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SOMAMON7A
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戦いに向けて
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禰󠄀豆子が太陽の光を克服したという報せが隊内に広まった。もちろん俺の耳にも柊依さんや無一郎を通じて届いた。そして、“痣”を発現させた者の寿命の話も。とてもショックだし悲しいけれど、いつまでもそのことを嘆いて過ごすわけにはいかない。無一郎と一緒にいられる時間を大切にしたい。柊依さんと無一郎との時間を。
禰豆子が太陽を克服した途端、鬼の出没がぱたりと止んだそうだ。恐らく、無惨が禰豆子を手に入れようと策を練っているのだろうという見解に至った。大きな戦いが近付いてきているのかもしれない。
鬼の出没が止んだということで、鬼殺隊では柱を中心とした稽古が行われることになった。隊士たちが順番に柱のもとへ赴き、稽古をつけてもらい、基礎体力や戦闘能力、剣の腕を上げていくのが目的だ。無一郎も霞柱として他の隊士を相手に稽古をすることになっている。でも柊依さんは今回、花柱としての柱稽古はしないらしい。迫りくる戦いに向けて、炭治郎から教わったヒノカミ神楽の精度を上げる為、1人で集中して稽古をするそうだ。あと、蟲柱の胡蝶さんも大事な研究があるとかで柱稽古は不参加らしい。
俺はというと、前線から離れて随分経っているけれど、柱稽古に参加することになった。無理は禁物だと柊依さんから釘を挿されながら、元音柱の宇髄さんのところの基礎体力向上訓練に向かった。
俺のことを知らない隊士たちは大勢いて、“霞柱の兄”に対して好奇の目を向けてきた。比較されるのは仕方ない。弟が柱にまで登り詰めたその一方で、兄さんのほうは戦えなくなって前線から離れていたんだから。でも気にしないよう努めた。鬼を倒したいのは俺だってみんなと同じなんだ。少しでも強くなって、少しでも長く敵と戦える力をつけなくちゃ。
宇髄さんの稽古が終わって無一郎の稽古へ。霞柱の稽古は花柱邸で行われるから一旦我が家に帰ってきたような感じだ。道場は霞柱の稽古の為に開放され、柊依さんは別の部屋でヒノカミ神楽を練習するんだって。せっかく帰ってきたのに柊依さんに会えなくて寂しいと思ったけれど、毎度の食事の用意は隠の人たちと、柊依さんも一緒にしてくれると聞いてものすごく嬉しかった。食べる時も隊士たちと一緒に過ごしてくれるから、優しくて綺麗で料理上手な花柱に、みんな癒やされていたと思う。稽古では無一郎に容赦なく吹っ飛ばされ、淡々とした態度で投げかけられる辛辣な言葉に身も心も削られていたから尚更。
「柊依さん」
『あら、有一郎くん。どうしたの?』
夜、廊下で会った柊依さんに声を掛けた。まだ隊服姿だ。
「無一郎の稽古に合格したから、俺、明日から甘露寺さんのところに行ってくるね」
『そっか。有一郎くんも頑張ってるね』
柊依さんがふわりと微笑む。安心する笑顔。俺の大好きな笑顔だ。
「柊依さん、まだ神楽の練習してたの?」
『うん。もう少しお稽古したら今夜は終わりにしようかなって。ちょっと休憩してきたところ』
「…俺も見てていい?ヒノカミ神楽」
『いいよ。じゃあ行きましょ』
「うん」
柊依さんがヒノカミ神楽を練習している部屋に行く。炭治郎に教わった時に使った大きめの全身鏡が置いてあった。
邪魔にならないよう隅っこに腰を下ろす。
柊依さんが鏡に映るところに移動し、深呼吸をひとつして剣を構えた。
「…!」
構えただけなのに。部屋の中の空気が変わった。水を打ったような静けさ。窓から射し込む月の光が柊依さんを照らす。
柊依さんが舞い始めた。少し前に一緒に稽古した時とは比べ物にならないくらい、神楽の精度が上がっていた。下手すりゃこれを教えてくれた炭治郎より滑らかでしなやかかもしれない。
俺は瞬きするのも忘れて柊依さんの舞うヒノカミ神楽に見入っていた。
12個の型全てを舞い終えた柊依さん。炭治郎でさえ終わった途端、疲労困憊で床に倒れ込んでいたのに、今の彼女は息ひとつ乱していない。
『…どうかな?』
柊依さんがこちらを見てたずねる。
「す…、すごい!めちゃくちゃ綺麗だったし格好よかった!柊依さん、疲れてないの?」
『ありがとう。…そうね、最近不思議と疲れにくくなったの。身体の使い方が分かってきた感じ。炭治郎くんのお父さんが仰ってたことが今なら何となく分かるわ』
