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柊の指先が、義理の姉を心配していた男、佐藤を真っ直ぐに捉えていた。
静まり返ったリビングで、人々の反応は三者三様だった。
ひろみは、柊が浩太郎の居所を「視て」くれたことに歓喜し、祈るように両手を合わせている。
警察官たちは、あまりにも唐突な展開に眉を潜め、この霊能力が本物かどうか疑わしげに柊と佐藤を交互に見つめている。
ママ友の吉田は、状況が飲み込めず、ただきょとんとしたまま口を半開きにしていた。
その中で、佐藤だけが明らかに異質だった。彼の顔には希望も、困惑もない。ただ、内側から溢れ出すようなどす黒い不安だけが、パツパツのスーツの下で波打っていた。
「……何……何を言っているんだ。君、正気か?」
佐藤は引き攣った笑いを浮かべ、額の汗を手の甲で拭った。
「私が犯人だと? そんな馬鹿げた話があるか! 証拠は……証拠はどこにある! 私は義姉さんと浩太郎くんを助けたくて、金の手配までしようとしていたんだぞ!」
「君は僕が霊視をし始めたとき、不安そうになっていた。他の者は喜んでいたり、困惑していたり、疑っていたり。事件の真相が判明しそうになって不安になるのは、犯人だけだ」
室内の全員が柊の言葉に集中し、固唾をのんで容疑者とのやり取りを見守る。
「佐藤さん。君は金に困っている。仕立てのいいスーツも、よく見れば生地がくたびれ、袖口は擦り切れている。今回の目的は、ひろみさんの財産を自分のものにすることだろう。だが、君には子供を殺すほどの度胸はない。そんなタマじゃないな」
柊は冷めた瞳で、佐藤の「嘘」を淡々と暴いていく。
「浩太郎君に目隠しをさせているのは、姿を見られたら困るからじゃない。知り合いだからだ。後で君自身が『霊能力で見つけた』と称して助け出し、ひろみさんの揺るぎない信頼を得るためだ。ひろみさんは霊感商法に弱い。君はあの子を解放した後、自分にも霊感があると嘘をつき、ヒーローとしてこの家に居座り、金を吸い上げるつもりだったのさ。……いわば、誘拐の自作自演だ」
「……憶測だ! 全部デタラメだ! 証拠なんてどこにもないじゃないか!」
佐藤が狂ったように叫ぶ。だが、柊はさらに冷たく突き放した。
「じゃあ、今すぐ君のこれまでの行動を探ろうか。身の回りの物を徹底的に調べれば、監禁場所もすぐに特定できるし、メールをタイマーで送った通信履歴も必ず出てくるはずだ。……どうだい? 今すぐここで、君のスマートフォンを警察に提出してくれないか」
「……いやだ。拒否する!」
佐藤が後ずさりし、リビングの出口へ向かおうとした。
「——動くな」
乾いた金属音が響いた。私がホルスターから引き抜いたのは、警察官としての重みそのものである拳銃。
黒光りする銃口を、震える佐藤の眉間に真っ直ぐに向ける。
「南くん……!」
警察官たちから驚愕の声が上がるが、私は視線を逸らさなかった。佐藤のこの拒絶だけは、何よりも雄弁に真実を語っていた。
「吐け。浩太郎君はどこにいる」
私の声は、自分でも驚くほど低く、鋭かった。銃口越しに見える佐藤の瞳が、恐怖で細かく痙攣する。
正義感も、手続きも、今はどうでもいい。一刻を争うあの子の命を、この男の身勝手な嘘の犠牲にさせるわけにはいかない。
「……ひ、……ひっ!」
死の予感を突きつけられた佐藤は、ついにその場に膝をついた。
「……あ、あの……近くの、建設会社の資材置き場です……地下に、貯水槽があって……。鍵は、私の車のダッシュボードに……。殺すつもりはなかった、ただ……ただ、感謝されたかっただけなんだ……!」
佐藤は顔を覆い、子供のように泣き崩れた。
「……南さん、お見事。やっぱり君のキレは最高だね」
柊が背後で楽しげに笑った。
私は銃を収めながらも、激しく波打つ鼓動を抑えることができなかった。
不協和音が止み、代わりに緊急車両のサイレンが遠くから近づいてくる。真実が暴かれた瞬間は、いつもひどく冷たく、残酷だということがわかった。
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