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佐藤の自白に基づき、特殊犯捜査係が急行した先は、住宅街の目と鼻の先にある建設会社の資材置き場だった。
地下の貯水槽の重い蓋が開けられ、暗闇の中から泥だらけで震える浩太郎くんが助け出された。
「浩太郎……! 浩太郎!」
ひろみさんは絶叫し、泥も厭わず息子を抱きしめた。浩太郎くんは母親の胸で声を上げて泣きじゃくった。その光景は、誰が見ても心を打たれる親子再会の儀式だった。
その様子を冷めた目で見守っていた柊さんに、特殊犯捜査係の刑事が歩み寄った。
「……驚いたよ、コンサルタントさん。水の音に機械音、湿ったコンクリート。どうやってあの場所だと分かったんだ。本当に視えたのか?」
「まさか」
柊さんは退屈そうに鼻を鳴らし、ひらひらと手を振った。
「誘拐犯が子供を隠し、かつ自分ですぐに見つけ出せる場所なんて、地下室か資材置き場、あるいは工事現場くらいなものだ。どこにでも当てはまる特徴を並べただけだよ。水、コンクリート、機械音。現代でそれがない場所を探す方が大変だ……佐藤が勝手に、自分の犯行現場を僕の言葉に当てはめて自滅してくれた。ただの心理的な誘導さ」
柊さんはそう言い残すと、役目は終わったとばかりに背を向けた。
救出された浩太郎くんが救急車で搬送されるのを見送った後、ひろみさんがふらつく足取りで柊さんに歩み寄る。その瞳には、かつて「加賀美」という偽名の詐欺師に向けられていたものと同じ、盲目的な崇拝の光が灯っていた。
「柊さん……やっぱり、あなたは本物だったのね」
ひろみさんは柊さんの手を握ろうとして、彼に冷たくかわされる。
「あんなに正確に言い当てるなんて、やっぱり霊能力で視てくれたんでしょう? あなたが救ってくれたのよ、浩太郎を」
柊さんは溜息をつき、ひどく退屈そうに彼女を見下ろす。
「……ひろみさん。いい加減に目を覚ましたらどうだい。さっき言ったことは、ただの出まかせだ。監禁場所なんて見当をつけて、それらしい特徴を並べただけだよ」
「でも、あんなにぴたりと……」
「それは、君の義弟が勝手に自爆しただけだ。昔の霊感商法と同じだ。……君は、僕のような人間に原価0円の水や石を『奇跡』だと言われて、しこたま買わされていたことを忘れたのかい?」
柊さんの言葉は、感謝に震える彼女の心を容赦なく切り裂く。
「ひろみさん。君がそんなに脆いから、僕のような人間に付け込まれ、親族にまで利用されるんだ」
柊さんの声は、冬の夜風のように低く、鋭い。
「君がしっかりしなくてどうする。君が自分自身の足で立って、真実を見極める目を持たない限り、また別の詐欺師が現れて、君と浩太郎くんを食い物にするだろう。……あの子を守れるのは、霊能者でも警察でもない。母親である君だけだ」
ひろみさんは絶句し、大粒の涙をこぼした。
「二度と、僕のような詐欺師に騙されないで。君のその信じたい、という純粋さは、悪意を持った人間にとっては最高の好物なんだ。……自分の息子を、自分の力で守りなよ」
柊さんはそれだけ言うと、一度も振り返ることなく歩き出す。
「……柊さん、少しは手加減してあげたらどうですか」
私のつぶやきは空に消えた。
現場の撤収作業が続く中、私と柊さんは夜の住宅街を駅に向かって歩いていた。
柊さんは、隣を歩く私の腰元をちらりと見て、不意に口を開いた。
「……ところで南さん。日本の刑事って、普段から拳銃を携帯しているものなのかい? ドラマと違って、実際は署の金庫に預
けているものだと思っていたけど」
「……基本的には、そうですね。勤務中、特に強盗事件などの凶悪犯罪の現場でなければ、持ち歩くことはありません」
「じゃあ、君のそれは? さっきの抜き方は、とても臨時で持たされた人のそれじゃなかったけど」
私は足を止め、夜の静寂を見つめた。
「あなたと行動を共にするときは、特別に携帯許可が下りるんです。……なにか柊さんが良からぬ企みをしたり、逃亡を計ったりした場合は、私の判断で撃っていいことになっています」
「……マジで?」
「マジです。それが、元詐欺師のコンサルタント契約書の中に、しっかりと盛り込まれているはずですよ」
柊さんは目を見開き、数秒間絶句した。それから、ひどく悔しそうに前髪をかき上げた。
「……詐欺師としたことが、契約書の細かい条項を読み飛ばしていたよ。そんな暴力的な項目、普通は拒否するんだけどな」
「……ただ、私のその役目も、今日までかもしれません。しばらくは謹慎処分になりそうなので、次からは小宮さんが担当になります」
「謹慎? どうして。君はあの子を救った英雄じゃないか」
「容疑者の眉間に拳銃を突きつけて脅したんですよ。明らかな過剰防衛、あるいは不適切な職務執行です。間違いなく謹慎、場合によっては解雇もあり得ます」
私の言葉に、柊さんは足を止め、私をまっすぐに見つめた。
「……南さん。君らしくない。正義感が強いとはいえ、あんなリスクを冒してまで佐藤に激昂したのは、なぜだ? 君は、彼が犯人だと確信した瞬間に怒った」
私は、迷った。どこまで話すべきか。いや、隠してもこの人にはどうせバレるんだろう。
そう判断し、私は重い口を開いた。
#オリジナルキャラクター有り