柊依さんが笑った。とても綺麗だった。それと同時に少し怖くなった。神楽を舞っている時の柊依さん、なんだか精霊みたいで。力強くて格好いいのにどこか儚げで、危うい美しさがあった。
「…柊依さんは、“あの夢”まだ見る?」
『うん。柱稽古が始まって、自分も神楽の稽古をするようになってからは毎日のように見るわ。相変わらず内容は同じ』
「そうなんだ……。ほんと何なんだろうね…」
『分からない。でもきっと何か意味があるのよね。強い鬼や無惨を倒す為のヒントになってるんだと思うの。夢の真相なんて分からないけど、利用できそうなものは夢でも何でも利用してやらなくちゃね』
「そうだね」
もう今夜の稽古を終わると柊依さんが言うので、ヒノカミ神楽の練習部屋を後にした。
何となく、まだ柊依さんと一緒にいたくて、俺は柊依さんがお風呂に行っている間、彼女の部屋で待たせてもらうことになった。
机の上にはあの3連の写真立て。そのうちの1枚は初めて鬼殺隊の制服を着た日に撮った記念写真。…この数年で色々あったな。鬼に襲われたり、柊依さんに助けてもらって鬼殺隊に入って。任務に出たり鬼と戦ったり、血鬼術にあてられて戦えなくなったり、怪我したり、具合が悪くなったり、任務に出なくなったり。
どんな時でも俺や無一郎の味方でいてくれた柊依さん。彼女の家族を皆殺しにした無惨をやっつけられるなら、俺も全力で戦う。そして、大好きな柊依さんと無一郎と穏やかに幸せに暮らすんだ。
『ただいま』
「あ、柊依さん。おかえりなさい」
浴衣姿の柊依さんが部屋に戻ってきた。
「…柊依さん…、抱き着いていい?」
『いいよ。おいで』
両腕を広げた柊依さんにぎゅっと抱き着く。柊依さんも優しく俺を包み込んでくれる。石鹸のいい香り。規則正しく響いてくる心臓の音。
…ひょっとしたら、これから始まる大きな戦いでどちらかが、あるいはどちらも命を落とすかもしれい。その戦いが始まるのは、もしかしたら明日かもしれない。覚悟はしているのに、そのことを考えるとやっぱり怖い。柊依さんが死んじゃったらどうしよう。無一郎が死んじゃったらどうしよう。2人が生き延びても俺が死んでしまったらこうやって温もりを感じることも会話をすることもできなくなってしまう。
涙が込み上げる。堪える間もなく瞼の淵から溢れ出して、顔をうずめた柊依さんの肩に吸い込まれていく。
「……ぐす…」
鼻を啜る湿った音が静かな部屋に響く。
『…有一郎くん』
柊依さんがそれまでよりも少し力を込めて俺を抱き締め直した。
『どんな戦いになるか、何人生き残れるのか、結末は誰にも分からないけど、みんなで力を合わせれば絶対に無惨を倒せる筈よ。鬼を滅ぼすことができたら、無一郎くんと3人でいっぱい楽しいことしよう。美味しいものを食べて、旅行に行って、穏やかに暮らしましょ。…だから、ね…』
そこまで言って、柊依さんがひと呼吸置いてからまた口を開いた。
『どうか死なないで。鬼殺隊にいる以上、無惨たちと戦う以上、こんなの無茶なお願いだと重々承知よ。でも私、あなたたちのことを失いたくない。私も何としてでも生き延びられるよう努力する。3人で一緒に幸せになるの。いいわね?』
「…うんっ、うんっ!絶対に無惨を倒して、柊依さんと無一郎と一緒に幸せに暮らしたい…!」
涙で喉がつかえて思うように喋れないけれど、どうにかこうにか約束できた。
しばらくして俺が落ち着いたところで、ゆっくり身体を離す。濡れた頬を、柊依さんがそっと手で拭ってくれた。
『そろそろ寝ましょうか』
「うん」
『一緒に寝る?』
「!…いいの?」
『いいよ。明日から蜜璃ちゃんのとこに行くんでしょ?枕持っておいで』
「うん!ありがとう」
俺は一旦自室に枕を取りに行き、再び訪れた柊依さんの部屋で彼女と同じ布団に潜り込んだ。
『おやすみ、有一郎くん』
「おやすみなさい、柊依さん」
また我が儘を言って、柊依さんに抱き締めてもらった状態で目を閉じる。
あったかい。安心する。大好き。柊依さん、大好き。
柔らかな石鹸の香りに包まれて、俺はゆっくりと意識を手放した。
続く
コメント
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みぅです🤍🥀 第20話、読み終えました。有一郎くんの「柊依さん」への想いがまっすぐで、胸がぎゅっとなりました。ヒノカミ神楽を舞う柊依さんの“精霊みたいで儚げ”な描写、すごく美しくて怖いくらいでした。でも一番好きなのは、夜に二人で交わす「死なないで」「一緒に幸せになる」って約束。泣きながら抱きしめ合うシーン、切なくて温かくて…。無一郎くんも含めた3人の絆、ずっと続いてほしいです。次の戦い、どうか無事でいてほしい…🌙