かしいな。
部長に家の近くまで送ってもらい、帰宅をした。
「今日、楽しかったな」
そんな言葉が漏れた。
退勤後は、酷いことされて泣いていたのに。
支えてくれる人がいるだけで、こんなに強くなれるんだ。
「よしっ!」
私は朝霧部長に自分から初めてメッセージを送ることにした。
<今日はありがとうございました。楽しかったです>
するとすぐにピコンと通知が鳴り
<こちらこそ。楽しい時間をありがとうございました。また行きましょう>
朝霧部長からの返事にドクンと鼓動が鳴る。
返事が来て、嬉しいという感覚だ。
朝霧部長のことを考えると、明るい気持ちにもなれる。
私も朝霧部長のこと、少しずつ知っていけたらいいな。